歳入庁構想
本項では、日本において2000年代より構想されている歳入庁(さいにゅうちょう)について述べる。
2000年代初頭に発覚した年金未納問題を受け、民主党(政権獲得前[1]から政権担当中[2][3]・下野後[4]を通じて)・その系譜を汲む政党(民進党→国民民主党[5][6]や立憲民主党[注釈 1])を中心に、民主党、日本維新の会(2012~2014年→維新の党→2016年~)[8]、みんなの党、生活の党(その後の自由党)などが国会に設置法案を共同で提出し[注釈 2]、民主党、自民党、公明党の3党による「三党合意」に基づいて成立した社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律にも「歳入庁その他の方策の有効性、課題などを幅広い観点から検討し、実施」(第8条八)と明記されている[3]。
経緯
編集2000年代の初めに発覚した年金未納問題などへの抜本的な解決策として、2004年のマニフェストで初めて「歳入庁」の創設を明記し[1]、政権交代を実現した2009年の第45回衆議院議員総選挙に際してのマニフェストでも「歳入庁」の創設を明記した民主党は、政権担当中の2012年4月13日、民主党作業チームの中間とりまとめ案にて、社会保障と税の個人情報を集約する共通番号(後の「マイナンバー」)制度が開始されるタイミングに合わせ、2015年1月に「歳入庁」を発足させるとし、2012年内に関連法案を国会に提出するとした[3]。
民主党・国民新党の連立政権(野田内閣)は、2012年の第180回国会に提出した消費増税を含む社会保障・税一体改革関連法案の中に「歳入庁の創設による税と社会保険料を徴収する体制の構築について本格的な作業を進める」と明記したのみならず[3]、6月12日の「社会保障・税一体改革関係5大臣会合」で策定した「歳入庁の創設について~中間報告後の検討を踏まえた整理~」と題する文書にて、「歳入庁」創設に向けた「工程表」を公表し、「2018年以降速やかに徴収業務を統合する歳入庁を創設することを目指す。」とした[2][3][注釈 3]。
時を同じくして2012年6月、民主党、自民党、公明党の3党による「三党合意」にて、この消費増税を含む社会保障・税一体改革関連法案が修正され、消費税率を2014年4月に8%、2015年10月に10%に引き上げることで合意した際、自民党は、「歳入庁」創設を法案から削除するように要求し、結局、この三党合意で「歳入庁その他の方策の有効性、課題などを幅広い観点から検討し、実施」と曖昧な表現へ修正されたが、東京大学名誉教授で政治学者の大森彌[注釈 4]は、この「歳入庁その他の方策」との表現への修正が「官庁用語の典型例」であり、この表現への修正によって「歳入庁は例示の一つになり、検討しなければならないわけではなくなる。自民党の政権復帰で歳入庁設置の可能性は遠のいた」と解説している[3]。
2024年5月、日本維新の会は第213回国会に「デジタル歳入給付庁の設置による内国税・保険料等の徴収等に関する業務及び公的給付の支給等に関する業務の効率化等の推進に関する法律案」を提出し、「2025年度中に内閣府の外局として徴収と社会保障給付に関する業務を統合するデジタル歳入給付庁を創設することを目指す。」とした[12]。
内容
編集概ね既存の国税庁に日本年金機構(旧・社会保険庁)や厚生労働省の健康保険(医療保険)、年金保険・介護保険、労働保険(労働者災害補償保険・雇用保険)など、社会保険の徴収部門を統合し、国の歳入機関を一本化した上で、財務省や厚生労働省から切り離し、内閣府の外局に移して設置するという内容で一致・一貫している[注釈 5]。
諸外国の例
編集各国の制度の違いにより、日本でいう税関・関税局に該当する関税の収集を担当する機能も統合されている国と、そうでない国とがある。
G7
編集- アメリカ合衆国
- 内国歳入庁と別に、関税を担当する税関・国境警備局[注釈 6]や移民・関税執行局[注釈 7]が設置されている。
- カナダ
- それまで別個だった歳入庁と税関とが1999年に統合されて設置されたカナダ税関・歳入庁[13]が2003年まで税関・関税も一括して担当していたが、(アメリカ合衆国で2001年の同時多発テロを受けて2002年に国土安全保障省が設置されたのに対応して)2003年から(国境警備や出入国管理と共に)税関・関税も担当するカナダ国境サービス庁と再分離され、カナダ歳入庁が設置されている。
- イギリス
- 2005年に統合・設置された国王陛下の歳入・関税庁[14][15][16]が税関・関税も一括して担当している。
- フランス
- 2008年に統合・設置された公共財政総局[17]が(国有財産の管理などと共に)間接税を除く国内の歳入を担当する一方、(フランス革命期の1791年から名称・管轄などを改定しながら継続している)関税・間接税総局[18]が(国境警備・出入国管理や沿岸警備・海難救助などと共に)税関・関税および間接税を担当している。
