米連邦捜査局(FBI)は、犯罪捜査に新しい電子盗聴の手段を使い始めたようだ。これは携帯電話の通話口についているマイクを遠隔操作でオンにし、それを利用して付近の会話を盗聴するというものだ。
この方法は「ロービングバグ(roving bug)」と呼ばれ、ニューヨークの組織犯罪集団(ファミリー)のメンバーに関する捜査での使用について、米司法省の高官から許可が下りた。捜査対象となったファミリーのメンバーは、尾行や電話盗聴といった従来の監視方法を警戒していた。
ギャングの一員とみられるJohn Arditoとその弁護士のPeter Pelusoの2人が所有するNextelの携帯電話を利用し、FBIは周辺の会話を盗聴した。FBIはArditoを、全米のマフィアの中でも大きな勢力を持つGenoveseファミリーの最有力者の1人と見ている。
この盗聴手法は、米国時間11月27日に発表された、米連邦地裁のLewis Kaplan裁判官による意見書の中で明らかになった。この中でKaplan裁判官は、連邦通信傍受法では容疑者の携帯電話付近の会話を盗聴することは許されているとして、「ロービングバグ」は合法だと裁定している。
Kaplan裁判官の意見書には、この盗聴方法は「携帯電話の電源が入っているか入っていないかにかかわらず機能した」との記載がある。携帯電話の中にはバッテリを取り外さない限り完全に電源を切れないものがある。例えば、Nokiaの一部の携帯電話は、電源を切っておいてもアラームがセットされていれば、その時間になると起動する。
遠隔盗聴の仕組みが刑事事件に用いられたのは、今回のGenoveseファミリーの訴追が初めてのようだが、この手法は長年、セキュリティ分野では議論されてきた。
米商務省のセキュリティ局は「携帯電話は、電話機付近の会話を聞く目的で使われれば、マイクと送信機になってしまうおそれがある」と警告している。また、2005年には、移動体通信事業者は「端末の所有者の知らないうちに、離れたところから携帯電話にソフトウェアをインストールできる。このソフトにより、所有者が通話していない時にもマイクをオンにできる」という内容の記事がFinancial Times紙に掲載された。
複数の政府機関とも緊密に協力している監視対策コンサルタントのJames Atkinson氏は、NextelとSamsungの携帯電話、およびMotorolaの「Razr」は、マイクを作動させるソフトウェアのダウンロードに対して特に脆弱だと指摘する。「離れたところからアクセスし、部屋の中の音を常時送信するよう設定することもできる。これは端末に直接手を触れなくても可能だ」とAtkinson氏は話している。
現在の携帯電話は小型のコンピュータと化しており、ソフトウェアをダウンロードすれば、通常の通話中に表示される画面を変更できる。その後、スパイウェアでFBIに電話をかけ、所有者がまったく知らないうちにマイクを作動させることも可能なのだ(12月1日現在、FBIはコメントを拒否している)。
「電話機の設定が実際に変更され、盗聴器になっている場合、対抗するには、盗聴器発見の専門家に24時間ついていてもらう手もあるが、これは現実的ではない。あとは電話機からバッテリを取り外すしかない」とAtkinson氏は言う。実際、セキュリティを意識する企業幹部は日常的に携帯電話からバッテリを外していると、Atkinson氏は付け加えた。
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