インタビュー:量的緩和による行き過ぎた円安に懸念=自民・柴山氏

インタビュー:量的緩和による行き過ぎた円安に懸念=自民・柴山氏
 10月14日、自民党の柴山昌彦・財務金融部会長は、ロイターのインタビューに応じ、日銀による量的緩和政策の結果、行き過ぎた円安がもたらす原材料高などが中小企業経営を圧迫する実情を懸念した。写真は、自民党本部、2009年撮影(2014年 ロイター/Stringer)
[東京 14日 ロイター] - 自民党の柴山昌彦・財務金融部会長は14日、ロイターのインタビューに応じ、日銀による量的緩和政策の結果、行き過ぎた円安がもたらす原材料高などが中小企業経営を圧迫する実情を懸念した。
今月末に予定する同党の財務金融部会と内閣部会の合同会議で、あらためて問題提起を行う考えを明らかにした。
<行き過ぎた円安には、財界が対応に苦慮する副作用>
一時1ドル110円台に乗せた最近のドル高/円安進行について、柴山氏は「第一の矢である『大胆な金融緩和』をロケットスタートとした、現在のアベノミクスは失敗とは全く思っていない」と語った。
ただ、同氏は「物事にはバランスとペースがある。短期に、あまりにも急速に円安が進めば、経済界が対応に苦慮する副作用が出てくる」と述べ、円安がもたらす原材料高が中小企業経営を圧迫し、消費税率引き上げとあいまって、実質賃金の伸び悩みにつながっていると懸念した。
<「アベノミクスの失敗」論に反論、円高是正で100円程度は想定>
大胆な金融政策は、安倍政権の経済政策「アベノミクス」の一丁目一番地と位置づけられ、政権発足後、異次元緩和による円高是正と株高がデフレ脱却と景気回復の起点となっていた。
しかし、ここにきて、円安でも輸出は伸び悩み、野党からは「アベノミクスの限界」(前原誠司元国家戦略担当相)との批判も浮上している。
自民党内からあえて問題提起を行うのも、円安進行に対する警戒感が強いため。柴山氏は、米国の利上げ観測がくすぶるなか、日本が追加緩和を行うと言った瞬間に「円安は加速する」と警戒する。
一方で、「アベノミクスが失敗だったという議論には組みしない」と反論。「民主党政権時代には、(ドルが)80円を切るところまで円高が進み、輸出産業はじめ、多くの分野で悪影響を及ぼしたことは事実だ。円高不況を解消しデフレからの脱却を図ることがアベノミクスの眼目だ。円高是正で100円という水準は想定された」と述べ、100円程度のドル高/円安は容認する姿勢を示唆した。
一方で「物事には適切なペースと程度がある。行き過ぎると副作用がある」と語り、自身の問題提起が「(想定以上に)急速に円安が振れると、副作用が出る」ことを憂慮した結果だと強調した。
<金融政策の行き過ぎには修正対応も>
そのうえで金融政策について柴山氏は「過度な円安について注意深くみて、必要とあれば、個別の事象に応じた修正対応は是非やってもらわないと困る」と提言した。
もっとも、柴山氏は「物価目標をもつゴールに全く異論はない。安定的な物価水準を達成して欲しい」と述べ、「2%の物価安定目標の旗を降ろす必要はない」と指摘。
「最も優先すべきは、2%の物価安定目標の達成だ」としたが、「物価目標達成の目標は共有するが、そのために、行き過ぎた過度な円安を誘導したりすることがよいのか。金融緩和だけが唯一の手段なのか、もう少し考える必要がある」とも語り、金融政策以外では海外投資家の関心が高いカジノ法案(IR推進法案:特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案)の成立など成長戦略を総動員する必要があるとした。
柴山氏は月内に合同会議を開き、あらためて「金融緩和をどうすべきかというい点について、具体的な議論を行う」考えも明らかにした。
金融政策をめぐっては、村上誠一郎元行政改革担当相が金融緩和の出口戦略に言及したり、10月7日に開催された自民党総務懇談会では金融政策について意見交換する場を政務調査会に設置する案が提示されていた。これに対して、稲田朋美政調会長は、経済政策などを検討する財務金融部会があり、「屋上屋」となりかねない検討機関の設置には否定的で、財務金融部会と内閣部会の合同部会が議論を集約する場となりそうだ。
<IR法案、臨時国会での成立に期待>
カジノ議連(超党派の「国際観光産業振興議員連盟」)のメンバーでもある柴山氏は、IR法案の成立が先送りになりかねないことに懸念し、「なんとか臨時国会で成立させて欲しい」と期待した。
IR法案の経済効果にも期待を寄せ、柴山氏は「東京オリンピック開催まで6年のこのタイミングが、ギリギリのタイミングだ」と指摘。修正協議で「過度に日本人だけを排除することには個人的には反対だ」とし、自国民に一定程度のエントリー・フィーを課しているシンガポールの仕組みが参考になると期待した。

吉川裕子 梶本哲史 編集:田巻一彦

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