アングル:中国で独禁法検査が増加、対応指南する企業も登場

アングル:中国で独禁法検査が増加、対応指南する企業も登場
 8月11日、中国では、国家発展改革委員会(NDRC)などが大手外国企業を標的に、緊急立ち入り検査を実施する例が相次いでいる。写真はNDRC本部。7月撮影(2014年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
[香港/北京 11日 ロイター] - 中国ではこの数カ月、国家発展改革委員会(NDRC)や国家工商行政管理総局(SAIC)など独禁法違反取締当局が大手外国企業を標的に、事前通告なしにオフィスを調べる欧米流の緊急立ち入り検査を実施する例が相次いでいる。
外国企業にとっては欧米で認められている権利が通用しないという法制度の違いや文化的な差異などから対応が難しく、対処方法を指南する企業まで表れた。
ドイツの自動車大手ダイムラーは上海の虹橋国際空港近くにある高級車部門メルセデスベンツのオフィスが4日昼に、突然当局による調査を受けた。関係者によると、取り調べは10時間におよび、従業員にデータや情報の提出を求めたという。
このほか自動車、製薬、ハイテクなどの分野で外国企業が当局の調査を受け、米マイクロソフトも対象となった。
これに対して検査対策会社は、緊急検査の際にすべきこととすべきでないことの基本を、外国企業に伝授している。予行演習を行うなどして職員に実際の対応を教えるほか、法律の専門家を派遣して質問への受け答え方を指示したり、文化的な違いの乗り越え方、法的なアドバスを受けるための緊急対応なども準備する。
法律事務所ノートン・ローズ・フルブライト(香港)のパートナー、マーク・ワハ氏は「当局とその職員は熟練の度合いが増している。ドイツなど欧州当局との協力を強め、調査の進め方や立ち入り検査の有用性を学んでいる。取り締まりが活発化しているのはそのためだ」と話す。
<米開拓時代並み>
中国に進出した企業は緊急立ち入り検査に関してほとんど何の権利も持たず、書類などの原本を証拠として押収する法律は曖昧だ。決定的なのは、欧米では当該企業が法律顧問会社と連絡を取ることが認められているのに、中国では一般的に認められていないことだ。法律アドバイザーとのやり取りは証拠隠しの手段に使われることが多い。
ハーバート・スミス・フリーヒリズ(香港)のアジア競争慣行ヘッドのマーク・ジェフコット氏は「中国ではほとんど助言は得られない。すべてができたばかりで、米国の開拓時代の西部のようだ」と述べた。
事情に詳しい弁護士によると、緊急立ち入り検査が行われるのは通常、朝方で、10人から30人の職員がデスクの引き出し、コンピューター、ファイル、ロッカー、金庫、果ては車まで調べるという。
<文化の違い>
緊急立ち入り検査による当初の混乱時に大切なのは、中国人の慣習や礼儀作法を思い出すことだと指摘するのは、法律事務所ガオペン・アンド・パートナーズのパートナー、リヨン・ジャン氏。名刺の交換、お茶やコーヒーの接待、あるいはランチの手配なども、協力の姿勢を示す重要なサインになる。「何を出しても構わない。そういう姿勢を見せることが重要だ」という。
調査担当者の名刺を受け取ることは、会社の顧問弁護士が後から連絡を取る上でも役立つ。ただ中国の当局はお役所気質が強く、こうした作業が簡単に進むとは限らない。
ジャン氏によると、出前のランチを一緒に食べると、当局者が企業幹部や顧問弁護士と言葉を交わす機会ができて、親密さが醸成されることもある。
<事態を悪化させる対応>
緊急立ち入り検査対策の訓練では受付係や保安要員など前線に立つスタッフに対して、セミナーや1対1の指導を行う。ミスを最小限に食い止め、調査を封じ込め、当局者の人間的な側面を引き出すのが狙いだ。
弁護士によると、悪意はなくとも経験不足のスタッフが事態を悪化させた事例があった。例えばアポイントメントがないと受付係が検査員を追い返した1件だが、もっと悪いのはノーチェックで検査官をオフィスへ入れてしまうことだという。不安を感じた従業員が個人的な電子メールを削除し、当局が後からこのメールを復元して調査妨害とみなしたこともある。
従業員は厳しい質問にどう答えるかの訓練を受ける。中国では基本的に自分に不利な証言を拒むことができない。質問に答えなければ、調査を妨害したとして罰金を科される危険性がある。
一方、IT機器の手配は検査を円滑に進める上で役立つ。中国では当局が書類の原本を押収することが多い。高機能のコピー機やハードディスクのバックアップを用意しておくと、証拠の複製を提供する上で助けになるという。
(Michelle Price and Norihiko Shirouzu記者)

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