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まだ手つかずの残り99%をいかに実現するか‐‐必要なのは自ら問題解決できるエンジニア

宍戸周夫(テラメディア)2010年12月09日 14時39分
特集

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 クックパッドの佐野陽光社長は常々「自分たちのやりたいことの1%も実現できていない」といっている。同社が目指すゴールはまだまだ遙か先にあるということだ。そこで、同社の“やりたいこと”を実現するためのエンジニアをいかにリクルートするかが重要な課題となっている。その一方で、社内のエンジニアのスキルアップのための仕組み作りにも取り組んでいる。

クックパッドが求めるエンジニア像とは

 国内最大の料理サイト「COOKPAD」を運営するクックパッドでエンジニア部門を率いるCTOの橋本健太氏は、プログラミングはあくまで手段と考えている。

 それでは、エンジニアの本当の仕事は何か。それは「世の中にある問題を見つけだし、それを解決すること」となる。

クックパッド 橋本健太CTO クックパッド 橋本健太CTO

 「今の世の中は、解決しなければならないことだらけです。料理を楽しくという点でも、解決しなければならない問題が数多くあります。こうした問題を見つけてきて、自分はこうした問題を解決したいのだという情熱を持っていることが大事だと思います」

 それをアジャイル型で、ある仮説を作ったら実際にシステムを作ってみる。それでうまく行かなかったら、作って壊し、作って壊しということを繰り返す。

 「そして、実際にシステムを完成させるということが大事です。何となく作るくらいならできるエンジニアは多いですが、きちんと完成させることが大事だと思うのです。そして、完成させたらユーザーに公開します。しかし、公開したら終わりということにはなりません。私は、公開したところでシステムとしての完成度は10%くらいだと思っています。公開して初めて分かることがたくさんあるからです。ユーザーさんが使ってくれたことをきちんと追いかけ、残りの9倍くらいの時間をかけ、自分が最初に発見した問題が解決されているのかどうかを検証していくということになります」

 こうした工程を踏まえ、自分が最初に見つけた問題を解決できるかどうかを、クックパッドのエンジニアは求められている。さらに、この工程を一人のエンジニアが責任を持って行うということになる。

 「理想は、25人のエンジニアがいれば、25個の問題が解決に向けて動いているという形です。しかしそれは、決してバラバラで、一人で動くということではありません。自律・分散・協調といったらいいでしょうか。まず、自分で問題を見つけ、解決しなければならないことを明確にする自律があります。次の分散で、それぞれが違う問題を持ち、それに対し違う方法で作業を行う。そして最後の協調で、お互いの問題を力を合わせて解決するという流れですね」

 現在、クックパッドの約25名のエンジニアは、いくつかのチームに分かれて作業をしている。レシピをアップロードしてくれる人に向けたサービスを向上するためのチーム、検索するユーザのためのチーム、さらに開発基盤のチームもある。

 「アジャイルというのは人数が増えれば増えるほど難易度が上がっていくのです。そのため、エンジニアが100人、1000人になってもアジャイルで開発できる基盤を今から作っておかないといけません。そこで基盤エンジニアも何人かいます」

 それ以外に3つの収益モデル別にもエンジニアが分かれている。たとえばマーケティング支援事業として解決しなければならない問題があり、そのためのエンジニアがいる。

 しかし現在のエンジニア25人では、まだまだ人手が足りないというのが実感だ。「現状でも全然人が足りない。人数さえいればやりたいことはまだまだあるが、それができていない」と橋本氏はいう。

エンジニアが成長する仕組み

 優秀なエンジニアがいればやりたいことはいくらでもあるというクックパッド。つまり、そうしたエンジニアをいかにリクルートするかが喫緊の課題である。

 「採用案内はもちろん自社のサイトにも載せていますが、その他でも当社が主催する開発コンテストなどのイベント経由で来てくれたり、紹介会社から来てくれたりする人もいます。特に、イベントなどで当社のビジネスモデルを理解してもらい、その後本社に来てもらって実際に話をするというのはリクルートに効果的ですね」

 入社してからは、実戦でその能力を伸ばしていくということになる。橋本氏も「アジャイル型の開発手法であり、短い期間で成果を出していくという仕事の仕方をずっとやっていれば自然と技術力が成長していく」と考えている。「やはり実戦を積むということが、エンジニアが一番成長するものだと思っています」という。

 しかしその一方、エンジニアがこれだけ集まってくるとお互いの情報交換が大事になる。そこで、クックパッドではいろいろな能力開発の場を設けている。そのひとつが、週1回のエンジニアだけのTech Meetingだ。これはいわば、エンジニアが自慢したいような、自らの成果を披ろうするような会議である。

 また2週間に一度のペースでTech Lunchを行っている。ランチの時間に毎回一人が1時間かけ自分が仕事に役に立ったことなどを発表する。その話を聞きながら、他のエンジニアが感想を述べたりアドバイスしたりする。

オフィス入り口すぐにある、同社自慢のキッチン。
“Techまかない”という、エンジニアが実際に料理してスタッフに振る舞うミーティングもある

 エンジニアが成長しやすい環境づくりにも十分配慮している。エンジニアがその暗黙知を交換するために効果的なペア・プログラミングのために大きなディスプレイを用意するなど、エンジニアが成長し成果を出すための投資は惜しまない。

生活の役に立つものづくりの会社

 「今では誰でも無料でPCとインターネットの接続環境さえあればプログラミングする環境が整っています。自分自身で、ある問題を解決したい、実現したいと思えば、多少の向き不向きはあるにしても、できる環境は整っているのです。また、AppStoreやAndroidなど、アプリケーションを公開できる場もどんどん広がっています。つまり、プログラマーになるための障壁はどこにもないのです。能力というより、一歩踏み出すかどうかじゃないでしょうか」

 以前、コンピュータの世界を6K職場、7K職場というように揶揄する風潮があった。それに対し、橋本氏は「ネガティブな声が強すぎます。エンジニアってすごく楽しそうだというイメージが必要ではないでしょうか」と異論を挟む。

 実際、クックパッドでは、エンジニアは十分リスペクトされている存在だという。テクノロジー・カンパニーを標榜していることでも分かるように、同社では人事制度などでもエンジニアを優遇している。

 「もしエンジニアがエンジニアとして、一生コードを書き続けたいと考えても、エンジニアだからキャリアにならないということはありません。エンジニアとしてキャリアアップできるし、給与もずっと上がり続けることができます。また途中でマネジメントが得意だということになれば、それはいつでも替わることができます。要は、その仕事が得意な人がやればいいという考えが当社の基本にあるのです」

 クックパッドは、“世界で一番生活の役に立つものづくりができる会社”だという。どこまでも料理にフォーカスしていく会社だが、そのユニークなビジネスモデルを支えているのはあくまでもテクノロジーであり、エンジニアということのようだ。

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