コラム:対米貿易戦争に突入、EUが握る「切り札」

コラム:ついに対米貿易戦争、EUが握る「切り札」
 5月31日、欧州連合(EU)と米国の通商摩擦は、ついに貿易戦争が始まる段階に突入した。写真はワシントンで4月撮影(2018年 ロイター/Kevin Lamarque)
Gina Chon
[ワシントン 31日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 欧州連合(EU)と米国の通商摩擦は、ついに貿易戦争に突入した。トランプ政権が31日、鉄鋼とアルミニウムの追加関税を課す輸入制限をドイツをはじめとするEU諸国に適用すると発表したことを受け、EU側も米国からの輸入品に報復関税導入を表明。
これは賢明な作戦と言える。なぜなら米共和党指導部の政治的な目論見を狂わせることができるからだ。
米政府が下した今回の決定は、緊密な同盟諸国に打撃を与えている。EUとカナダ、メキシコに対して鉄鋼・アルミ輸入制限を暫定的に適用外とする措置が5月末に期限を迎え、6月1日からの適用を回避すするための協議は決裂してしまった。EU内で最も痛手を受けるのはドイツだ。米国が輸入している鉄鋼数量を国別で見ると、ドイツは上から8番目だ。
EUは、約28億ユーロ相当の米国からの輸入品に25%の関税を課す意向を示した。その標的となった製品や企業が、共和党にとって重要な州で生産されたり、拠点を持っている。
例えばハーレーダビッドソンは、ライアン下院議長のお膝元のウィスコンシン州に本社があり、売上高のおよそ16%を欧州で稼ぐ。大半のバーボンウィスキーはケンタッキー州産で、同州はマコネル上院院内総務の地盤。業界団体のデータによると、昨年の米国のEU向け蒸留酒輸出額は7億8900万ドルに上り、その85%前後をウィスキーが占める。
共和党は議会における優位を11月の中間選挙で維持しようと、あらゆる努力を払っている。下院ではあっさりと過半数を割り込んでもおかしくないが、上院は多数派であり続けるチャンスが大きい。
そこで貿易紛争で被害を受けやすい州では、共和党議員が既にトランプ大統領に摩擦を和らげるよう働き掛けている。アイオワ州選出のグラスリー上院議員は、中国が報復関税を課した場合に影響を受ける地元農家のために動き出した。テキサス州選出の議員グループは、ホワイトハウスに対して北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉を迅速に進めるよう促している。
EUには、中国が使えるような政治カードはない。中国は北朝鮮に非核化で圧力をかけられるし、米国との全般的な貿易不均衡問題に対応している。しかしEUが共和党議員の泣き所に照準を合わせるのは、実に巧妙な対抗手段だ。
●背景となるニュース
・米政府は31日、EUとカナダ、メキシコにも鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を適用すると発表した。これらの地域・国は5月末まで適用を暫定的に免除されていたが、今後も除外措置を受けるための協議が決裂した。
・EUは、米国からの鉄鋼や農産物など約28億ユーロの輸入品に25%の報復関税を課すと表明した。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab