醍醐
醍醐(だいご、梵: सर्पिर्मण्ड sarpir-maṇḍa[1]または梵: मण्ड maṇḍa[2][3])とは、五味の一つ[3]。牛乳を加工した、濃厚な味わいとほのかな甘味を持った液汁とされ[4]、最も美味しい味の代名詞として使われた。すでに製法は失われており、後述のような諸説(バターのようなもの[5]、又は現代で言うカルピスや飲むヨーグルトのようなもの、または蘇を熟成させたものなど[6])入り乱れ実態は不明である[7]。
概要
編集仏教の大乗経典『大般涅槃経』の中に、五味として順に乳→酪→生酥→熟酥→醍醐と精製され一番美味しいものとして、涅槃経も同じく最後で最上の教えであることをたとえとして書かれている。これを五味相生の譬(ごみそうしょうのたとえ)という[8]。
譬如從牛出乳、從乳出酪、從酪出生蘇、從生蘇出熟蘇、從熟蘇出醍醐。醍醐最上、若有服者、衆病皆除。所有諸藥、悉入其中。善男子、佛亦如是。從佛出生十二部經、從十二部経出修多羅、從修多羅出方等経、從方等経出般若波羅蜜、從般若波羅蜜出大涅槃。猶如醍醐。言醍醐者、喩於佛性。 |
|
—大般涅槃経巻第十四[9] | —訓読文[10] |
とある。これが醍醐味の語源として仏教以外でも広く一般に知られるようになった[8]。
製造方法
編集延喜式では、納税に用いる蘇の製造が規定されている[11]。蘇は醍醐を製造する前段階の乳製品であることから、蘇の製造方法を参考にしてさまざまな手法で濃縮、熟成させ、醍醐を作り出す試みが食品研究家らの手でなされている[7][12][13]。バターオイルのような物質と予想する者もいる[12]。 延喜式と『大般涅槃経』の蘇と酥は別のものとする説もありそれぞれが前段階であることを無視して酪をコンデンスミルクかヨーグルト、 酥(蘇)をバターとチーズの中間、醍醐はヨーグルトを濃縮したものかチーズであるとする者もいる[14]。
その他
編集脚注
編集- ^ Monier-Williams. “sarpirmaṇḍa”. Sanskrit Dictionary. 2024年12月8日閲覧。
- ^ Monier-Williams. “maṇḍa”. Sanskrit Dictionary. 2024年12月8日閲覧。
- ^ a b 「醍醐」『ブリタニカ国際大百科事典』 。
- ^ “大辞林 第三版 だいご(醍醐)”. exite辞書. 三省堂. 2015年9月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年12月8日閲覧。
- ^ 松長有慶『密教の実践』法藏館〈密教大系 / 宮坂宥勝松長有慶頼富本宏編、第9巻〉、1994年。ISBN 4831851299。 NCID BN13582130。
- ^ 森嘉兵衛 「岩手をつくる人々 - 古代・近世篇(上)」 1983年 法政大学出版局
- ^ a b 有賀秀子, 高橋セツ子, 倉持泰子, 浦島匡, 筒井静子「日本における古代乳製品の"酥"および"醍醐"の本草綱目(李著)にもとづく再現試験」『日本畜産学会報』第59巻第3号、日本畜産学会、1988年、253-260頁、doi:10.2508/chikusan.59.253、ISSN 1346-907X、NAID 130000739413。
- ^ a b “法話集 No.87 醍醐味(だいごみ)”. 天台宗 (2011年5月19日). 2024年12月8日閲覧。
- ^ “大般涅槃経巻第十四”. SAT大正新脩大藏經テキストデータベース. 2024年12月8日閲覧。
- ^ 下記を参考に訓訳。中御門敬教. “五味”. 新纂浄土宗大辞典. 2024年12月8日閲覧。
- ^ 延喜式 巻第二十三 民部下
- ^ a b 有賀秀子, 大谷能子, 竹内真澄、「「本草綱目」に基づき再現した熟酥と醍醐の性質についての研究」『酪農科学・食品の研究』 1990年 39巻 5号 p.A196-A202, 日本酪農科学会
- ^ 平田昌弘、「酪・生酥・熟酥・醍醐論考 : 古・中期インド・アーリア文献「Veda文献」「Pali聖典」を基にした再現実験」『畜産技術』 2014年05月 708巻 p.9-14, NAID 40020093356。
- ^ “発酵乳の種類とメリット | 一般社団法人全国発酵乳乳酸菌飲料協会 発酵乳乳酸菌飲料公正取引協議会”. www.nyusankin.or.jp. 2024年3月3日閲覧。
- ^ “2.日本初の乳酸菌飲料「カルピス」の誕生秘話”. 企業情報. カルピス. 2012年4月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年11月5日閲覧。
- ^ “3.「カルピス」の命名”. 企業情報. カルピス. 2012年4月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年11月5日閲覧。
- ^ 日本放送協会『▽酢豚の謎▽カーブミラーの秘密▽醍醐(だいご)味 - チコちゃんに叱られる!』 。2024年3月22日閲覧。
関連項目
編集外部リンク
編集- 平田昌弘「古代南アジアをたどる―醍醐とは?」『デーリィマン』第64巻第8号、北海道共同組合通信社、2014年、62-64頁、ISSN 0416-6272、NAID 120006390800。
- 平田昌弘, 米田佑子, 有賀秀子 ほか、【原著論文】『斉民要術』に基づいた東アジアの古代乳製品の再現と同定 『ミルクサイエンス』 2010年 59巻 1号 p.9-22, doi:10.11465/milk.59.9, 日本酪農科学会