コラム:マクロデータで分からない米国の「消費格差」

コラム:マクロデータで分からない米国の「消費格差」
7月28日、 米国は不鮮明な形ながらも景気後退(リセッション)に突入したのかもしれない。ニューヨークのスーパーで6月撮影(2022年 ロイター/Andrew Kelly)
Gina Chon
[ワシントン 28日 ロイター Breakingviews] - 米国は不鮮明な形ながらも景気後退(リセッション)に突入したのかもしれない。
第2・四半期国内総生産(GDP)速報値は前期比年率0.9%減となり、景気が減速していることを物語っている。一方別のデータは底堅さを示しており、恐らく長期的で幅広い経済の落ち込みだと正式に認定される事態はぎりぎり避けられるだろう。しかし経済をミクロレベルまで掘り下げてみれば、富裕層による「大盤振る舞い」の裏に、低所得層が直面する非常に厳しい状況が隠れていることが分かる。
米経済全体が2期連続のマイナス成長を記録した中で、消費関連ではマイナスとプラスの双方の要素が見て取れる。企業が抱える最終製品と原材料の在庫は前年比で縮小し、成長率を2ポイント押し下げた。半面、旅行などのサービス支出は4.1%増加。富裕層の寄与を通じてこうした支出活動は新型コロナウイルスのパンデミック発生前の水準に近づいてきた。
もっとも米経済における富裕層の役割が突出して大きいことで、全体像が歪められている。国勢調査局の区分で年間所得20万ドル以上とされる上位10%の所得階層は、実に個人消費に占める比率が約50%に上る。この比率は、年間所得3万ドル未満の下位20%の所得階層では10%に届かず、しかもほとんどの支出は住宅や食料といった必需品に向けられる。
このため、個別企業の声を聞く方がより微妙な現実の姿を映し出してくれる。例えば今週、小売り大手ウォルマートは顧客が生活必需品以外の支出を減らしていると警鐘を鳴らした。通信大手AT&Tは一部顧客の間で料金支払いに遅れが生じていると明かした。ところが同業ベライゾン・コミュニケーションズによると、信用スコアが比較的高い顧客に関しては、パンデミック直前よりも今の方が料金はきちんと支払われているという。
富裕層を主な対象とする企業はインフレ圧力が生み出す逆風ともほぼ無縁だ。メルセデス・ベンツは27日、好調な受注を理由に販売台数と売上高の年間見通しを引き上げた。「ルイ・ヴィトン」や「ティファニー」といったブランドを展開する仏LVMHは、上半期に全部門の売上高が増加し、米国も24%の増収になったと発表した。
GDPを構成するマクロデータは、こうした所得階層間の状況の違いを勘案しない。ルイ・ヴィトンの小さな財布の価格3300ドルは、農務省の統計に基づくと「ほどほどの」消費習慣を持つ成人1人による10カ月分の食費にほぼ等しい。米経済の構造では、所得階層の底辺が最も脆弱に見えるのが今の状況だ。
●背景となるニュース
*米商務省が28日発表した第2・四半期国内総生産(GDP)速報値は、前期比年率が0.9%減だった。第1・四半期の1.6%減に続くマイナス成長。ロイターがまとめたエコノミスト予想は0.5%増だった。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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