ブログ:「消費増税先送り」は必要か

ブログ:「消費増税先送り」は必要か
写真は昨年11月、自民党党本部にて(2013年 ロイター/Toru Hanai)
吉川 裕子
安倍晋三首相の懐刀の消費税引き上げ時期をめぐる発言が波紋を呼んでいる。浜田宏一内閣官房参与(米エール大名誉教授)は、デフレから脱却し景気回復を確実なものとするために、2014年4月から予定している消費税率の引き上げを1年先送りすることも選択肢だと述べている。
しかし、その後の政治日程に照らせば、1年先送りは「消費税上げ」は困難と同義語になりかねない。「決められない政治」への逆戻りに疑問の声も浮上している。
疑問はいくつか指摘される。
第一に、税法にはリーマンショックの時のような「経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点」から、2014年4月の8%への引き上げ、2015年10月の同10%への引き上げ実施前に「経済状況の好転」を判断し場合によっては施行を停止する景気弾力条項が盛り込まれている。しかし「経済状況の好転」の判断基準に数値目標はなく、安倍政権が目指す「名目3%成長・実質2%成長」の達成を条件としているわけではない。
第2に、足元をみれば、政府・日銀は消費増税の環境整備のために「異次元緩和」に踏み込み、リーマンショック後の09年度に次ぐ過去2番目の大規模補正予算を編成、13年度予算の遅れを緩和させた。
黒田体制での大胆な金融緩和で、1ドル100円の大台乗せに迫る円安が進行し、日経平均株価は4年11カ月ぶりの1万4000円台を回復した。株価の上昇でマインドが好転し景気に明るさも出始めている。実質賃金の上昇までにはまだ長い道のりがあるが、仮に1年先送りするということは、アベノミクスの政策効果の「自己否定」にもなりかねない。
さらに、消費税上げが先送りされれば、国際公約となっている政府の財政健全化目標達成が一段と遠のく。
第3に、今後の政治日程をみると、7月21日に予定される参院選、2015年9月の自民党総裁任期満了、2016年7月の参院選、2016年12月の衆院任期満了と続く。衆院は3年を越えると解散風が吹くのが通例で、成田憲彦・駿河台大学教授は「1年先送りするということは、国政選挙の直前に(消費税を)上げることになる」として、引き上げが難しくなるのではないかと警戒する。
参院選で自民・公明が非改選を含め過半数を制すれば、ねじれは解消し安定政権に弾みがつく。高い支持率を背景に、長期安定政権を見通す声も次第に強まってきた。にもかかわらず、「決められない政治」が続けば、国債の格下げなど政権運営の決定的なダメージにもなりかねない。1年先送りのメリット・デメリットについて検証が待たれる。
(東京 8日 ロイター)

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