「自生的秩序」の法則
共同編集が可能なウェブサイト、写真や文書の「タグ」、地図関連のプロジェクト・・・これらは本当に、次のインターネット革命を示しているのだろうか。
これらの技術が市場を沸かせていることは間違いない。ソーシャルブックマークサービスの「Delicious」は、Amazon.comやその他の企業から次々と融資を獲得した。10月にサンフランシスコで開催された「Web 2.0カンファレンス」の入場券は完売だった。ビデオ共有サービスを提供する「YouTube」や「Revver」も資金調達に成功した。Skypeの買収価格が26億ドルに上ったことも忘れてはならない。
1990年代の熱狂が不気味によみがえるなか、Wired誌は今日のインターネットがいかに世界を変えるかを盛大に書き立てている。Wired誌のKevin Kellyはこう結論する。「私は(平均的なGoogleユーザーよりも)投資家のほうが人類をよく理解しているとは思わない」
これらの進化が、便利でしかも興味をそそるものであることは否定しない。しかし、1988年からインターネットを使っている古参ユーザーのひとりとして、私はこの状況を歴史の長い流れのなかに置いて考えることを勧めたいと思う。
一見「新しい世界秩序」と思われるこの状況を正しい視点から捉えるためには、コンピューティングの歴史をひもとき、今日のインターネットを可能にした過去のブレークスルーを思い出す必要がある。新しいデジタル社会の到来を告げているように思われる技術も、実は過去の多くの進化の累積にすぎないかもしれない。以前から存在していた技術が、企図したわけではないが、ある種の幸運によってようやく結びついたのかもしれない。このような状況を、オーストリア生まれの経済学者である故F・A・ハイエクは「自生的秩序」と呼んだ。
たとえば、ミネソタ大学の研究者たちがインターネット上の情報をカタログ化し、検索するための斬新な方法を思いついたのは、それほど昔のことではない。
Paul LindnerとMark McCahillは、ウェブの自由放埒なアプローチを採用する代わりに、ページを厳密に階層化しようと考えた。その結果、誕生した文字ベースのシステムは、ユーザーにとっても、開発者にとっても分かりやすいものだった。このシステムは小さな画面しか持たない機器でも容易に利用することができ、視力障害者の情報アクセスにも適していた。
これが1991年に誕生した「Gopher」だ。ボランティアがGopher用の検索エンジン(「Veronica」など)を開発し、技術的な微調整を加え、サーバスペースを無料で提供したことによって、Gopherはその名の通り(gopherは「地リス」を意味する)またたく間に広がっていった。熱狂的なGopherファンのなかには、ミネソタ大学がライセンス料を請求し始めなければ、World Wide Webではなく、Gopherがインターネットの主流となっていたはずだと考える者もいる。
さらに歴史をさかのぼると、「Usenet」というさらに革命的な進化があった。Usenetはデューク大学の大学院生だったTom TruscottとJim Ellisが1979年に考案したものだ。初期のUsenetは、別々のインターネットサイトにいる人々がメッセージを交換するためのプロジェクトだった。
すぐに国境を越えた連携が始まった。技術者たちはUsenetのインフラ構築に着手した。まずはUnixのシェルスクリプトで書かれた、やや速度の遅いソフトウェアが登場し、次にC言語で書かれた高速バージョンが登場した。1980年代半ばにはすでに「readnews」「rn」「trn」といった複数のUsenetをブラウズするためのソフトウェアが利用されていた。
インフラが整い始めると、ディスカッションフォーラムが活況を呈するようになった。「alt.sex」「sci.math」「rec.music」など、さまざまな話題を話し合うフォーラムが生まれた。Usenetで扱われるデータの量は急増し、年を追う毎に倍々に増えていった(現在は1日当たり約2テラバイト)。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
地味ながら負荷の高い議事録作成作業に衝撃
使って納得「自動議事録作成マシン」の実力