野村総合研究所(NRI)が発表したところによると、大容量ハードディスクレコーダー(HDR)の普及によって、蓄積するコンテンツ量は増大しているが、その一方で蓄積したコンテンツの視聴時間が追いつかず、死蔵されるコンテンツが増えている状況だという。
NRIは5月25日、「ネットと家庭のコンテンツ蓄積〜変わるコンテンツ視聴、たまるコンテンツの影響〜」と題した2つの調査結果を発表した。
NRI 情報・通信コンサルティング二部主任コンサルタントの北林謙氏は、HDRの普及やビデオオンデマンド(VOD)サービスによる家庭でのコンテンツ視聴スタイル、コンテンツ蓄積状況の変化について報告した。調査は5月8日に1000名に対して実施したインターネットアンケートの結果をもとにしたもの。
調査によると、テレビ放送を直接見る「ライブ視聴」と録画視聴、DVDなどの視聴を含めた映像視聴時間は1週間に27時間強となっており、2005年からほぼ横ばいでその内訳にもほとんど変化はない。HDR非保有者が26.3時間であるのに対し、HDR保有者は27.7時間と視聴時間が長い傾向も2005年同様で、「HDRを導入したからといってライブ試聴がまったくなくなっているということはない。視聴スタイルには大きな変化はない」と北林氏は分析している。
視聴時間に大きな伸びが見られないのに対して、録画による蓄積コンテンツ量には顕著な変化があった。HDRでの録画番組数は26.9番組から37.3番組へと増加。DVD-Rなどへの録画も26.7枚から43.6枚へ増加し、パソコンに蓄積しているユーザーの割合も20.8%から26.8%と増加した。
「大容量のHDRによって、一応録っておくというような投機的録画保存が増えていることもあり、録画量に視聴時間が追いついていない状況。録画はしたものの一度も見ないで消してしまう番組も多少増えている」と北林氏は指摘する。
蓄積されたコンテンツを消費するために、ノートパソコンなどを利用したモバイル視聴も徐々に浸透中だ。実際に視聴しているユーザーが2005年の5.3%から7.8%に微増し、視聴したことはないがやってみたいというユーザーも33.5%から44.6%と増加した。
VODサービスについては、無料サービスを中心に利用経験者が16.9%から33.1%に伸びた。VOD利用時間が長くなるほど、テレビのライブ試聴をはじめとする映像視聴時間が長いという結果も出ており「映像が好きな人、テレビやDVDをよく見る人がVODを使っている。今のところはテレビやDVDと視聴時間の食い合いは起こっていない」と、北林氏は予想外の結果になったことを報告している。
北林氏は「今後もハードディスクの容量増加や自動録画機能などで録画量が増える余地は十分にあるが、生活者の映像視聴時間が継続的に増加するとは考えにくい」と分析する。また、今後の展望については、ハイデフィニション映像の普及や多チャンネル化といったコンテンツ容量の増加に加えて、タイムシフト視聴の一般化など家庭での映像蓄積需要を増長させる要因は多く、「少なくとも当面は(映像蓄積量が)伸び続けることが予測される。ハードディスク需要もまだつきない」と予測を述べた。
続いて、NRI情報・通信コンサルティング二部の桑津浩太郎氏から、映像系コンテンツを中心に増加するコンテンツの、配信を支えるインターネットエクスチェンジ(IX)およびインターネットデータセンター(iDC)の逼迫状況について報告がされた。
国内のFTTH需要については「かつての悲観論はまったくなくなった。年間400万増、2010年の段階で1800万加入が努力目標だろう」との試算をしている。エンドユーザーレベルでこのFTTH化需要を牽引しているのは「GyaO」をはじめとするストリーミングコンテンツだ。
増加するコンテンツの蓄積を支えるiDCだが、その大半が東京大手町近辺に集中しているという問題がある。一時期はiDCの地方分散なども話題となったが、技術を持ったエンジニアが都心に集中することや災害に備えたディザスタリカバリの観点から「地方部など不人気なiDCには十分な余裕があるが、大手町近辺は飽和状態」と説明する。
需要の都心部集中に加え、iDCの設備投資に関する問題もある。iDCが誕生した1999年頃の設備は更新時期を迎えているが、iDC事業の伸び悩みから設備拡張を控える事業者も少なくなかった。そのため、小さなスペースで大容量をカバーするブレードサーバ、主電源を落とした状態での事故にも対応できる2アクティブ電源の設置、最新の設備を投入できないという問題が出ている。
さらに、電源容量の不足や空調の問題から「古いビルを買って中身を入れ替えれば完了、とはいかない。以前は経営破綻した企業のビルを買い取ったりもしていたが今はもう物件自体がない」状態だという。実際、ブレードサーバを導入しても面積いっぱいに置くことはできないため、面積あたりの効率としてはそれほど良くなっていないのが現状だ。
現在、大手金融機関の本社機能は大手町や日本橋に集積されている。証券取引所向けの注文の80%はIXを介して送り込まれることもあり、金融業界的にはこの近辺にiDCが必要となる。放送業界の動向は定かではないが、やはり本社機能が都心に集中していることに違いはない。桑津氏は「今後iDCの一部は湾岸地域周辺部に移るが、その一方で大手町エリアでのニーズはさらに強まると考えられる」と述べる。
桑津氏の試算によると、大手町周辺におけるiDCの需要は、今後供給できると見込まれる規模の約4倍にのぼる。この供給不足が、通信と放送の融合における隠れたリスクの1つとなる可能性があるという。
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