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マインドがあればスキルは身につく--IT×ものづくり教室「LITALICOワンダー」

 さまざまな形のブロックが置かれた部屋の中で、小学生が自由に歩き回り、時折ほかの子どもに話しかけながら、ブロックやモーターを組み合わせてロボットを作り上げる。その傍らに立っている大学生のメンターは、行き詰まった時だけさりげなくアドバイスをしてくれる――。一見、遊んでいるようにも見えるこの光景が、IT×ものづくり教室「LITALICOワンダー」の授業の様子だ。


ロボットコースの授業の様子。生徒たちが自由に歩きながらオリジナル作品を作る

 LITALICO 事業企画グループ マネージャーである毛利優介氏は、「学校や習い事は“頑張って行く場所”というイメージがあるが、(LITALICOワンダーの)教室にくると子どもたちは公園に来た時のように、ワクワクしながら自由にものづくりをする」と話す。また、指導者であるメンターについても、「子どもたちとの間に上下関係はなく、一緒に遊びながら教えてくれる年上のお兄さんという感じ」と表現する。

個性を伸ばす“オーダーメイド”の教材

 LITALICOワンダーは、発達障害のある子ども向けの学習塾「LITALICO ジュニア」などを展開するLITALICOが、2014年4月に立ち上げたプログラミングやものづくりの教室。一般の生徒が中心だが、2~3割は発達障害のある子どもであるため、みんなが一斉に同じ作品を作る講義形式ではなく、それぞれの生徒の個性や興味にあわせた、“オーダーメイド”のカリキュラムを提供していることが特徴だ。

 「テクノロジを身につけること自体を目的にしていない。それらを使って、新しいものを生み出したり、その子らしい表現ができることを大切にしている」と毛利氏は方針を語る。そのため、あえて年齢やスキルをバラバラにしたクラス編成にして、少人数制で授業を行なっている。ほかの生徒の作品をみたり、作り直したりできるよう、授業時間は少し長めの90分間に設定しているという。


LITALICO 事業企画グループ マネージャーの毛利優介氏

 学べるコースとして、「ゲーム&アプリプログラミングコース」「ロボットクリエイトコース」「ロボットテクニカルコース」「デジタルファブリケーションコース」の4つが用意されている。現在は、東京都と神奈川県に複数の教室を構えており、アクティブに2000人近い生徒が通っている。このうちの約5割がゲームプログラミングコース、約4割がロボットコース(クリエイト/テクニカル)、約1割がデジタルファブリケーションコースを選んでいるという。

 プログラミングコース(小学1年生~高校生が対象)は、ゲームやアプリ制作を通じて、プログラミングの考え方を身につけるコース。開発には、画面上のブロックを組み合わせる「Scratch(スクラッチ)」や、ウェブブラウザ上で動くHTML5とJavaScriptベースのゲーム開発エンジン「enchant.js(エンチャント.ジェイエス)」、iPhone/iPad用アプリを開発できる「Xcode(エックスコード)」などのツールを使う。

 たとえば、ゲームやアニメーションを作る場合には、生徒たちがオリジナルのストーリーを考えたり、画面の動きをプログラミングしたり、背景やBGM素材を作ったりする。過去には、大量の弾を避けながら敵を倒すシューティングゲームや、岩や草などのパーツを組み合わせて自分だけの箱庭を作れるゲームなどを生徒が制作した。


 プログラミングコースでは、「Scratch」などのツールでゲームやアプリを作る

 ロボットクリエイトコース(幼稚園年長~小学3年生が対象)では、組み立てたブロックをセンサやモータ、プログラミングで動かせる「レゴ エデュケーションWeDo」を使い、機械の内部構造やプログラミングの基礎を身につけられる。より高度なロボットテクニカルコース(小学3年生~高校生が対象)では、専用の小型コンピュータにプログラムすることで、組み立てたロボットを自由に制御できる「教育版レゴ マインドストーム EV3」を使って、複雑なロボット製作に挑戦する。過去には、窓ふき掃除を手伝う霧吹きロボットや、黒い線の上を走るライントレースロボットなどを作った生徒がいたそうだ。

 デジタルファブリケーションコース(小学1年生~高校生が対象)は、3Dプリンタやレーザーカッターなどのデジタル工作機器をつかってオリジナルのものづくりができるコース。これまでに、3Dプリンタで作ったパーツを組み合わせたフィギュアや、PCで描いたイラストをレーザーカッターで彫刻した小物入れなどを制作した生徒がいるという。

 気になる授業料は、プログラミングコースが月2回で1万円、月4回で1万6000円。その他のコースが月2回で1万1000円、月4回で1万8000円(いずれも税別)。決して安いとは言えない価格のため、現在通っている生徒は比較的収入の高い世帯の子どもが多いという。ただし、「スポーツや習字など、ほかの習い事は何をやっても続かない子どもが、プログラミングにだけ興味をもって来るようになった例もある」(毛利氏)という。

プログラミング教室に通わせる保護者の声

 生徒たちは学校が終わると、LITALICOワンダーの教室に来て自分の選んだコースの授業を受ける。同社では生徒ごとにその日のゴールを設定しているが、進行状況や興味によって教える順番を変えたり、スキップしたりするなど柔軟に対応しているという。また、個々の指導記録をとっており、どのような学び方をしているかを把握した上で、次の授業の内容を決めているそうだ。

 小学校低学年の生徒などは授業後に保護者が迎えに来ることも多い。子どもたちはその日に作った作品のこだわったところや自慢したいポイントなどを保護者に伝え、保護者はそれを嬉しそうに聞きながら、スマートフォンのカメラで、我が子が作ったロボットやゲームの写真や動画を撮影する。またスタッフからも、その日の授業への取り組み方や成果物について説明することで、保護者の理解を深めているという。


1回の授業につき1つの作品を作ることを目指す

 プログラミングコースに通う、ある小学校2年生の母親に話を聞いた。この生徒は、興味のあることには深く集中する一方で、他の生徒などに興味を持たないところがあり、幼稚園の年中時には、あまりクラスに馴染めなず不登校気味になっていたという。そこで、何か別の経験をさせてあげられないかと考え、当時ロボットに興味を示していたことから、LITALICOワンダーのロボットコースに通わせたという。次第にプログラミングの方に興味があるとわかり、現在のプログラミングコースに変更した。

 プログラミングコースに通い始めて少し経った頃、子どもが車窓をみながら「遠くの景色はゆっくり進んでいるように見えるのに、近くの景色は早く進んでいるように見える」ことに気づき、それをプログラミングツールのScratchで再現した。これを機に疑問に感じたことや、思いついたことをプログラミングで形にするようになったという。「絵を描くのが好きな子どもが風景をみたり、演奏が好きな子が音楽を楽しんだりすることに近い感覚。試行錯誤を繰り返す経験が成長に良い影響をもたらし、粘り強さや集中力、思考力も身につくのでは」(母親)。

 一時は、発達障害かもしれないと不安に感じた時期もあったそうだが、LITALICOワンダーでその生徒に最適な教材で学ぶことができ、また年齢に関係なく交流ができる環境だったことで次第に友だちも増え、本人も自信を持つようになったと母親は話す。行政や教育機関の理解もあり、小学2年生になった現在は、日々の学業や生活を楽しみながら過ごせるようになっているという。

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