「サマーストック」に懸念、エルニーニョ発生の可能性高まる

「サマーストック」に懸念、エルニーニョ発生の可能性高まる
 6月10日、日本に冷夏をもたらすエルニーニョ現象が、株式市場にも冷風を送り込む懸念が高まってきた。写真は都内証券会社の株価ボード。2日撮影(2014年 ロイター/Yuya Shino)
[東京 10日 ロイター] - 日本に冷夏をもたらすエルニーニョ現象が、株式市場にも冷風を送り込む懸念が高まってきた。気温の低下だけでなく梅雨の長期化も懸念され、夏によく売れるビールや夏物衣料の販売が低迷する恐れもある。
「サマーストック」と呼ばれる消費関連株は今のところパフォーマンスがいいだけに、冷夏のネガティブインパクトは大きくなりかねない。
気象庁は10日、最新の見通しとして「エルニーニョ現象の発生に近づいた」と明言、夏から秋にかけて続く可能性が高いと指摘した。
民間のある気象予報士は「あまりはっきりしたことを言わない気象庁にしては珍しく強気の予想」と語る。すでに米気象予測センター(CPC)は5日、エルニーニョ現象が発生する確率を70%に引き上げている。
エルニーニョ現象は、ペルー沖を含む広い海域で海面の水温が上昇し、世界的な異常気象をもたらすことで知られている。
日本で前回発生したのは2009年で、この時は全国的に梅雨が長引いた。東北、北陸、中国地方では8月中旬になってもぐずついた天気が続き、梅雨明けの日が特定できなかったほどだ。 
気象庁が発表している向こう3カ月の予報によると、西日本では通常よりも暑い夏が予想されており、全国的に冷夏になるとは予想されていないものの、北日本では冷夏になる確率が40%と例年よりも高くなっている。
市場では、まだ冷夏を織り込んでいる気配はなく、ビールではアサヒ<2502.T>やキリンHD<2503.T>、夏物衣料ではエービーシー・マート<2670.T>や西松屋チェーン<7545.T>などが堅調に推移している。
直近1カ月では、日経平均株価が6.5%上昇しているが、いずれの銘柄も7─8%の上昇率とアウトパフォームしている。
一部のアナリストからは「本当に寒くなったり、雨が長続きしたり、実感が伴わなければ株価にすぐさま影響が出ることはない」との見方が出る一方で、「アサヒなどの株価は高値圏で推移しており、今のところ冷夏を織り込んではいないが、冷夏の現実味が増せばネガティブインパクトは強烈になるだろう」(SBI証券・シニアマーケットアナリストの藤本誠之氏)と指摘する声もある。
株価には表れていないが、実際、小売業界ではすでに警戒感が高まっている。セブン&アイ・ホールディングスの村田紀敏社長兼最高執行責任者(COO)は、5月に開かれた「ロイター日本投資サミット」で、消費は堅調に推移すると予想する一方、消費動向は「天候要件が大きく影響する」と述べ、エルニーニョ発生に対する懸念を示した。
また、暑い夏には冷房の効いた空間を求めてボウリング場やレストラン、アミューズメント施設に足を運ぶ人が増えるとされ、「猛暑ではこうした銘柄がクローズアップされることもある」(国内証券)。だが、冷夏到来となれば客足も遠のく。広範囲に及ぶ弊害の全貌はつかみきれない。 
第一生命経済研究所・主席エコノミストの永浜利廣氏の試算によれば、今年の7─9月期の日照時間が、エルニーニョ現象が発生した1993年の同時期並みになれば、家計消費は前年比で1兆4812億円、同2.3%減少する。実質国内総生産(GDP)も0.87%押し下げられることになり、来年10月の消費税率引き上げの判断に影響を及ぼす恐れがあるという。
永浜氏は「過去にはエルニーニョ現象の発生によって、景気底入れ宣言が撤回された経験もある。今回も、1つの気象現象が1つの国の行く末を左右する可能性がある」と警戒する。 
エルニーニョ現象への警戒感が高まっているのは、日本だけではない。インド準備銀行(中央銀行)のラジャン総裁は3日に発表した声明で「エルニーニョ現象発生の確率が高まったことでモンスーンの遅れが予測されており、農業の見通しに陰りが出ている」と表明。エルニーニョ現象は日本で冷夏や梅雨の長期化を招く恐れがある一方、インドでは干ばつの原因になる可能性もあり、食料品などの物価に上昇圧力がかかりやすい。
今のところ気象庁の見通しでは、秋以降もエルニーニョ現象が継続するかは明らかになっていない。ただ、冬まで続けば暖冬になる可能性が高く、冷夏とあわせて農作物に与える影響も深刻度を増しそうだ。
それでも「エルニーニョ現象には1つメリットがある」と、第一生命経済研究所の永浜氏は話す。「夏場の日照時間が減れば、翌春の花粉の飛散量が減少する。花粉症の人は外出しやすくなるだろう」と指摘している。

梅川崇 編集:北松克朗

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