アングル:米物価連動国債が急落、FRBにジレンマも

[ニューヨーク 26日 ロイター] - ここ数年、債券市場で最高クラスのパフォーマンスをみせていた米国の物価連動国債(TIPS)が急落しており、アナリストは、TIPS価格が金融危機の局面でみられる水準に近付いていると指摘している。
債券価格は、連邦準備理事会(FRB)が量的緩和縮小の可能性を示したことを受けて、世界的に下落しているが、TIPSは相対的に流動性が低いことに加え、これまでロングポジションが大きく積み上がっていたため、下げがきつくなっている。
TIPSはここ数年、量的緩和でインフレが進行するとの思惑で買われていたが、これまでのところインフレは起きていない。
FRBは長期のインフレ目標を2%に設定しているが、4月の個人消費支出(PCE)価格指数は前年比1.05%だ。
また、TIPSの投資家は、インフレ率が目標に達するまでFRBが量的緩和を続けると踏んでいたが、FRBのバーナンキ議長は景気・雇用を重視し、低インフレに大きな懸念を示していない。景気は改善しているものの、依然低迷しており、量的緩和以外に物価上昇を刺激する要因はない、との懸念も出ている。
トムソン・ロイター傘下のリッパーがまとめた債券ファンドの運用成績ランキングによると、年初来の運用成績ワースト1位・2位は、TIPSに投資するファンドとなっている。
<予想インフレ率が2%割り込む>
TIPSが織り込むインフレ期待は大幅に低下しており、10年後の予想インフレ率は2%を割り込んでいる。24日時点の予想インフレ率は1.80%、25日は1.96%だった。
予想インフレ率が長期間低水準にとどまれば、FRBの量的緩和縮小が複雑になる可能性がある。
2008年のリーマンショック後で、予想インフレ率が2%を割り込んだのは、2010年後半と2011年の2回のみ。FRBはいずれのケースでも、新たな量的緩和を実施し、予想インフレ率は2%超の水準に戻った。
BNPパリバ(ニューヨーク)の金利ストラテジスト、アーロン・コーリ氏は「過去10年間、(予想)インフレ率がこの水準を非常に長期間、下回ったことはない。FRBは懸念しているはずだ」と指摘した。
アナリストによると、TIPSの発行残高は米国債全体の1割に過ぎず、流動性の低さもTIPSの値動きを大きくする要因になっている。
市場では、年金基金、ヘッジファンドなど、インフレ進行を予想してTIPSに投資していた機関投資家が一斉に売りを出している。一方、銀行はバランスシートの縮小を進めており、買い余力が減っているという。
もっとも、価格が急落したことで、短期のTIPSに割安感が出たとの指摘もある。
短期のTIPSに投資するイートン・バンス・ショートターム・リアルリターン・ファンドの共同ポートフォリオマネジャー、スチュアート・テーラー氏は「インフレ率が向こう2年間1%を超えると予想するなら、2年物の通常国債よりも2年物TIPSのほうがはるかにリターンが良い」との見方を示した。
(Karen Brettell記者;翻訳 深滝壱哉 編集 佐々木美和)

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