焦点:イランとサウジの正常化電撃合意、米の影響力低下鮮明に

焦点:イランとサウジの正常化電撃合意、米の影響力低下鮮明に
 イランとサウジアラビアが電撃的に外交正常化で合意したことは、イランの核開発抑止につながる可能性やイエメンでの停戦を確固たるものにするチャンスをもたらすという意味で、米国にとって関心をそそられる要素が多々ある。写真は左から、サウジのアイバン国家安全保障顧問、中国外交担当トップの王毅氏、イランのシャムハニ最高安全保障委員会事務局長。10日に北京で撮影された提供写真(2023年 ロイター/China Daily via REUTERS)
[ニューヨーク/ワシントン 10日 ロイター] - イランとサウジアラビアが電撃的に外交正常化で合意したことは、イランの核開発抑止につながる可能性やイエメンでの停戦を確固たるものにするチャンスをもたらすという意味で、米国にとって関心をそそられる要素が多々ある。
しかし、米国が長年にわたり影響力を行使してきた中東地域で中国が和平の仲介役を担ったことに対し、米政府当局者は不安をかき立てられてもいるのも確かだ。
イランとサウジは、北京での4日間にわたる非公開協議を経て10日に合意を発表した。米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は同日、米政府は合意に直接関与していないが、サウジから報告を受けていたと明かした。
米国と中国は通商から情報活動に至る様々な分野で激しく対立し、両国から遠く離れた地域でも影響力を競う場面が増えている。
カービー氏は10日の合意における中国の関与を重要視しない態度を見せ、イランまたはその代理勢力からの攻撃に対するサウジの効果的な抑止力を含む内外の圧力が、最終的にイランを交渉のテーブルに着かせたというのが、米政府の見解だと述べた。
だが、元米政府高官でブルッキングス研究所のジェフリー・フェルトマン氏は、今回の合意で重要なのは、6年ぶりの外交正常化よりも中国の役割だと指摘。「この合意は、バイデン政権に対するパンチとして、また、中国が台頭している証拠として受け止められるだろうし、この解釈はおそらく正しい」と述べた。
<イラン核協議>
2015年のイラン核合意の修復に向けた米国の取り組みは2年間にわたり進展せず、イランは核開発を加速している。今回の合意は、こうした情勢下でまとまった。
核合意修復の取り組みは、イラン当局による抗議活動への暴力を伴う弾圧、人権侵害を理由とする米国の対イラン制裁などで複雑化している。
中東研究所のブライアン・カトゥリス氏は、米国とイスラエルが今回の合意により、サウジをパートナーとし、停滞するイラン核合意修復に向けた協議を復活させる「新たな可能性」を手に入れると分析。「サウジはイランの核開発計画を深く懸念している。イラン・サウジ間の新たな協議が有意義かつインパクトを持つものになるには、イランの核開発計画に関する懸念に対処する必要があり、そうでなければうわべだけのものになる」と付け加えた。
今回の合意は、2014年に勃発したイエメン紛争に、より持続的な和平の希望をもたらす面もある。イエメン紛争はサウジとイランの代理戦争との見方が一般的だ。
イエメンでは昨年4月、国連の仲介で停戦が成立した。停戦合意は昨年10月に期限が切れたが、当事者間で延長の合意がないまま、停戦状態がほぼ維持されている。
<中国の台頭>
オバマ政権下で米国の東アジア外交トップを務めたダニエル・ラッセル氏は、中国が合意の仲介を担ったことは米政府にとって「重要な意味」を持つだろうと述べた。中国が自ら動き、当事者になっていない紛争で交渉の仲介を手伝うのは異例だという。
「問題は、今後も似たようなことが起きるかどうかだ」と中国が別の地域の紛争で仲介役を担う可能性に言及。「習近平国家主席がモスクワを訪問すると、ロシアとウクライナの間で中国が仲介を担う前触れになるのだろうか」と疑問を投げかけた。
イランに関しては、今回の合意が米国にとってプラスになるかどうか分からない、とインターナショナル・クライシス・グループのシニア・イラン・アナリスト、ネイサン・ラファティ氏は分析する。「難点は、米政府と西側の同盟国がイランに対する圧力を強めているタイミングに当たったことだ。イランは、これで孤立を解消し、中国の役割を踏まえて大国の援護を受けることができると考えるだろう」と懸念を指摘した。
米政界では、中国政府が今回の合意に関与した動機について、既にいかがわしいとの見方が出ている。米下院外交委員会の委員長を務める共和党のマイケル・マッコール下院議員は、中国が自称する平和の仲介者を否定。「責任ある利害関係者ではなく、公正・公平な仲介者として信頼できない」と突き放した。
カービー氏は、米国は中東やその他の地域での中国政府の行動を注意深く監視していると釈明。「中東、アフリカ、中南米における中国の影響力に、われわれが目をつむっているわけではない。中国が自分たちの利己的な利益のために、世界の他の地域で影響力や足場を得ようとするのを、確かに監視し続けている」と力説した。
それでも、中国政府の関与は、中国のパワーと影響力の増大という受け止めに拍車をかけ、米国の世界的な存在感の低下という見方を強める、と戦略国際問題研究所のジョン・アルターマン氏は見ている。「中国が送っているメッセージは明らかで、米国は中東湾岸地域で圧倒的な軍事力を持つが、中国は強力で、間違いなく外交的な存在感を高めているというものだ」と指摘した。
(Phil Stewart記者、Michelle Nichols記者)

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