若田部日銀副総裁インタビューの一問一答

若田部日銀副総裁インタビューの一問一答
 6月28日、日銀の若田部昌澄副総裁は、ロイターの単独インタビューに応じ、「現在の政策の効果は、副作用を完全に上回っている」との認識を示した。都内の日銀本店で27日撮影(2018年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
[東京 28日 ロイター] - 日銀の若田部昌澄副総裁は、ロイターの単独インタビューに応じ、「現在の政策の効果は、副作用を完全に上回っている」との認識を示した。
物価2%目標の実現に向けて今後も大規模な金融緩和を継続する考えを示すとともに、物価上昇のモメンタム(勢い)が明らかに崩れた場合には、追加緩和を検討すると明言した。
インタビューは27日に行った。
──好景気にもかかわらず、物価がなかなか上がらない要因をどのように分析しているか。
「日銀はすでにいくつかの考え方を提示しているが、最も大きいのは20年近く続いたデフレが人々のマインドセットに影響し、賃金や価格の設定行動に非常に大きな影響を及ぼしているということだ。これが土台であり、そこにいくつかの要因が加わっている」
「1つが賃金の硬直性だ。賃金は下げることが難しいため、上げられる局面でも将来の不況を心配し、あまり上がらない面がある」
「さらに最近は、女性や高齢者の労働参加を背景に働く人々の割合が非常に増えているが、20代から50代くらいの男性では十分に高まっておらず、労働力のスラック(需給の緩み)が存在する可能性がある。失業率が2.5%くらいまで下がっているのに賃金や物価の上昇スピードは加速しておらず、スラックがあるとの仮説には一定の妥当性があると思う」
「また、アマゾンのようなオンラインでの取引が増えることで物価が下がる、いわゆる『アマゾン効果』という研究も注目されている」
「様々な要因はあるが、最大の問題は、デフレからの完全転換の道筋がなかなか描けないことだ。7月の展望リポートでは、当然、こうしたことを重点的に分析していくことになる。かなりの部分はこれまでも分析を進めており、それをいかに総合するかが求められている」
──物価の下振れリスクは、一段と高まっているのか。
「それはこれから議論していくが、足元で物価上昇率のプラス幅が縮小していることを非常に注視している。これがトレンドとして下がるのか、ある程度のところで上がってくるのか、判断が必要だ。基本的な経済の循環メカニズムが大きく変わっていなければ、見通しはそれほど変わらないが、そうでないならば変わる可能性がないとはいえない」
──分析の結果が物価のモメンタムの判断に与える影響と、追加緩和の可能性は。
「物価の『モメンタム』は金融政策運営のキーワードだが、その意味は大きく2つにブレークダウンできる。1つは需給ギャップであり、プラス方向ならば経済が温まり、雇用と賃金が改善し、企業は価格を上げることができる。もう1つは中長期の予想物価上昇率で、その上昇スピードや、それが上がっているのか、下がっているのか、ということ」
「この2つによって、物価のモメンタムが維持されているかを検討する。7月展望リポートで経済・物価の動向について一定の見通しを出すが、これが物価のモメンタムにどのような意味を持つかがポイントになる」
「モメンタムの弱さが一時的ではなく、トレンドだと明らかになってくれば、追加緩和を考えざるを得ない。その際の手段については、イールドカーブ・コントロールにおける長短金利の変更や、買い入れ資産の多様化、国債買い入れを通じたマネタリーベースの拡大ペースの拡張など、すでに様々な手段がある。それを動かすだけでもかなりのことができる」
──インフレ期待を高めるためのコミットメント強化は必要か。
「日銀のコミットメントは、現状でもかなり強い。そもそも2013年1月に日本銀行として2%の『物価安定の目標』を導入するとともに、政府との共同声明も出している。さらに実際の物価が2%に達し、それがオーバーシュートしてもマネーを増やすということまでコミットしている」
「ただ、コミットメントの強化策はコンスタントに研究し、議論すべき。われわれは物価上昇率2%にコミットしているが、それが予想物価上昇率にどのような影響を与えているのか、真摯(しんし)に研究し、議論を重ねていくべきだ」
──大規模緩和長期化の副作用に対する認識と、物価2%実現前の政策調整の可能性は。
「現在の金融政策は物価安定目標の達成に必要だが、結果として金融機関の収益性などに影響を及ぼしていることは理解している。ただ、現在の政策の効果は、副作用を完全に上回っており、すぐに何か政策変更を迫るほどの副作用が起きているとは考えていない」
「よほど資産市場が過熱した場合は、その始末をうまくしなければ先行き物価が下がってしまうリスクがあると思うが、現状でそうしたリスクは生じていないし、すぐに起きることもないと思う」
──日銀が金利を低位に抑制していることで、財政に対する市場の警告機能が失われているとの指摘がある。金融緩和を続けることが、放漫財政につながるリスクはないか。
「財政の資金繰りを直接助けるという意味で、財政ファイナンス(穴埋め)をやっているとの認識は全くない。政府・日銀の共同声明では、政府が経済成長と両立する形で財政再建を進める旨の記載もある。日銀の金融政策が財政ファイナンスを行っているという批判は当たらない」    「財政への警告機能が損なわれているのではないか、という批判があることは承知しているが、財政の状況を測る指標は、金利だけではない。例えば、日本のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)プレミアムは低位で安定している」        ──19年10月の10%への消費税率引き上げに関するリスク認識。増税を踏まえた金融・財政政策のポリシーミックスのあり方は。
「消費税増税が経済と物価にどのような影響を及ぼすかは、日銀も非常に大きな関心を持って分析している。5%から8%に引き上げた時と比べてインパクトは小さくなると推計しているが、増税がマインドを通じて、消費や予想物価上昇率に悪影響を及ぼす可能性は、十分に考えられる。消費税増税がもたらし得る潜在的な下振れリスクを非常に注視している」    「一般論だが、金融緩和をこれだけしている中で、政府が機動的に財政政策を行えば、経済に与える刺激効果はその分高まる。金融と財政のシナジー効果が非常に重要になってくるし、それが経済に良い影響を及ぼすと認識している」
──消費増税前でも、金利引き上げなどの政策調整は可能なのか。
「政策判断のポイントは物価上昇のモメンタムだ。政策調整が消費税増税の前なのか後なのかは何とも言えないが、その時々で判断しなければいけない。モメンタムがどうなっているかということを基軸に、追加緩和すべきなのか、政策を調整すべきなのかを考えていくことになる」
*写真のキャプションを修正しました

伊藤純夫、梅川崇 編集:田巻一彦

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