亡くなった谷田陽輔さん。遺品となった財布の中には、『上級救命講習』の修了証と、『事故を起こしたら逃げないで、必ず救護をし、警察、保険会社に連絡しなさい』という父親のメモが、ビニールに包まれて一緒に入っていたという(遺族提供)

警察庁は10日、外国人による悪質な事故が相次いでいることを受け、「外国免許切替(外免切替)」の制度を今年10月から厳格化する方針を示した。外免切替を行った外国人はこの10年で2.5倍となり、昨年だけで7万5905人が取得している。一方、厳格化に伴い、無免許のままハンドルを握る外国人がさらに増えるのではないか、という懸念もある。外国人による加害事故で泣き寝入りを強いられている被害者は少なくない。2021年、無免許、無保険の外国人に19歳の息子をひき逃げされた遺族が、今も続く裁判と理不尽な現実をノンフィクション作家の柳原三佳氏に語った。

タイ人の加害者、無保険の知人の車で…

「あの日からずっと、息子の月命日には人目につかない早朝に妻と事故現場へ行って、花を供えています。民事裁判が終わったらやめようか、とも話してはいるのですが、今もまだそれが続いている状況です」

 そう語るのは、千葉県富里市の谷田季之さん(55)です。

 谷田さんは今から3年7カ月前、三男の陽輔さん(19)を突然のひき逃げ事件で亡くしました。加害者は、ビアクラング・アルン(当時29)。事故の11日前に大阪から富里市に転居してきたばかりのタイ人男性でした。

 谷田さんはやり場のない怒りを込めながら語ります。

「無免許過失運転致死傷、道路交通法違反(不救護、不申告)の罪で起訴された加害者に対する判決は、懲役5年6カ月の実刑でした。今、山梨の甲府刑務所に服役中ですが、つい先日通知が来て、あと1年半もすれば出所するとのことです。これまで手紙は一通もなく、私たち遺族への謝罪も一切ありません」

 車は仲間からの借り物で、無保険でした。そのため、相手からは現在も、賠償はまったく受けていないといいます。

「私自身、会社では安全運転管理者でもあるため、息子たちには常日頃、交通事故の話をしていました。それなのに、被告は運転免許すら持たず、交通ルールを遵守する考えや道徳心もなかったのかと思うと、どこに怒りをぶつけていいのかわかりませんでした」

谷田さんは亡くなった陽輔さんのバイクを今も保管している(筆者撮影)