

ホリデーシーズンは始まろうとしているところだが、AI批判はもはや年中行事だ。Coca-Colaが公開した新作のホリデー向けCMが、生成AIを使ってシーンに命を吹き込もうとしたことで反発を招いている。
提供:Coca-Cola/ Zooey Liao/ CNET
CMの内容はごくありふれたものだ。Coca-Colaのトラックが冬景色の中を走り、雪の積もった町に入る。すると森の動物たちが目を覚まし、トラックの方へ集まってくる。トラックは町の広場にあるライトアップされたクリスマスツリーへ。そこにはAI生成動画に特有の光沢が見られる。
過去に似たようなことがあったと感じたなら、それもそのはず。Coca-Colaは2024年にもAIを使ったホリデーCMで同じようなことをし、人々の神経を逆なでした。この1年間、同社は教訓を学ばず、顧客の心をつかめていないようだ。
筆者はAI担当記者であり、AIクリエイティブツールの専門家でもある。そのため、このCMとそれに対する反発を見ても、さほど驚かなかった。クリエイティブな生成AIツールは、特にこの1年で急増しており、マーケター専用に作られたAIツールも数多く存在する。これらのツールは、コンテンツ作成の支援、ワークフローの自動化、データ分析を支援するとうたっている。CanvaのマーケティングとAIに関する2025年版レポートによると、マーケターの大多数(94%)がAI専用の予算を持っており、その4分の3が予算の増加を見込んでいるという。
むしろ驚いたのは、人々が批判する対象がこのCMであることだ。このCMはあまりにも平凡で、当たり障りがない。最近目にする人種差別的で不適切、かつ粗雑なAI生成コンテンツの急増と比べれば、Coca-ColaのCMはむしろ健全だ。そして、それこそが問題なのだ。
この心温まるお祭り気分のCMは、AIに関するあらゆる論争的問題を網羅しており、だからこそ視聴者からこれほど強い反発を招いている。AIコンテンツはすでに常態化している。われわれはオンラインのチャットボットからも、フィードに流れてくるAI生成の粗悪なコンテンツからも逃れられない。Coca-ColaがCMにAIを使ったことは、企業がわれわれの反応を真剣に考慮することなくAI導入を進めている、新たな兆候にすぎない。広告と同じように、AIもまた避けられないものになっている。
広告におけるAIの利用が定着するなら、その使用方法を分析し、われわれメディア消費者がどこでAIを使ってほしくないかを明確にする価値がある。そして、これは決してCoca-ColaやAIを擁護するものではないが、少なくともこのCMに関して、同社が正しく行ったことが1つだけある。
Coca-Colaの「Holidays Are Coming」CMは、実は1995年に公開された同名の人気CMのリメイクだ。Coca-Colaは舞台裏を紹介する動画で、その制作方法を解説している。動物の映像にAIが使われたのは明らかだ。しかし、同社が「ピクセル単位で」作業したという言葉を、筆者は文字通りには受け取れない。
本物でないことは明らかで、一部は光沢があり一部はプラスチックのような、AI独特の質感があるCMに登場する動物はリアルに見えず、いかにもAIで生成したような見た目をしている。毛皮にはある程度のディテールがあるものの、細かな要素はあまり鮮明ではない。また、動物の体全体で一貫性がない。動物の体の奥(後方)に行くにつれて、毛皮のディテールが失われているのが分かる。このような細かな作業は動画生成AIが苦手とするところだが、人間のアニメーターであれば気づいて修正しただろう。
親グマの毛は頭頂部より頬の方がふさふさしている。ホッキョクグマの毛はこのように滑らかではないはずだ動物たちは、トラックが通り過ぎると口を真ん丸にして、大げさに驚いた顔をする。これもAIらしい特徴だ。舞台裏の動画では、誰かがアシカの鼻のさまざまなAIバリエーションをクリックして切り替えている様子が映っているが、これはAIプログラムによくある機能だ。「Photoshop」の「生成塗りつぶし」によく似た機能も垣間見える。Googleの動画生成AI「Veo」も、少なくとも一度は使われている。
