コラム:中ロ同盟の強化・戦争長期化・米引き締め加速がもたらす不確実性=藤戸則弘氏

コラム:中ロ同盟の強化・戦争長期化・米引き締め加速がもたらす不確実性=藤戸則弘氏
 中国とロシアの協調関係が、一段と深まったようである。欧米を中心とした経済・金融制裁を受けてロシアの孤立化が進む中で、ロシアのラブロフ外相と中国の王毅外相が中国安徽省で会談した。写真は2019年5月、ソチで会談した両外相。代表撮影(2022年 ロイター)
藤戸則弘 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 チーフ投資ストラテジスト
[東京 6日] - 中国とロシアの協調関係が、一段と深まったようである。欧米を中心とした経済・金融制裁を受けてロシアの孤立化が進む中で、ロシアのラブロフ外相と中国の王毅外相が中国安徽省で会談した。
王毅外相は「双方は二国間関係の発展に向け一段と決意を固め、様々な分野での協力推進に一層自信を深めた」と表明した。また、ロシア外務省報道官は「ラブロフ外相は王毅外相に特別軍事作戦の進ちょく状況や、ウクライナとの交渉状況を説明した。双方は、米国とその衛星国の違法で一方的な対ロシア制裁は非生産的な性質を持つと指摘した」と述べている。
極めて強い文言で、両国の関係を深化させようとの意思が感じられる。「様々な分野での協力推進」という文言が盛られれば、当然ながら「安全保障」も、その範ちゅうに入ると思われる。欧米の情報当局は「現時点で中国は兵器の供与は行っていない模様だが、食料や通信機等の支援が判明している」と述べている。
しかし、ロシア軍の「特別軍事作戦」が想定以上に長期化していることを考えると、将来的に中国の支援が武器、弾薬、燃料等に及ぶことも否定しきれない状況だ。欧米に対抗する「ロシア=中国同盟」が強化された印象を受ける。
<抜け穴が多い対ロ制裁>
米英を中心に、ロシア制裁を強化する方針が表明されている。一方では、この制裁には「抜け穴」が存在していることも留意する必要があろう。米国のロシア産原油禁輸、英国の段階的削減策に続いて、欧州連合(EU)がロシア産エネルギーの禁輸を検討していると一部で報じられた。
だが、EUのロシア産原油の輸入シェアは約3割、天然ガスに至っては4割を超えていた。もし、禁輸措置の発動となれば、経済や国民生活が甚大な影響を受けるのは避けられない。
結局、制裁はロシア産石炭の禁輸が提案されている。つまり、EUとロシアは経済・エネルギー面で大きく相互依存の体制を築いて来ただけに、政治的な信条のみで即断できる状況ではないと思われる。ドイツのショルツ首相は「原油や天然ガスの輸入は欧州経済にとって極めて重要であり、エネルギー輸入の継続は意識的な決定だ」と述べている。
また、大きくけん伝された「国際銀行間通信協会」(SWIFT)へのロシア金融機関のアクセス遮断だが、なぜか制裁対象銀行にロシア最大の銀行であるズベルバンクは入っていない。より規模の小さな7行が対象になっているのみで、制裁を実行したという「名目」は取ったものの、「実質」には大きな穴が存在していることになる。やはり、ドイツのショルツ首相がズベルバンクを制裁対象に加えることには、断固反対したと報じられている。
完全遮断となれば、ロシアがエネルギー決済で苦境に陥るのは当然だが、これは「もろ刃の剣」であり、EUや同地域の企業にとっても大きな混乱は避けられない。やはり、EUとロシアは不可分の経済関係を緊密に築いていたことを強く示唆している。
マーケットのウクライナ紛争に対する評価にも変化が見られている。ロシアの通貨ルーブルは、欧米の経済・金融制裁を受けて、3月7日には1ドル=177.2ルーブルまで売り込まれた。昨年10月高値69.2ルーブルからは、約2.6分の1の暴落である。ところが、3月31日には高値81.0ルーブルまで切り返す局面があった。今度は3月7日安値から約2倍の急騰だ。
ロシア株式市場を見ても同様である。ロシアを代表するMOEX株価指数は、昨年10月高値4292からウクライナ侵攻開始となった2月24日安値1681まで6割以上の急落となった。その後、2月28日─3月23日までは、ウクライナ侵攻・欧米制裁を受けて市場がクローズされていたが、4月4日引けには2787と今度は安値から6割以上の反発だ。
<戦争長期化の兆しとインフレ>
もちろん、外国人投資家の保有株売却禁止や空売り禁止、取引時間短縮、ロシアの「政府系ファンド」(SWF)による最大100億ドルの介入実施計画等、あくまでも管理化された再開である。だが、少なくともロシア国内的には、正常化のプロパガンダを展開できると思われる。ロシア経済が苦境にあることは事実だが、冷徹な市場では極端な悲観論が後退しつつある。
ロシアの民間世論調査機関「レバダセンター」によると、プーチン大統領の支持率は3月末で83%と急上昇している。当然、「情報統制」の影響は想定できるが、ウクライナ紛争は「より長期化するリスク」が高まったように思える。
「経済協力開発機構」(OECD)のチーフ・エコノミストであるローレンス・ブーン氏は「世界はウクライナ戦争の影響を過小評価している。戦争が長引くほどに不確実性が増し、消費者の支出や企業の投資を妨げる懸念が高まる」と警告を発している。
