酒税改正で追い風が吹くビール市場(写真は2022年撮影、日刊工業新聞/共同通信イメージズ)
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(河野 圭祐:経済ジャーナリスト)

アサヒとキリンが販売数量の公表をやめた理由

 業界勢力図の物差しとして、よく引き合いに出されるのが市場占有率を表すシェアの数字だ。特に自動車やビールは身近で分かりやすいため、シェア比較の代表だった。ただ、最近はかつてに比べてあまり声高にシェア云々は指摘されなくなり、メーカーサイドも考え方が変わってきている。

 ビール業界で言えば、アサヒビールが2020年1月から販売実績の公表を、シェア推計の指標となる販売数量から販売金額に切り替えた。

 前年の2019年、キリンビールの第3のビール「本麒麟」がヒットしたことでキリンはシェア首位のアサヒに肉薄していただけに、シェアの算定がしにくくなるアサヒの販売金額への開示変更に対し、当時、キリン関係者は悔しがっていたものだ。

 ただ、2020年からコロナ禍となり、リモートワークやステイホームを余儀なくされて“家飲み”が一気に増えたため、他社と比べて従来から家庭用缶ビールに強かったキリンに追い風が吹き、20年、21年と推定値で2年連続シェア首位の座を奪還した。

 その後はコロナ禍収束とともに、飲食店などの業務用ビールに強いアサヒが再び盛り返した。

 そんな中、キリンも今年(2025年)1月以降、ついに販売数量から販売金額への開示に変更した。確かに販売数量ありきでは決算期末(ビールメーカーは12月期)の押し込み販売や値引き競争の温床ともなり、メーカーの体力を削ぐことにもなる。

 ビール市場が伸びていた昭和の時代から平成の初めまでであればそれも許されたが、1994年をピークにビール類市場のシュリンクが続く状況下では、商品の付加価値を上げて利益を積み増すためにも、販売金額に軸足を置くのは自然な流れともいえる。

 消費者の立場から言っても、右肩上がりを続けるRTD(レディ・トゥ・ドリンク=缶チューハイなどふたを開けたらすぐに飲めるアルコール飲料)の存在感が年々高まり、嗜好の多様化も進む中、ビールシェアでトップメーカーの商品だからといって、雪崩を打って購入するような時代でもない。

 一方で、縮小している市場だからこそ残存者利益を得るためにシェアは大事という見方もある。

 実際、首位を争うアサヒやキリンに対し、サントリーはずいぶん前から「ビール大手は4社なのだから、4分の1のシェア25%を目指すのは当然」とし、サッポロビールも発泡酒や第3のビールを除く、いわゆる狭義のビールでのシェア25%奪取を目標に掲げている。