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デジタルだけどアナログのよさを持つ10年選手--お気に入りガジェットバトン第25回

井上真花(マイカ)2007年09月28日 14時58分

年々失われゆく記憶力をカバーするには

 わたしにとっての今年最大のテーマ、それは「アンチエイジング」。といっても、スキンケアだとかデトックスの類ではない。寄る年波に勝てず年々衰えていくのは、なにも容姿ばかりではないのだ。

 たとえば通勤電車の中、つり革につかまりながら外の景色を見ているとき、ふとすばらしいアイデアが浮かんだとしよう。それも、そんじょそこらの思いつきではない。「おお! 私ってば天才!」と、思わず自分を褒め讃えてしまうほどのアイデアだ。そのとき、あなただったらどうするだろう。会社に着くまでそのアイデアを覚えておいて、デスクについた後でノートに書き留めるだろうか。残念ながら、わたしにはそれができない。なぜなら、それまでアイデアを覚えておく自信がないからだ。

 若い頃は、そうでもなかった。覚えておきたいことはきちんと頭の中にあり、必要に応じて引き出すことができた(と、思う)。しかし悲しいかな、年を追うごとに記憶力は確実に衰えていった。これこそ、わたしにとって最も切実な「アンチエイジング」問題。加齢とともに失われていく記憶力をカバーすることができなければ、仕事を続けることすら難しくなってしまう。

自分の使い方にあった手帳を見つけるために

モレスキンのラージ スクェア・ノートブック。お気に入りのペン「ハイテックCカヴァリエ」とともに モレスキンのラージ スクェア・ノートブック。お気に入りのペン「ハイテックCカヴァリエ」とともに

 この課題をクリアすべく、私は記憶をサポートするためのツールを探し始めた。まず思いつくのは、メモ帳だ。できれば、いつでも身につけて持ち歩き、すぐに書き込めるサイズがいい。インターネットのクチコミ情報を調べてみると、どうやら「ロディア」というブランドのメモ帳がいいらしい。さっそくNo.11と皮製の専用カバー、短いペンを購入した。その後、しばらくカバンの外ポケットにいれて持ち歩いてみたが、結論から言うとあまり使うことはなかった。ロディアのメモは、基本的に「保存する」ためのものではない。メモが必要なくなったら、ミシン目で切り取って捨てるようになっている。しかし私は、メモを捨てるのが嫌だった。自分が書いたものに執着する性格なのか、なんだかもったいない気がしてしまうのだ。

見開き2ページで一日分。タスクはポストイットに書いて貼り、完了したら剥がして捨てる 見開き2ページで一日分。タスクはポストイットに書いて貼り、完了したら剥がして捨てる

 ロディアの次に買ったのが、これもクチコミで人気が高いモレスキンの手帳だった。モレスキンにはゴムのベルトがついていて、中にいろいろ貼り付けても落ちないようになっている。これにポストイットを貼り付け、ゴムで綴じて携帯することにした。これなら、とっさのメモはポストイットに書き込めばいいし、そのメモを覚えておきたい間はモレスキンに貼り付けて持ち歩けばいい。用がなくなったら、手帳本体に転記してポストイットだけ捨てればいい。実際、この運用方法は大変うまくいった。今も、毎日このメモ帳を持ち歩いている。会社にいるときは机の上に広げ、電話で用件を聞いたらすぐにポストイットに書き込み、手帳に貼っておく。その用事が済んだら手帳に書き込み、ポストイットを剥がして捨てる。これがなかなか効率がよく、現時点ではうまく運用できているようだ。

場所を選ばずメモできるモバイル端末とは

 しかしこのすばらしい方法にも、欠点はある。メモを手にもって書き込むには、それなりの環境が必要だ。たとえば最初の例だが、電車の中で思いついたアイデアをポストイットに書き込むというのは、事実上難しい。なぜなら、電車は揺れるからだ。揺れる電車の中でペンを使って文字を書くのは、困難というより不可能に近い。百歩譲ってどうにか書き込めたとしても、後で見て判別できる文字ではないはずだ。

 このとき役立つのは、HP100LX。もう10年以上も前のMS-DOS搭載端末だが、私はこれにVZエディタを入れ、原稿執筆や取材メモ用端末として今も日常的に使っている。重さは約300gで、ギリギリ片手で持てるサイズ(15.5cm×8cm×2.5cm)。フルキーボードがついているので、立ったままでも両手の親指を使って快適に文字入力できる。電源を入れればすぐに画面が表示されるので、パソコンのように起動を待つ必要もない。これなら、揺れる電車の中でも好きなだけメモできる。ジーパンの後ろポケットに入っているHP100LXを片手で取り出し、電源をいれると同時にキーボードでささっと文字を入力したら、そのままジーパンのポケットに戻せばいいのだ。電源はオートで切れるようになっているし、次に電源をいれたときには前回と同じ画面がすぐに表示されるから、セーブする必要もない(しかしちょっとしたトラブルでデータが消えることもあるので、こまめにセーブした方が安全)。

