クラウドベースのソフトウェア開発プラットフォームを提供するGitHubは、本社があるサンフランシスコでデベロッパー向けイベント「GitHub Universe 2016」を9月に開催し、基調講演では「ソーシャルインパクト」を大きく取り上げ、その重要性を訴えた。
ソーシャルインパクトという単語は、雇用や教育、貧困など社会が抱える問題を解決するために投資する活動を指し、“社会的貢献投資”とも訳される。一般的には株や為替の代わりにNPOやNGOの活動に投資することで、行政の負担を軽減するなど財政的なメリットがあるとして注目されてきたが、GitHubが考えるソーシャルインパクトは組織の運営もさることながら、そこで活動する人たちや考え方、そしてこれからの生き方に対して投資するという印象が強く、対象もオープンソースやコード教育に集中している。
いずれにしても、過去最多となる新機能を発表した初日の基調講演と同じ時間をソーシャルインパクト関連の発表に当てたことから、企業の重要戦略であると位置付けているのがわかる。
GitHubでソーシャルインパクトを担当する副社長のNicole Sanchez氏は、基調講演で「米国は新しいテクノロジを仕事で使う人がこの20年で1500万人になるとしているが、それらはコンピュータサイエンスを専攻する学生だけでなく、オープンソースを利用して学ぼうとするあらゆる人が対象にならなければとても足りない」と言い、コードを書くだけでなくプロジェクトを運営したり、デザインを担当したり、さまざまなスキルを持つ人たちを新しいデベロッパーとして育成、支援していくとしている。
イベントでは支援先の例として、軍人を対象にコード教育を行う「Opereatin Code」の活動を創設者のDavid Molina氏が紹介した。
他にも、オンラインを通じて生涯教育を提供するスタートアップの「BSMdotCo」と連携したり、若い黒人女性にコード教育をする組織「Black Girls CODE」のためにチャリティライブを開催するなど、さまざまな支援活動が紹介された。
コード教育は、日本でも文部科学省が小学校のプログラミング教育必修化を検討しており、世界でも重要視されている。
課題は指導者の育成や教材をどうするかだが、GitHubでは「GitHub Education」という教育プラットフォームを用意し、学生に無料アカウントを発行している。それも単なる教材ではなくサービスがそのまま使えるので、スキルを磨いた学生がオープンソースプロジェクトに直接参加できる。
Sanchez氏はネットワークやクラウドの普及によって、バックグラウンドにこだわらず誰でもどこに住んでいてもデベロッパーになれるとし、「新しいスキルを手に入れるプラットフォームとしてもGitHubをどんどん活用し、社会にインパクトを与えてほしい」と述べた。
ソーシャルインパクトを目的とした投資は、行政の運用費用削減につながるとされているが、GitHubでは行政のソフトウェア開発をオープンソース化することを支援するという、これまでとは異なるソーシャルインパクトで社会に貢献しようとしている。イベントではその成果がすでに現れていることが、ホワイトハウスの技術補佐官と英国のデジタルサービス担当者がからそれぞれ紹介された。
ホワイトハウスのAlvand Salehi氏によると、年間で4万2000のソフトウェアを利用しており、開発に60億ドルのコストを費やしていたという。「そこでオープンソースの発想を取り入れてコードを再利用することでコスト削減が達成できた。さらに他の行政や市民が活用できるようオープン化していく」とし、Code.govとしての公開を進めていると紹介した。
同様の動きは英国政府でもあり、英国政府のJames Stewart氏は「単なるオープンソース化というよりは、複雑で巨大なプロジェクトを見える化して整理することで無駄を無くし、同時に求められるサービスがどういうものかを見直すきっかけにした」と言う。
両政府ともオープンソース化の作業を進めるプラットフォームとしてGitHubを活用しているが、「コードを管理、共有するだけでなく、コメントを受け入れる場としても役立っている」としている。Stewart氏は「英国政府では行政のさまざまなサービスをデジタル化していく方針だが、情報発信やサービスへのアクセスをどうするかを考え、システム的なチャレンジも必要である」と言い、新しい発想ができるデベロッパーの重要性を示唆している。
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