ウクライナ紛争がコモディティ高に直結し、各国の消費者物価(CPI総合・前年比)を高騰させている。ユーロ圏の3月CPIは前年比プラス7.5%と事前予測の同6.7%を大幅に上回り、ユーロ誕生以来の最高となった。中には、スペインのように同9.8%と新興国並みの上昇となった国もある。
米国の2月CPIは同7.9%だったが、3月も一段の上昇となる可能性が濃厚だ。米国の3月雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月比43.1万人増、失業率は3.6%へ低下、労働参加率は62.4%へ上昇─など「完全雇用」を裏付ける強い内容だった。
しかも、平均時給が前年比5.6%上昇、週平均労働時間も34.6時間という高水準であることを考えると「賃金インフレ」の様相が一段と強まっている。おそらく、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で「0.5%利上げ」と「バランスシート圧縮(QT)」発動に動くと思われる。物価動向を見る限り「連続的な0.5%利上げ」も想定すべきだろう。
<世界の株式市場に立ち込める濃霧>
世界の株式市場は3月8日前後をボトムにして、3月後半には反騰傾向を見せた。ただし、ファンダメンタルズの好転と言うよりも、ロシアのウクライナ侵攻で、狼ばい気味に株式をオーバー・ショートしたことに対する反動高と捉えるべきだろう。
FRBの急速な引き締め姿勢を反映し、米国債のイールドカーブは5年債と30年債が「逆イールド」となって、顕著な「フラット化」が進んでいる。景気の先行き懸念が高まっていることを反映した動きと解釈できよう。「ロシア・中国同盟」の強化、ウクライナ紛争の長期化、欧米中銀の引き締めシフトを考えると、世界の株価の先行きには不透明感が強まっているように思える。
日経平均は、3月9日安値2万4681円から3月25日高値2万8338円まで14.8%の上昇を見せた。ただし、注意すべきは、この間の株式需給が極めていびつな状況にあったことだ。
東証データによると、3月第2週から第4週の3週間だけで、外国人投資家の株式先物の買い越しは1兆4361円に達している。特に、日経平均が9連騰となった3月14日─25日の間だけでも、外国人は7574億円の株式先物の買い越しである。
一方、同期間における他の投資主体者を見ると、個人投資家は7029億円の現物株大幅売り越しで、機関投資家も年度末接近で小動きに終始している。つまり、上昇相場の需給面での主役は明らかに外国人、それも株式先物を主体とする投機筋の可能性が濃厚と思われる。
外国人がデリバティブの大口売買を行った際には、日本株の変動率は大きくなる傾向にある。例えば、昨年8月第4週─9月第3週の4週間で、外国人投資家は株式先物で1兆6759億円の大幅買い越しだった。この間に日経平均は昨年8月20日安値2万6954円から、9月14日高値3万0795円まで14.3%の急伸を見せた。材料面では、菅義偉首相(当時)が自民党総裁選出馬せずとの「政治ネタ」があった。
しかし、その後は米中の景気鈍化や、中国恒大集団の債務問題に対する懸念が高まり、外国人投資家は一転して9月第4週─10月第2週の4週間で、株式先物を1兆8731億円と大幅な売り越しに急変した。
これを受けて、日経平均は9月14日高値3万0795円から、10月6日安値2万7293円まで、今度はマイナス11.4%のほぼ全値押しとなった。こうした昨秋の大荒れ相場の需給状況を見ても、やはり日本株の帰すうは外国人が握っていると言えよう。
日本株は、相対的に割安なバリュエーション、日銀の超緩和姿勢堅持もあって、極端な弱気に傾斜する必要はないと思われる。しかし、日経平均は3月急反発後も、なお2万8000円円弱で推移している。先行きではFRBの大幅利上げとQT発動で上値の重い相場展開が想定されるだけに、徹底した「押し目拾い・戻り売り」のスタンスを維持すべきだろう。
編集:田巻一彦
*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載された内容です。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*藤戸則弘氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券 参与・チーフ投資ストラテジスト。1979年早稲田大学卒業。1999年に国際証券入社。その後、三菱証券、三菱UFJ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券で投資情報部に在籍。2018年7月から現職。国際証券入社前、約20年にわたって生命保険会社で資産運用業務に従事し、ファンド・マネージャー、年金資金のポートフォリオ・マネ ージャー、企画担当を経験。バイ・サイドの視点による説得力のある分析には定評がある。
*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab