ソフトバンクと東京工業大学は10月6日、5G基地局と衛星通信地上局の下り回線との電波干渉を抑制する「システム間連携与干渉キャンセラー」の試作装置を開発したと発表した。
ソフトバンクの5G向けに割り当てられている3.9GHz帯(Cバンド)の電波は、従来から利用されている衛星通信の地上局の下り回線と同一周波数帯となっている。そのため、地上局の近傍に5G基地局を設置すると、衛星通信に電波干渉を与えてしまう問題があった。
そのため、ソフトバンクは5G基地局の送信電力を低減したり、アンテナの角度を工夫するなどして干渉を抑制していたが、これでは構築できる5Gエリア(セル半径)が狭くなってしまう。
また、地上局と5G基地局を場合によっては50km程度離すなどの対策もあるが、これでは地上局の周囲に5Gエリアを構築できないという課題があった。
干渉キャンセラーを用いて5G干渉信号をキャンセルする仕組みは次のとおりだ。
まず、衛星地上局に5Gの電波が干渉すると、衛星地上局では5Gの干渉信号と衛星信号の合成信号を受信することになる。
そこで、5G基地局と衛星地上局を光ファイバーで直結し、衛星地上局にピュアな5G信号である「カンニング信号」をあらかじめ伝送しておく。そして、逆位相の信号を生成し、それを衛星地上局に届いた5Gの干渉信号と合成することで、干渉信号だけを除去する。
5km相当の光ファイバーを用いた室内実験の結果、同時に3波までの干渉信号を打ち消し、ピュアな衛星信号を取り出すことに成功した。現状の構成でも5波程度までなら対応できるという。
今回の取り組みの肝は、5G基地局と衛星地上局を光ファイバーで直結した点となる。5Gの電波を光信号に変換し、光ファイバーで5G電波の到着前に届けることで、正確な逆位相の信号を生成できるというわけだ。
なお、5Gの電波はほぼ光速で空気中を伝搬するが、カンニング信号が通る光ファイバーの伝送速度は光速の3分の2程度と遅い。つまり、カンニング信号が衛星地上局に届く前に、5Gの干渉信号が届いてしまうことになる。
そこで、5G基地局の5G電波の送信をわずかに遅延させることで、カンニング信号が先に衛星地上局に届くようにした。なお、5G電波の送信をあえて遅延させると聞くと、ユーザーへの影響が気になるが、光速スケールでの時間差であり、遅延は1ミリ秒よりも短く影響はないとしている。
また、導入には衛星地上局側にキャンセラーを設置する必要があるが、衛星地上局側の通信品質に影響を及ぼすこともないという。
同キャンセラーをソフトバンクと共同開発した東京工業大学 工学院 電気電子系で特任教授を務める藤井輝也氏は、同装置はいずれチップになるほどに小型化し、衛星通信以外のさまざまな電波の干渉問題にも対応できるようになると話す。
現状の電波制度では、従来から利用されているサービスが専有している周波数帯を、後発のサービスは容易には利用できない。一方で干渉をキャンセルできるのであれば、周波数利用の自由度が大きく向上し、縦割りの電波割り当て制度も見直しを迫られる可能性がある。
なお、同キャンセラーシステムの研究の一部は、2021年に国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の「Beyond 5G 研究開発促進事業」の委託研究課題として採択された「移動通信三次元空間セル構成」によって実施されている。
現時点では室内実験を終えた段階で、今後はフィールド試験で効果を確かめる計画だ。また、ソフトバンクだけでなく他キャリアの基地局にも適用可能であるとした。
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