Salesforce.comが米カリフォルニア州サンフランシスコで開催している世界最大規模のクラウドコンピューティングイベント「Dreamforce 2011」では、米国時間8月31日に同社会長兼CEO(最高経営責任者)であるMarc Benioff氏の基調講演が行われた。
Dreamforceには、当初発表された4万人を上回る4万5000人の参加者が登録。そして、この基調講演には1万5000人が来場し、3万5000人がオンラインで聴講した。
Benioff氏は基調講演で“ソーシャル革命”について、例年通り熱く説明した。ただし、本題に入る前に「いま世界が変わってきています。大きいパラダイムのシフトが起きています。メインフレームからクラウドサーバにコンピュータの形が変わり、いまクラウドの世界が広がってきています。新しい技術やビジネスのモデルが非常に伸びていますが、それだけではなくこれらを補完する社会貢献のモデルがあります」と語る。
Salesforceは創業当初から株式(時価総額)の1%、利益の1%、従業員の労働時間の1%をチャリティに寄付してきたが、現在1万2000の非営利団体がSalesforceのツールを使い、2400万ドルをこれらに投資しているという。そして、Benioff氏は来場した非営利団体の人たちに立ち上がってもらい、普段の労をねぎらうように拍手を送り、「商業的なビジネスをしている人たちにもこうした活動に注目してもらいたいのです。我々は13年間サポートしてきましたが、みなさんもアイデアや技術、資金で、ぜひこうした団体を支援していただきたいと思います」と続けた。
さらに、「私は自分の仕事が大好きです。それは、すべてが常に変化し続けていてそれに対応できるからです」と声を高らかに発し、IT業界と社会動向の変化からソーシャル革命について語り始めた。「IBMのメインフレームから始まり、それがDECのミニコンピュータの時代になり、その後PCの時代が到来してBill Gates氏が非常にすばらしい仕事をして我々の業界を支配しようとした。それもやっと終わり、私もほっとしたが、いまはSteve Jobs氏が導いてモバイルの時代が到来した」。
そして、この先にはソーシャル化された新時代が訪れようとしており、いままでのパラダイムとは大きく異なるソーシャル革命が起こっていると主張した。その代表格が“アラブの春”で、さまざまな国で民主化運動が起こり、何十万人という人々が反対運動によって独裁者を追い出していることを挙げた。その中で、写真を見せながら、MicrosoftやIBMに感謝する人はいないが、Facebookにはいろいろな言語、地域で賛辞が寄せられているとし、この動きを絶対に注視しなければいけないとした。それは、こうした社会の動きと同様に、企業も独裁的なことをやっていれば消えていくかもしれず、カスタマー(顧客)や従業員の声に耳を傾けない企業は滅びる可能性があるというわけだ。
その上で、ソーシャルネットワークのユーザー数は電子メールのユーザー数を超えたというデータを示し、「Facebookがウェブを独占し始めています」という表現を使ってウェブの利用が変わってきていることも指摘。「『www.何々』というサイトに行くのがいままででしたが、いまは『facebook.com/何々』というところに企業や製品、プロジェクトの名前などが続き、Facebookに行ってウェブを使うという時代になってきています」と説明した。
また、こうしたソーシャルだけではなく、モバイルも時代のキーワードになっていることを重視。ウェブを利用する際、PCよりも進化を続けているモバイル端末を使う回数が多くなっており、それを示したのが「Hewlett-Packard(HP)がPCを諦めたこと」とした。そして、「以前はこうしたソーシャルの技術は消費者が使うものという意見をよく聞きましたが、本当はエンタープライズでも使われる技術です」と述べた。
ただしソーシャル革命は起きてこそいるが、同時に日本や米国、欧州、世界のどこであろうとも「ソーシャルデバイド」が存在していることを指摘した。たとえば、企業の顧客や従業員は、それぞれ単体ではソーシャル化が進んでいるが、その顧客企業と社員はソーシャルなつながりを持っていない。それでは「ソーシャルエンタープライズ」や「エンタープライズのソーシャル化」とは呼べず、消費者と従業員の間にソーシャルデバイドという亀裂が生まれることになる。これをどうやって埋めていくべきかにもっとも注目しており、発信するべきメッセージや、やるべきことを探求してきたという。
そして、エンタープライズがソーシャルデバイドの橋渡し役になるには、3つのステップを踏むべきだと唱えた。まず、ステップ1はデータベースの構築。顧客の情報や意見などを本当の意味で注目し、トラッキング(追跡)しているかどうかを問い、FacebookやTwitter、LinkedInなど、さまざまなソーシャルネットワークからそうしたことを学ぶべきだと説いた。顧客から学ぶためにソーシャルデータベースを構築するべきで、これは顧客のソーシャルプロフィール作りから始まるとした。
ステップ2は実際に顧客から学ぶために、従業員のソーシャルネットワークを作ることだという。同社は2年前のDreamforceでChatterを発表したが、その頃から従業員(エンプロイ)ソーシャルネットワークという言葉を使ってきた。単純なコラボレーションではなく、データを孤立させずに鍵となるアプリケーションを使ってすべてをつなぎ、ソーシャルネットワークを活用することだ。
ステップ3は、顧客ソーシャルネットワーク、プロダクト(製品)ソーシャルネットワーク、つまり構築してきたソーシャルネットワークの中に顧客もしくは製品を入れることだ。こうして得られたデータなどを分析して活かせば、いままでにないマーケティング手法なども編み出されるだろうという。
まとめると、3ステップを踏んで顧客、製品、従業員それぞれのソーシャルネットワークを統合して、さまざまに分析してビジネスに活かすべきだというのがエンタープライズソーシャルについての考え方だ。ただし、Benioff氏は「それでもまだ最終ラインというか、ゴールは見えてきていない」と語り、もっとスピードを上げて取り組むとした。そして、嘘のクラウドではなく、民主的、効率的、経済的で、全員で共有できるソリューションを作ろうとしているのがSalesforceだと説明した。
◇Dreamforce 2011
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