お世話になってます。林です。
先日書かかせていただいた「『出版不況』は本当か?--書籍まわりのニュースはウソが多すぎる」が、けっこう好評のようです。ありがとうございます。
エゴサーチをしてみますと、いくつか批判というか、ツッコミがありまして、今回はまず、そこを補完してみたいと思います。
個人的に一番痛かったのが、次のような指摘です。
“(紙の)コミックは書籍扱いと雑誌扱いがあるはず。紙書籍+電子書籍の合計を出すのなら、紙本に(雑誌扱いの)コミックを足さなければ、全体像は見えないのではないか”
はいそのとおりですね。そこで、遅ればせながら調べてみました。「出版年鑑」にはコミックの統計がありませんが、「出版指標年報」には「コミックス(書籍扱い+雑誌扱い)」の数値がありました。
コミックス(書籍扱い+雑誌扱い)の2013年の販売金額は、前年比1.3%増の2231億円。部数は前年比0.6%増の4億3856万冊となっています。
「出版指標年報」は、「コミックス」販売金額の内訳(何割が書籍扱いで、何割が雑誌扱いか)を明らかにしていませんが、それぞれの新刊点数は公開しています。
それによると、2013年の場合、雑誌扱いの新刊コミックは9481点、書籍扱いの新刊コミックスは2680点となっています。1998年以降の数値を平均すると、雑誌扱いが75%、書籍扱いが25%となります。
そこで、ちょっと乱暴なのですが、「コミックス」全体の売上のうち75%が雑誌の統計に含まれていると仮定します。その分を書籍統計に加え、さらに2002年以降のその数値の平均変化率(-0.9%)から、2014年から2018年までの予測を立てると、次のような推移になることが予想できます。
基本的には、前回の「出版年鑑」をベースとした「雑誌扱いコミックス抜き」の予想と、おおよそ同じ傾向になりました。ほっ。
もう一つ、こんな意見もありました。
“「出版界」というのは書店、取次、出版社、著者などから成り立つもの。本や雑誌の売り上げだけから「不況」「好況」をいうのは筋違い。”
これも、まあ、そのとおりです。
前回、「『出版不況』と言われる状況は、少なくともコンテンツに関しては、早晩脱するシナリオが見えてきたとも言えるのではないでしょうか?」と、「コンテンツに関しては」と留保をつけたのは、
「コンテンツ以外は今回、検討していませんよ」
という含みがあったからでした。このうち、「書店」について調べてみますと、以下のようなデータが見つかります。
確かに、数は減っているのですが、書店の床面積を合わせた「総坪数」は、実は未だに増えています。
つまり、「小規模店舗が店を畳む一方、大規模な書店が続々とオープンしていた」ということでしょうか。そうなると、「不況」というより、「小規模→大規模」の「構造転換」と呼んだ方がいいかもしれません。
「取次」についても似たようなことが言えます。確かに、日販やトーハンなど大手出版取次の業績は、長期の停滞過程にあるようです。
しかし商業全体を見れば、ユニクロやニトリ、無印良品のようなSPA(製造小売直売)が花盛り。コンビニや居酒屋、ファストフード、ファミリーレストランなどのフランチャイズチェーンも隆盛です。これらはみな、取次を介さない「直販」の一種ともみなすことができます。
他の産業でも起きていることが、出版でも起きた、とすれば、それを「出版不況」という形で特別視することはできないのではないでしょうか?
もう一つ、こんな指摘もありました。
“雑誌の場合、販売収入よりも広告収入の落ち込みが深刻。だから売上だけで「不況」かどうかは判断できない。”
はい、これもまさに、その通りです。この点については、「ガベージニュース」さんが経産省のデータをもとに非常にうまくまとめていらっしゃるので、そちらを御覧ください。
20余年間の広告費推移をグラフ化してみる(上)…4マス+ネット動向編(特定サービス産業動態統計調査)(2014年)(最新)
“例えば新聞や雑誌の広告費はこの10年で約半減。ラジオもほぼ同じ程度の減少。「広告費」と「利用率・媒体力」はそのまま直結するわけではないものの(景気動向やライバル媒体とのパワーバランスも影響する)、激動する時代の変化を感じさせる”
「広告媒体」としての雑誌は、確かに、破壊的な変化の只中にありますね。
これも、「書店」「取次」と似たような構図と考えることもできます。インターネットという、非常に安い、企業メッセージの「直販」経路ができたために、「雑誌」という経路が、高コストで迂遠なものになってしまったというわけです。
しかしこのことは、雑誌コンテンツが急激に魅力を失ったことを意味するわけではありません。ですが、確かに「広告媒体」としての雑誌が不況であることは間違いないです。
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