ITは「ひみつ道具」の夢を見る

ドラえもんが誕生する世界のために(前編)--「未来デパート」としてのGoogle

稲田豊史

2016-10-22 07:00

 本連載は、主に現在の30〜40代が親しんだ日本のマンガやアニメ、SF 映画などに登場したメカやITガジェットが、現在の技術で制作可能かどうか、もしくは現在の技術の延長線上で制作可能かどうかを、実例を挙げながら述べていくものだ。

 そもそも、昨今のITガジェットには、ワクワクが足りない。

 PCやスマートフォンは、CPUのクロック数や画素数やストレージ容量が小刻みにちまちまアップするだけの、つまらないスペック競争に成り下がって久しい。新商品のデザイン変更や機能追加、OSのバージョンアップは「間違い探し」程度だし、メーカー間の商品差も「誤差範囲」程度。大半の消費者にとっては、どれを買っても大差ない。

 かつてのITガジェット――草創期のパーソナルコンピュータや携帯電話、90年代の32ビットゲーム機、初代iPodや初代iPhone――は「未来の道具」「夢の道具」と呼ばれていた。しかし、退屈にコモディティ化した現在のITガジェットに、そんな称号は分不相応だ。

 「未来の道具」「夢の道具」で日本人が真っ先に思いつくのは、『ドラえもん』をおいて他にないだろう。ただ、ドラえもんが誕生する22世紀、正確には2112 年9月3日まで、もう100年を切ってしまった。このまま現実のITガジェットが微視的なスペックアップを続けるだけなら、タケコプターやどこでもドアの実現など絶望的ではなかろうか。100年以内に産業革命並みのビッグバンが3度ほど起きるなら、その限りではないが。

 おそらく、「『ドラえもん』の22世紀」を現実のものとするために必要なのは、スペック至上の技術革新ではない。「物語」「思想」「哲学」である。

 われわれはもはや、通信速度やHDD容量なんぞを血眼になって追い求めてはいない。そのガジェットを使ったら、どんな愉快な毎日を送れるのか。どんな豊かな人生が手に入るのか。そこに興味と期待を抱き、金を払いたいと思っている。

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