政府の知的財産戦略本部などで、ネット上のコンテンツ流通を促進するために知財制度や法制度を見直す動きが出てきている。この動きについて、コンテンツ業界の関係者はどう思っているのだろうか。
12月9日に東京都内で開催された「JASRACシンポジウム2008」において、ドワンゴ代表取締役会長の川上量生氏、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授でエイベックス・グループ・ホールディングス取締役の岸博幸氏、立教大学社会学部メディア社会学科准教授の砂川浩慶氏、ホリプロ代表取締役会長兼社長 CEOの堀義貴氏、社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)常務理事の菅原瑞夫氏がこの問題について議論した。コーディネーターは中央大学法科大学院教授で弁護士の安念潤司氏が務めた。
JASRACシンポジウムは3月26日にも開催され、同じメンバーで議論がされた(内容は記事「IT業界はコンテンツを無料で騙し取っていないか--著作権問題の奥にあるもの」「お金を払う人が負け組」という状況をなくすべき--ドワンゴ川上会長、著作権問題に提言」を参照)。今回はその続きとして、コンテンツ流通をめぐる問題に焦点が当てられた。
安念氏はまず、「流通促進が声高に言われる業界はあまりない。農地の流通促進、といった話は聞かないし、あっても限定された文脈で語られる。しかし、コンテンツだけは流通促進が必要と言われるのはなぜなのか」と疑問を呈した。
これに対し、砂川氏は「流通促進という言葉自体がおかしい」と断言。「まず制作促進があるべきで、製造業がうまく行かずに流通業だけ栄えるということはない。制作会社では入社5年目の社員などほとんどおらず、新しいものを作ろうという土壌がなくなっている。番組の制作環境が悪化しており、人材育成こそが重要だ」(砂川氏)として、議論の前提自体が間違っているとした。
岸氏も「政府でもデジタルコンテンツの流通促進が騒がれているが、流通促進が国益なのか。コンテンツ流通促進自体は確かに大事だが、それは手段であって目的ではない」と政府の姿勢を厳しく非難した。
安念氏は両者の話を聞き、「学生が北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に行ったとき、『高速道路はピカピカだったが、1台も対向車に会わなかった』という話を思い出した」として、流通だけが取りざたされる現状を皮肉った。
さらに菅原氏も、「流通が盛んになれば、それで市場ができるのではないかという議論のようだ。誰が得をするかというと、通信事業者だとしか思えない。しかし、経済的な循環がなければ、水のない植物のように枯れてしまう。文化は作り手だけでも受け手だけでもできず、両者が必要だ。しかし、流通が作るものではない」と厳しく非難した。
制作現場の疲弊という問題は、堀氏が強く感じていることでもある。
「日本はこれから人口が減る。特に、若い人が減るので、新しいソフトが作れない状況が生まれている。実際、単純にお金がないという理由でテレビ局では製作本数が激減していて、出演者もクリエイターも確実に仕事が減っている。学生は、メディアを取り巻く環境を知っており、ここに来ても未来がないと感じている。製作会社に就職活動をする人は激減した」(堀氏)
砂川氏も日本民間放送連盟(民放連)に長年勤めた経験から、「テレビ局志望の学生数は減っていないが、報道や制作を志望する人は減っている。新聞社の志望者も激減している。記者職は3K(劣悪な労働環境)だと思っていて、夜討ち朝駆けでネタを取るのを嫌がる」とし、もはやコンテンツ制作の仕事は魅力を失っていると話す。
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