画像の下部では、動画生成にVeo 3モデルが採用されたことが確認できるCoca-Colaは2023年のOpenAIとの提携を皮切りに、以前からAIに全力を注いできた。Coca-Colaの広告代理店であるPublicis Groupでさえ、AIファースト戦略でCoca-Colaのビジネスを勝ち取ったと自慢しているほどだ。同社が顧客のAI批判によって揺らぐことはないだろう。
Coca-Colaが正しく行ったことが1つだけある。それは、AIの利用を動画の冒頭で開示したことだ。コンテンツ制作にAIを使うことと、それについて嘘をつくことは全く異なる。こうしたラベルは、コンテンツが本物かAI生成かを判別するのに役立つ最良のツールの1つだ。多くのソーシャルメディアアプリでは、投稿前に設定を切り替えるだけでラベルを付けられるようになっている。
左下に「Created by Real Magic AI」とあるAIの利用を明示するのは極めて簡単なのに、非常に多くのブランドやクリエイターが非難を恐れて開示していない。非難されたくないなら、使わなければいい。使ったかどうかを人々に議論させるのは時間の無駄だ。AI生成コンテンツが本物の写真や動画と見分けがつかなくなりつつあるからこそ、使用の有無をしっかり明示すべきだ。
AIの使用方法について透明性を保つことは、社会全体としてのわれわれの共同責任だ。ソーシャルメディアプラットフォームはAI生成コンテンツにフラグを立てようとしているが、そのシステムは完璧ではない。われわれは、Coca-Colaが今回のAI生成コンテンツについて嘘をつかなかったことを評価すべきだ。極めて低いハードルではあるが、これをクリアできない者も多い。
6月、米誌VogueがAIで生成したファッションモデルを起用したGuessの広告を掲載し、読者を激怒させた。人間のモデルたちはAIのせいで広告の仕事を得るのが難しくなっていると声を上げた。その1カ月後には、鋭いファンがJ.Crewによる「AI写真」の使用を発見。Toys R Usは2024年、AI生成のキリンを使った奇妙なCMを流して話題になったが、同社はそれがOpenAIの「Sora」の初期バージョンで作られたことを明らかにしている。
GuessとJ.CrewによるAIの使用が特に感情を害したのは、AIが本物のモデルや写真家の代わりに使われたことがあまりにも明白だったためだ。Coca-ColaとToys R UsによるAIの使用も同様に明らかだったが、AIの動物たちはそこまでの衝撃を与えなかった。Toys R Usの社長が言ったように、「キリンを雇おうとは考えなかった」からだ。
そうだとしても、これらのAI広告の制作において、現実の人間が仕事を失った可能性は非常に高い。Coca-ColaのCMは、アニメーターやデザイナー、イラストレーターを起用しても制作可能であり、そうすればもっと良いものになっていただろう。AIによる雇用の喪失は米国の成人を不安にさせており、クリエイティブ産業で働く人々は確実にリスクにさらされている。それは、画像・動画生成AIが労働者を完全に代替できるからではない。企業にとって、AIがもたらす最先端の効率性という魅力が、経営陣に都合の良い口実を与えてしまうからだ。これと同じことは、Amazonが1万人超の従業員を解雇した際にも起きている。
Coca-Colaのホリデー向けCMを見て、他に懸念事項が多数ある中で、またしても空気が読めない企業の失態だと片付けてしまうのは簡単だ。しかし、われわれが直面するこの奇妙な新しいAIの現実においては、画期的な瞬間と同様に、この重大で物議を醸すテクノロジーを常態化させてしまう静かな瞬間にも注目することが重要である。
だからこのホリデーシーズンはコーラではなく、Pepsiのクランベリーフィズソーダを飲もうと思う。
この記事は海外Ziff Davis発の記事を4Xが日本向けに編集したものです。
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