焦点:アラビア半島で広がる「イスラム国」の攻撃網

焦点:アラビア半島で広がる「イスラム国」の攻撃網
 7月1日、クウェートで先月26日に起きた同国史上最悪の自爆攻撃。治安当局者は、アラビア半島で「イスラム国」の攻撃網が広がっていることを懸念している。クウェート市で6月27日撮影(2015年 ロイター/Alaa Al-Marjani)
[クウェート/ドバイ 1日 ロイター] - クウェートで先月26日に起きた同国史上最悪の自爆攻撃。実行犯であるサウジアラビア国籍の男が同日未明に空路で入国した時、現地ではすでに、爆発物を仕掛けたベストやクウェート式のローブ、目的地までの車と運転手などの手配がすべて整っていた。
この事件では27人が死亡し、「イスラム国」が犯行声明を出した。
治安当局筋によれば、爆発物付きのベストは事件の数日前、手の込んだ方法でサウジから船で運び込まれていた。このことは、イスラム国が今や、アラビア半島全域で戦闘員や同調者らでつくる高度なネットワークを自由に操っていることを示唆する。
クウェートの現地報道などによれば、実行犯であるファハド・ガッバーア容疑者がバーレーン経由でクウェート入りした時に接触した人物の中には、10年前にアルカイダが同国で起こした攻撃に関与している者もいたという。
同容疑者が入国してから数時間後の監視カメラの映像には、ローブの下に爆発物付きベストを着こんだように見える若い男が、イスラム教シーア派のモスク(礼拝所)に入る場面が映っている。モスクでは約2000人が集団礼拝中だったが、男は一息置いた後、身に付けていた物を爆発させた。
男がモスクに侵入した際、不審者を問いただせるような位置には数人しかいなかったが、このことも、国境をまたいだ犯行グループが入念な準備をしていたことをうかがわせる。
今回の自爆攻撃は、過激派による犯行としてはクェート史上最悪の事態。アラビア湾に面する君主制国家6カ国(サウジ、クェート、バーレーン、アラブ首長国連邦、オマーン、カタール)にとっても、死者35人を出した2003年5月のリヤド連続爆弾攻撃以来で最多の犠牲者数となった。
当局者が懸念するのは、これが、資源豊富な中東湾岸諸国を狙った爆弾攻撃のモデルとなる恐れがあることだ。上記6カ国同士では渡航にビザは不要なため、サウジ国内に多くいるイスラム過激派の中から選ばれた実行犯が空路や海路で周辺国に向かい、現地シンパと協力して攻撃を行うというものだ。
<より変幻自在な脅威>
アルカイダの元メンバーで、現在はドバイで危機管理コンサルティング会社を運営するアイメン・ディーン氏は、2003─06年当時のアルカイダに比べ、イスラム国の「細胞組織」は追跡が難しく、「より変幻自在な脅威」を与えていると指摘する。
その背景には、暗号化メッセージシステムの普及により、各地に分散した武装組織を海外から直接指揮できるようになったことがある。ディーン氏によれば、2003─06年にサウジで活動していたアルカイダは中央管理体制だったという。
先月26日にはクウェート以外でも、チュニジアとフランスで過激派による攻撃があり、世界的に非難の声が上がった。タイミング的には、イスラム教徒が神聖視するラマダン(断食月)の中でも集団礼拝が行われる金曜日であり、イスラム国が「カリフ」(預言者ムハンマドの代理人)を頂点とする国家の樹立を宣言して約1年という節目でもあった。
クウェートでの自爆攻撃に関する米国の捜査に詳しい関係筋によると、ガッバーア容疑者は、サウジ国内にあるイスラム国傘下組織の重要メンバーとみられている。
クウェート当局は、爆発物付きのベストが運び込まれたサウジとの国境付近で監視カメラの映像を調査している。
モスクでの爆発から数時間後には「イスラム国ナジュド州」を名乗るグループが犯行声明を出し、その直後にはガッバーア容疑者の声とする音声クリップを公開した。このグループは、サウジ国内で起きた2件のシーア派攻撃事件でも犯行声明を出していた。
ナジュドとは、サウジの首都リヤドがある同国北中部の高原地帯を指す。またイスラム教スンニ派の中でも特に戒律が厳しいワッハーブ派(サウジの国教)の本拠地でもある。
アラブ有力紙アルハヤトの報道によると、ナジュドの一部カシーム州出身のガッバーア容疑者は、大学を中退して過激派に傾注。治安当局に拘束された容疑者の釈放を求めるデモに参加したことがあり、武装組織に加わろうとイラクとシリアへの渡航を試みたこともあったという。
6月30日付のクェート紙カバスは、今回の自爆攻撃に関与した疑いで訴追された5人はともに、海外から資金援助を受けていたことを認めていると報じた。
<交差する過去と現在>
各紙の報道では5人の身元は明らかになっていないが、計画に深く関わっていた人物も含まれているという。
当局によれば、5人のうち1人は車の運転手。クウェート紙によれば、警察がこの運転手を発見した場所は、2000年代半ばに活発だったアルカイダ系組織に関与して服役していた人物が所有する家だった。
この組織のメンバーらは当時、クウェート駐留米軍への攻撃を計画しており、2005年にはクウェート市で起きた銃撃戦にも参加していた。同銃撃戦では、イスラム過激派9人と治安部隊4人が死亡した。
当局は今回の自爆攻撃で使われた車の持ち主を特定しているが、消息筋によれば、この人物の兄弟はシリアでイスラム国に参加しているという。
(原文:Angus McDowall and William Maclean、翻訳:宮井伸明、編集:伊藤典子)

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