アングル:米株式投資家、大統領選に伴う相場変動への備え本格化

アングル:米株式投資家、大統領選に伴う相場変動への備え本格化
 米大統領選は11月3日の本選投票日まで3カ月を切り、今週は野党・民主党の全国大会が開催される。(2020年 ロイター)
[ニューヨーク 15日 ロイター] - 米大統領選は11月3日の本選投票日まで3カ月を切り、今週は野党・民主党の全国大会が開催される。こうした中で株式投資家は、選挙に絡む相場変動から資産を守るための措置を本格的に講じつつある。
投資家にとって今年これまでも大統領選の存在は決して小さいものではなかったが、市場への影響という面では、新型コロナウイルスのパンデミックや空前の規模となった米国の経済対策に比べると、どうしても見劣りしていた。
ただ今後数週間でそうした状況が変わるかもしれない。さまざまな選挙結果を念頭に置きながら、キャッシュ保有を増やしたり、ボラティリティー上昇に賭けたりする動きが出てきているからだ。想定シナリオには、トランプ大統領と、民主党候補指名を確定させているバイデン前副大統領の本選における対決の決着がすぐに明白にならない、あるいは判定に異議が唱えられるといった展開も含まれている。
ビレールのポートフォリオマネジャー、ラマー・ビレール氏は「選挙結果が分かるまで時間がかかると信じるに足る理由は山ほどある。それが、完全な決着を織り込んできた市場が抱えるほころびを浮き彫りにするだろう」と述べた。同社は、選挙に伴うボラティリティーの高まりに対するヘッジとして、運用資産に対するキャッシュの比率を最大20%に引き上げている。
今後数カ月にわたる株価の動きが、本選でどちらの候補が勝つかを示唆する可能性があるとの声も聞かれる。
TDセキュリティーズが1930年までさかのぼって調べたところでは、S&P総合500種が本選前の3カ月で上昇した局面では、現職大統領が勝利を手にしてきた。このデータはトランプ氏には不吉かもしれない。今月に入ってS&P総合500種は約3%上がっているとはいえ、歴史的に見ると8月からの3カ月というのは1年で最も株式市場の値動きがふるわない時期でもあるからだ。バンク・オブ・アメリカ・グローバル・リサーチのデータに基づくと、過去の平均リターンは0%前後にとどまる。
同時に、景気後退局面の途中で再選を果たした現職大統領は存在しない、ともTDセキュリティーズは指摘した。
バイデン氏が副大統領候補に黒人女性のカマラ・ハリス上院議員を指名した後に実施したロイター/イプソスの世論調査では、バイデン氏の支持率がトランプ氏を8%ポイント上回った。
トランプ氏がこれまで実施してきて、市場がおおむね好感していた法人税率引き下げや規制緩和といった政策は、バイデン氏が当選すれば、民主党が上下両院を制する場合と同様、存続が危うくなりかねないというのがアナリストの見立てだ。バイデン政権誕生の可能性を強く織り込んでいく中では市場はいったん動揺するかもしれないとの見方もある。
JPモルガンの試算では、法人税率を28%に上げるというバイデン氏の公約が実現すれば、来年のS&P総合500種企業の利益がおよそ5.5%減少し、設備投資は500億ドル前後下振れ、自社株買いの規模は1000億ドル縮小する可能性がある。
ロバートソン・スティーブンス・ウェルス・マネジメントのスチュアート・カッツ最高投資責任者は、トランプ氏が欧州と中国に対して発動した関税が「バイデン政権」によって撤廃される公算が大きいことから、その場合は来年、新興国を含む外国株が米国株をアウトパフォームする流れが強まるとの見方を示した。
オックスフォード・エコノミクスは、バイデン氏が掲げる主要政策の1つであるインフラ整備に2兆ドルを追加支出する構想は、既に軟調なドルを一段と圧迫してもおかしくないとみている。
一方アクシコープのチーフ・グローバル市場ストラテジスト、スティーブン・イネス氏は、トランプ氏が再選されれば増税懸念が和らぐ半面、米中貿易摩擦を巡る不安が再燃すると予想。さらなる規制緩和を通じて石油・ガス企業は一層恩恵を受けるかもしれないと話す。
ニューバーガー・バーマンのジョセフ・アマート株式最高投資責任者は最近のノートで、トランプ氏が投票の正確性に疑問を挟んだり、選挙自体を取りやめてしまったりする可能性にも投資家は備えるべきだと警告する。
「世論調査で劣勢になればなるほど、トランプ氏の意思決定は挑発的な側面が強まりかねない」という。
(David Randall記者、Saqib Iqbal Ahmed記者)

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