ブログ:秋葉原の悲劇とアベノミクス

ブログ:秋葉原の悲劇とアベノミクス
写真は昨年10月、秋葉原の街を歩く人々(2013年 ロイタ―/Yuriko Nakao)
久保 信博
震災の影響で見送られていた神田祭が4年ぶりに行われ、クライマックスの12日には東京・神田の街を約100基の神輿が練り歩いた。祭り好きの筆者も秋葉原で神輿(みこし)を担ぎ、中央通りと神田明神下から続く道路の交差点に差しかったところで、5年前に起きた悲劇を思い出した。
2008年6月8日、買い物客でにぎわうその場所にトラックが突っ込んだ後、運転者が刃物で歩行者を次々と殺傷する事件が発生した。犯人は自動車工場で働く派遣労働者で、動機はさまざま言われているものの、需要減に伴い契約終了を通告されたことがその1つとして注目された。当時は米国発のサブプライムローン問題で世界的に景気が急降下。外需依存度の高い日本の輸出企業は減産を繰り返し、工場などで働く非正規雇用の社員を大幅に減らしていた。
その後、リーマン危機や東日本大震災などの受難を乗り越えて、日本経済は再び明るさを取り戻そうとしている。自動車メーカーは過去最高益、もしくはその水準に迫る決算見通しを発表。不振の電機メーカーも、業績が底打ちして回復局面に入ってきた。かつてない規模の金融緩和で景気回復を狙う「アベノミクス」で円安が進み、日経平均株価は連日のように続伸している。
しかし、神輿のように掛け声の威勢は良いアベノミクスだが、日本国内の実体経済が回復する本格的な兆候は今のところ見られない。新聞には工場の期間工を募集する求人広告が目につくようになったものの、正規雇用を増やすという話は滅多に聞かない。それどころか、大手電機メーカーの中には一段の人員削減を検討している企業もある。春闘では一時金を増額する企業が相次いだが、賃金カーブを底上げするベースアップにまでは踏み込まなかった。国内で設備投資を増やす企業も少ない。
いくら金融市場でカネが回っても、消費者の収入が安定し、企業が国内の設備投資を増やさなければ実体経済ではカネが回らない。「リーマンショックで懲りた。人や設備投資といった固定費を抱えることに慎重になっている」と、ある自動車メーカー関係者は話す。輸入原材料の値上がりにつながる円安の加速、不気味に水準を切り上げている金利も不安要因だ。
次の神田祭は2年後の2015年。そのとき日本経済は成長軌道に乗り、雇用は安定し、物価上昇率2%という目標を達成しているのだろうか。
(東京 14日 ロイター)

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