これがHP100LX。うちの会社にはこれが数台あるので、間違えないように名前のシールを貼っている これがHP100LX。うちの会社にはこれが数台あるので、間違えないように名前のシールを貼っている

 このHP100LXがあれば、電車の中でも、台所で料理しているときも、外で買い物しているときも、好きなタイミングでメモできる。お風呂の中でよいアイデアが浮かぶというのはアルキメデス時代からのお約束だが、HP100LXをジップロックに入れて持ち込めば、お風呂の中でもメモできる。実際わたしはそれを何度もやってみたが、いまだ問題なく動いている。なんともタフな端末なのだ。

HP100LXを開いたところ。フルキーボードと10キーがついていて、入力しやすい HP100LXを開いたところ。フルキーボードと10キーがついていて、入力しやすい

 ぱっと取り出し、ささっと書いて元に戻すという一連の作業は、紙の手帳にメモするのと大変よく似ている。デジタルながらアナログの良さも兼ね備えているHP100LXは、わたしにとって最強のメモ端末であり、その地位はこの10年間揺らぐことはなかった。おそらく次の10年も、彼は変わらず王者で居続けるだろうと思う。そう、加齢によって私の目がすっかり老眼になってしまわない限りは。

井上真花プロフィール

フリーライターとして雑誌、書籍などの執筆活動を開始し、1997年に技術評論社に入社。その後再び独立し、2001年に「オフィスマイカ」を設立する。モバイル端末を収集する習性があり、ついには「家ごと持ち歩いてしまえ!」とキャンピングカーまで購入。暇さえあれば、犬と一緒にドライブしている。

【使用製品】

HP100LX

【購入時期】

1994年

【お気に入り度合い】

命かけてもいい(かもしれない)

【次回執筆者】

安田理央さん

【次回の執筆者にひとこと】

彼と出会ったのは、たしかコミュニケーションパルのメーリングリストだったと思います。モバイルマニアとして、また音楽マニアとして、めちゃめちゃシンパシー感じています。今、彼が夢中になっているのは、どんなガジェットなのでしょうか。次のコラムを楽しみにしています!

【バトンRoundUp】

START: 第1回:澤村 信氏(カナ入力派の必須アイテムとは?) → 第2回:朽木 海氏(ウォークマンとケータイをまとめてくれる救世主とは?) → 第3回:大和 哲氏(ケータイマニアのためのフルキーボードとは) 第4回:西川善司(トライゼット)氏(飛行機の友、安眠の友、ノイズキャンセリングヘッドフォン) → 第5回:平澤 寿康氏(出張に欠かせない超小型無線LANルータ) → 第6回:石井英男氏(いつでもどこでもインターネット接続が可能なPHS通信アダプタ) → 第7回:大島 篤氏(電卓とデジタル時計の秘密) → 第8回:荻窪 圭氏(自転車とGPSがあればどこにでもいけます) → 第9回:田中裕子(Yuko Tanaka)氏(これでクラシックもOK!究極のカナル型イヤフォン) → 第10回:佐橋慶信氏(ビジュアル・ブックマークの実践方法とは?) → 第11回:清水隆夫氏(プロ御用達の業務用GPSデジタルカメラ) → 第12回:高橋隆雄氏(傭兵たるものガジェットなど持たぬ!) → 第13回:野本響子氏(「壊れても買い続けたい」理想のロボット) → 第14回:本田雅一氏(本田雅一氏の求める条件にピッタリはまる「あのデジカメ」) → 第15回:塩田紳二氏(紙に書いて「デジタルデータ」になるアイテム) → 第16回:山田祥平氏(山田祥平氏が愛用する移動時間の必須アイテム) → 第17回:元麻布春男氏(元麻布春男氏が「感心した」ガジェット) → 第18回:鈴木淳也氏(ノートPCモバイラーに必須のアイテム) → 第19回:小山安博氏(ライフスタイルを快適にするアイテム) → 第20回:海上忍氏(最強の“心理的防音ルーム”を実現するアイテム) → 第21回:大谷和利氏(古くなっても旧くならないデジタルカメラ) → 第22回:山路達也氏(ラジオを新たなメディアに進化させる「radio SHARK 2」) → 第23回:川野 剛氏(あと10年は使いたい頑丈なデジカメ) → 第24回:野田幾子氏(面倒を楽しませてくれるウチの亭主)

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