焦点:巨艦・ゆうちょ銀の進路変更、思わぬ横波に警戒の声

焦点:巨艦・ゆうちょ銀の進路変更、思わぬ横波に警戒の声
 6月1日、年内にも株式上場が予定されている「ゆうちょ銀行」の運用姿勢見直しに、市場の注目が集まっている。写真は会見する日本郵政の西室泰三社長。2月撮影(2015年 ロイター/Yuya Shino)
[東京 1日 ロイター] - 年内にも株式上場が予定されている「ゆうちょ銀行」の運用姿勢見直しに、市場の注目が集まっている。「国債傾斜」から株式、外債などのリスク資産の比率を上げることになるが、焦点はそのテンポ。
200兆円超と巨額の資産運用を変更するには、一定の時間がかかるとの見方が多いものの、「巨艦の進路変更」による思わぬ横波の発生に、市場は神経をとがらせている。
<利害重なるゆうちょと日銀>
日本郵政の西室泰三社長は5月29日の記者会見で、リスク管理を強化しながら、国債中心の運用体制を見直す方針をあらためて表明。同時に日銀の黒田東彦総裁と1週間前に会談した事実を明らかにした。黒田総裁との話し合いについて「国債そのものの運用を大幅に変えると話したが、それについて別に指示はなかった」という。
大規模な国債買い入れを進める日銀と、国内最大の機関投資家である日本郵政のトップ同士の面談。異例ともいえる動きに、SMBC日興証券・金融財政アナリストの末澤豪謙氏は「保有国債を減らして運用多様化を進めたい郵政側と、国債買い入れを軸にした異次元緩和の枠組みを維持したい日銀との間で、協力関係を確認することが目的だったのではないか」とみる。
日銀にとって、限界説もささやかれる国債買い入れの枠組みを維持する上でも、国債を大量保有する投資家の協力は重要ともいえる。
<すでにハイテンポの国債売却進む>
もっとも、ゆうちょ銀による脱国債の流れは既定路線だ。決算資料によると、ゆうちょ銀行の国債保有残高は2015年3月末現在、106.7兆円と前年同月比19.6兆円減少した。
国内金融機関の債券運用担当者は「年明け以降、国債マーケットで、ゆうちょの買いが聞かれなくなった。ゆうちょの国債保有年限が短いことを踏まえると、国債償還到来による自然減によって、かなりのピッチで国債残高が減少しているのではないか。むしろ減少ペースが速過ぎるほどだ」と話す。
こうした見方を裏付けるように、独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構が3月末に発表したゆうちょ銀運用計画によると、16年3月末の債券(国債・地方債、政府保証債)残高見通しは111.5兆円と、15年3月(117.2兆円)から5.7兆円の減少にとどまっている。前倒しで残高削減が進み、今年度は削減ペースを落としている印象だ。
<大胆な運用転換に警戒感も>
国債離れの動きに一服感が見え始める中で、市場が注目するのは、ゆうちょ銀が進める新運用体制の構築だ。日本郵政は29日、ゆうちょ銀の市場運用トップに、ゴールドマン・サックス証券・前副会長の佐護勝紀氏を迎え入れる人事を発表している。
新体制の運用方針次第では、国債の中途売却の動きが出てくる可能性も否定できないが「ダイナミックな運用を可能にする新体制をできるのは、早くても今秋から年末になりそうだ」(国内金融機関)との見方が出ている。
また、ゆうちょ銀は200兆円を超える大規模な運用資産を保有するだけに、各マーケットへの影響を配慮すると「新しいポートフォリオ構築は、数年がかりの極めてゆっくりとしたペースになるのではないか」(国内証券)との見方が出ている。
<株式市場には根強い期待感>
株式市場でも、ゆうちょ銀の動向に神経質だ。「自己資本比率が低下するため、ゆうちょ銀がどこまで買えるかは見極めにくい」(ネット系証券)との指摘もある一方、公的資金全体では、今後の相場を下支えする投資主体という認識は根強い。
日本取引所グループが発表する投資主体別売買動向によると、直近の5月第3週(5月18━22日)における信託銀行の現物・先物合計の売買は、今年度に入り初めて買い越しに転じた。現物株に限れば売り越しが続いているが、年度初めの利益確定売りは、ほぼ一巡したとみられている。
内藤証券の投資調査部長・田部井美彦氏は、信託銀行の売り越し基調が弱まりつつあるとしたうえで、海外投資家の買いが鈍れば、公的年金などの買い余力に市場の関心が移る可能性を指摘している。日本郵政などの大型上場で株式市場の需給が一時的に崩れることが警戒されるなか「公的資金が下値を買う動きも予想される」と話している。

星裕康 長田善行 編集:田巻一彦

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