コラム:ECB量的緩和、規模も中身も不十分

コラム:ECB量的緩和、規模も中身も不十分
 1月22日、欧州中央銀行流の量的緩和は市場の眼鏡にはかなったが、ユーロ圏経済や通貨同盟プロジェクトにも同様の好影響を及ぼすのには苦戦しそうだ。フランクフルトのECB本部、21日撮影(2015年 ロイター/Kai Pfaffenbach)
James Saft
[22日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)流の量的緩和(QE)は市場の眼鏡にはかなったが、ユーロ圏経済や通貨同盟プロジェクトにも同様の好影響を及ぼすのには苦戦しそうだ。月額600億ユーロの資産を買い入れるドラギECB総裁のQEは、狭義ではあるが重要な尺度からすれば成功を収めた。
ユーロ圏の株価は7年ぶりの高値を付け、ユーロは対ドルで大幅に下げた。
よくぞここまでと言える成果だ。というのも2016年9月までに1兆ユーロ強の資産を買い入れる今回の計画は、その設計と本質部分の両方に重大な欠陥を抱えているからだ。
ECBのQEは来年9月までか、もしくは中期的なインフレ見通しが2.0%に達するまで継続する仕組み。最も重要なのは買い入れの大部分を担うのがECBではなく各国中銀であり、ECBが負担するリスクは20%にとどまる点だ。
債券を1ユーロ買い入れるごとに1ユーロが金融市場に流入する。トレーダーは買い入れには十分な規模があり、ECBが望むだろう動きをしても良いと判断した。これはQEにとって最低限のハードルだ。
しかし各国中銀にリスクを背負わせるという観点からすると、1ユーロの購入が1ユーロのマネーを意味しなくなる。ユーロ圏の金融政策は財政政策と同じく一枚岩ではないというのが、まごうことのないメッセージだ。ユーロ圏加盟国は確かに1つに結ばれているが、ひとたび情勢が悪化すればそれぞれをつるすロープの長さはバラバラになるだろう。
褒められたことではないが、ドイツの政治的立場や法律に配慮し続けるには負わねばならない代償だった。
しかしマネーが生まれて金融市場に流れ込む限り、金融市場はその資金を活用してくれるだろう。より不透明なのは資金がどこに向かい、何に使われるかだ。債券利回りの低下は企業にとって支えとなるが、ユーロ圏以外の地域、恐らく統一的な政策を採る国の市場でリスクを採る誘因にもなる。
<買い入れ規模は足りず>
もう1つの問題は、予想と比較した買い入れ規模ではなく、ユーロ圏経済への効果という尺度で見た規模であり、この点ではかなり雲行きが怪しくなる。
12月の報道によると、ECBの内部調査では1兆ユーロのQEはユーロ圏の物価を2年後に0.2─0.8%ポイント押し上げると試算されている。これは英米のQEについての試算に比べ物価押し上げ効果が5分の1ないし9分の1に相当する。ソシエテ・ジェネラルの試算でも、ユーロ圏のQEの物価押し上げ効果は米国の5分の1となった。
ソシエテ・ジェネラルのエコノミスト、マイケル・マルティネス氏は顧客向けノートで「QEが効果を持つには2兆あるいは3兆ユーロの規模が必要だ」とした。
「つまりインフレを中期的に2.0%近くに押し上げるのに必要な買い入れ規模は2兆ないし3兆ユーロで、わずか1兆ユーロではない。ECBがバランスシートをこの水準まで拡大するには、流動性規則や格付けなどの面で債券買い入れの条件を緩和するか、既に日銀が手を染めているように株式や不動産投資信託(REIT)、上場投信(ETF)など他の資産クラスの買い入れを検討しなければならない」
ユーロ圏の資本市場は米国などの地域とは役割が異なる。銀行融資への依存度がはるかに高いからだ。債券買い入れは銀行への直接的な影響が極めて小さく、銀行の自己資本水準の向上には役立たない。
ECBのQEは、少なくとも当初はギリシャにとって支援材料にならない。最も早くとも夏までは買い入れ対象にならないからだ。しかもその時点でECB、国際通貨基金(IMF)、欧州委員会の3者と良好な関係を保っていればの話だ。
25日の総選挙でどのような政権が生まれるにせよ、そのころまでには債務条件についての交渉が決着はしないまでも始まっており、ギリシャの方向性は今よりもはっきりするだろう。
それまでの間、金融市場はユーロ圏QEの効果を享受し続けると期待できそうだ。もう一つの光明は、ユーロ圏QEは規模と効果が小さ過ぎて、米連邦準備理事会(FRB)に金融引き締めを思いとどまらせる要因となりそうなことだ。
リスク資産にとって、FRBの利上げはギリシャのユーロ離脱に匹敵するほどの恐怖をもたらすであろうことを踏まえれば、投資家はECBがより大胆になれなかったことを歓迎してよい。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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