コラム:銃規制とゼロ金利政策の共通点

コラム:銃規制とゼロ金利政策の共通点
 1月5日、オバマ米大統領は任期最終年を迎えるなか、自身の政権で3度目となる銃バブルの口火を切った。カリフォルニア州の銃器販売店で撮影(2016年 ロイター/Mike Blake)
Rob Cox
[ニューヨーク 5日 ロイター] - オバマ米大統領は任期最終年を迎えるなか、自身の政権で3度目となる銃バブルの口火を切った。
購入者の身元調査を義務付ける銃販売業者の対象を拡大する大統領令が5日に発動されるわずか数時間前、銃器メーカーのスミス・アンド・ウェッソン・ホールディングは同社株主に朗報をもたらした。2015年11月─16年1月期の業績見通しを上方修正し、売上高が当初予想と比べて最大で20%増加すると4日夜発表した。
米銃社会の世界では、銃器という最も危険な部類の消費者製品を扱う販売業者にとって悪いはずのニュースが、とても良いニュースとなる。だが過去のブームが示しているように、需要の先取りは将来に起こり得るトラブルを蓄積することになりかねない。
しかし差し当たり、銃器メーカー大手のビジネスは大いに活況を呈している。歴史的に武器の製造場所として知られるマサチューセッツ州スプリングフィールドを拠点とするスミス・アンド・ウェッソンがそのいい例だ。
オバマ大統領がホワイトハウスにギフォーズ元議員や他の銃犠牲者の親族を集める前夜、同社は声明で第3・四半期の売上高予想を、当初の1億5000万─1億5500万ドル(約178億─183億9000万円)から1億7500万─1億8000万ドルに上方修正。同社の株価は約12%上昇した。
スミス・アンド・ウェッソンの株が過熱し始めたのは、12月2日にカリフォルニア州サンバーナディーノで14人が犠牲となった銃乱射事件が起きてからだ。容疑者の夫婦はライフル銃AR-15や半自動小銃を使用していた。時に過剰な反応を引き起こす米国の銃規制問題は、同事件により新たな局面を迎えた。
オバマ大統領が議会を説得して銃規制強化法案が可決されるのではないかという懸念の高まりが主な要因となり、過去に2度、銃器メーカーの株価が上昇したことがある。
最初は2007年、翌年の大統領選に出馬したオバマ氏の勢いが増したときだ。同年、スミス・アンド・ウェッソンの株価は倍増し、21ドルを超えた。しかしオバマ氏が大統領に就任し、新たな銃規制法の成立に失敗すると、同社の株価は1株当たり2ドルを下回る水準にまで下落した。
その後、再びブームが訪れるのは2012年12月、コネティカット州ニュータウンのサンディフック小学校で起きた銃乱射事件の後になる。同事件で児童20人と教師6人がブッシュマスター製AR-15の凶弾に倒れると、オバマ大統領はすべての銃販売に身元調査を義務付ける法律の制定を求めた。
法案は否決されたが、銃の売り上げは法案が可決されると見込んで急増した。さらには、コネティカットなど一部の州が、AR-15など特定の武器販売禁止に動いたため、銃買いだめに拍車がかかることとなった。
一方、サンバーナディーノの事件では、銃規制に関するだけでなく、テロへの恐怖もかき立てた。容疑者が過激派組織「イスラム国」に忠誠を誓っていたからだ。その結果、クリスマス時期にはかつてないほど銃が売れた。連邦政府による身元調査をニューヨーク・タイムズ紙が分析したところでは、昨年12月の銃売り上げは約160万丁に上る。これは、サンディフック小学校で起きた事件後の2013年1月に記録した200万丁に匹敵する。
だが、銃ビジネスは不快だと言わざるを得ない。社会的不名誉は強まる一方であり、年金の運用マネジャーのボイコットなどを招いている。また、そのような好不況の波のせいで、将来の計画を立てたり、適切に資金を配分したりすることが困難だからだ。
この点において、新たな銃規制に対する周期的な不安は、ゼロ金利政策の経済的影響とこだまする。裏目に出るような事態を招きかねないようなやり方で需要を先取りするという点では同じだと言える。
コネティカット州を拠点とする老舗の銃器メーカー、コルト・ディフェンスの運命がいい例だろう。2009年の好況時に株主に配当金を支払うため負債を膨らませた同社は昨年、需要が低迷し破産法の適用を申請した。
米国では、悲しいことに銃乱射は珍しくない。遠くない将来に今日の銃バブルがはじけることもまた想像に難くないことなのだろう。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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