フランスの大学校「Ecole 42」は、ソフトウェアエンジニアの新たな教育方法を掲げて活動を進めている。
同大学校には教員はいない。生徒に暗記させることもないし、教科書を買わせることもない。パリの本部には、シラバスもカリキュラムも用意されていない。その上、学生は授業料や料金も払わずに済む。
そんな学校は、入るのも出るのも簡単だろうと思うかもしれない。しかし実際には、Ecole 42に入学するのは極めて難しい。2015年は、1000人の募集定員に対して8万人の学生が応募した。入学できた学生は、IT系のスタートアップと同じペースで進められるプロジェクトに放り込まれる。
フランス首相のウェブサイトへの侵入が簡単であることを示すために、実際に侵入してみせたことさえあるNicolas Sadirac氏は、以前からこんな学校を作りたいと思っていた。この考えにフランスの億万長者Xavier Niel氏が資金を提供し、2013年にEcole 42が設立された。この大学校は、今では単純に42と呼ばれている。この名前はもちろん、「銀河ヒッチハイク・ガイド」の「生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え」である42から取られている。
このことからも、Sadirac氏とNiel氏の野心がどれほど大きいか理解できるだろう。
42を共同で設立したXavier Niel氏とNicolas Sadirac氏
提供:Jason Hiner/TechRepublic
この新しい大学校の設立コンセプトは、次の2つのアイデアに基づいている。
- 大学の教育課程は、IT業界の進歩についていけない。従来の学術的な教育課程は、IT業界で必要とされるスキルを身につけさせることができていない一方で、世界は今後ますます多くのIT労働者を必要としている。
- 大学はお金が掛かりすぎる。大学教育を受けるのにかかる費用が高くなり、IT業界は、本来は素質を持っているが、それだけの学費を払えないか、教育を受けるには巨額の借金を背負わなくてはならない人たちを逃している。
Sadirac氏は複数の修士号以上の学位を持っており、ほとんどの主要な言語でコーディングができ、42を共同設立するまで、15年間教育者として働いてきた。同氏は、従来の学術的な教育課程は、ITプロフェッショナルが実際に使うことがない背景知識の教育に時間を割きすぎていると述べている。
「ITの分野で何かを覚えても、その知識を覚えている必要があるのは短い時間だけだ」とSadirac氏は言う。より重要なのは、問題を知り、解決する方法を学ぶことだ。同氏の考え方によれば、抽象的な科目を学ぶことは、実際に役に立つ知識やスキルを身につける基盤としてはほぼ役に立たず、暗記にはほとんど価値がない。
「われわれは、数学や物理学はITにほとんど関係がないと考えている。ITは科学というよりは芸術に近い」とSadirac氏は述べている。
この考えに基づき、Sadirac氏と42のチームは、完全にソフトウェア開発を通じて進められる、プロジェクトベースの学習プログラムを立案した。この学習プログラムはゲームのような仕組みを持っており、学生が課程を進めると、新たなレベルに到達する。レベル21に到達すると、学生は卒業する。