- ドイツ
- 2006年に設置された連邦中央税務庁[19]が(2007年に開始した国民識別番号の発行などと共に)国内の歳入を担当し、連邦税関[20]が税関・関税を担当している。
G4
編集- ブラジル
- 1968年から設置されているブラジル連邦歳入庁[21][22]が税関・関税も一括して担当している。
- インド
- インド歳入庁が、直接税中央委員会による規制・監督を受けるインド歳入庁 (所得税)と、間接税・関税中央委員会[23][24]による規制・監督を受けるインド歳入庁 (関税・間接税)と、2部門に分かれている。
アジア
編集脚注
編集注釈
編集- ^ 立憲民主党代表代行(初代)の長妻昭は、民主党時代に歳入庁設置法案の中心メンバーとして活動していた[7]。
- ^ 2013年から2015年にかけて計4回[4]
- ^ この「歳入庁の創設について~中間報告後の検討を踏まえた整理~」と題する文書の中には、徴収のみならず、給付も含む国税・年金の全ての業務を統合する「歳入・給付庁」についても、将来の検討課題として明記された[2][3]。
- ^ 厚生省の高齢者介護・自立支援システム研究会座長、内閣府の独立行政法人評価委員会委員長、厚生労働省の社会保障審議会委員、同審議会の介護給付費分科会・介護施設等のあり方に関する委員会委員長、社会保障国民会議委員などを歴任。
- ^ 以下の「出典」や「外部リンク」などを参照。
- ^ いわゆる水際、すなわち国境・港湾・空港など、国外から国内へ物品が持ち込まれる際の課税などを担当している。
- ^ いったん国内へ持ち込まれた(水際での課税を違法に逃れた)物品に対する、追跡・捜査・摘発などを担当している。
出典
編集- ^ a b “民主党政権政策 マニフェスト(ダイジェスト版) 2004-06”. 民主党 (2004年6月1日). 2020年5月18日閲覧。
- ^ a b c 社会保障・税一体改革関係5大臣会合(野田内閣・民国連立政権) (2012年6月12日). “歳入庁の創設について~中間報告後の検討を踏まえた整理~”. 内閣府. 2020年5月18日閲覧。
- ^ a b c d e f g h 大森彌 (2013年3月1日). “歳入庁構想”. 時事用語事典 情報・知識&オピニオン imidas・集英社. 2020年5月18日閲覧。
- ^ a b “民主党アーカイブ タグ「歳入庁設置法案」”. 民主党 (2013年4月16日). 2020年5月18日閲覧。
- ^ 「野党、監視強化を提起=維・公「身を切る」、控えめ自民-政治・行政改革【公約比較】」『時事通信』時事通信社、2019年7月16日。2020年5月18日閲覧。
- ^ “厚生労働《年金》 - 国民民主党 政策INDEX 2019”. 国民民主党 (日本 2018-) (2019年1月1日). 2020年5月18日閲覧。
- ^ 長妻昭 (2012年3月1日). “歳入庁設置に関するWTがはじまりました”. 長妻昭. 2020年5月18日閲覧。
- ^ “財政政策・制度|政策”. 日本維新の会. 2020年5月18日閲覧。
- ^ 「歳入庁創設の工程表、政府が決定 増税修正協議で自民は反対」『日本経済新聞』日本経済新聞社、2012年6月12日。2020年5月18日閲覧。
- ^ 「幻に終わった?歳入庁構想」『日替り税ニュース』セイコーエプソン、2014年12月26日。2020年5月18日閲覧。
- ^ 山崎元「「歳入庁」という誰も反対しない構想が実現しない理由」『週刊ダイヤモンド』ダイヤモンド社、2016年10月12日。2020年5月18日閲覧。
- ^ “2024年5月7日(火)【デジタル歳入給付庁の設置による内国税・保険料等の徴収等に関する業務及び公的給付の支給等に関する業務の効率化等の推進に関する法律案 】提出のお知らせ”. 日本維新の会 (2024年5月7日). 2024年5月18日閲覧。
- ^ “カナダ税関・歳入庁による貨物情報の早期かつ電子的提出に関する制度案に対する日本政府のコメント”. 財務省 (日本) (2003年8月27日). 2020年6月5日閲覧。 “カナダ税関・歳入庁”
- ^ 鎌倉治子. “英国歳入関税庁の発足―税務行政の一元化と租税政策の立案・実施の分離―”. 国立国会図書館. 2020年6月5日閲覧。 “英国歳入関税庁”
- ^ “英国のEU離脱後における英国とのAEO相互承認について”. 関税局 (2020年1月31日). 2020年6月5日閲覧。 “英国歳入関税庁”
- ^ “関税制度 英国 - 欧州 - 国・地域別に見る”. 日本貿易振興機構 (2019年8月21日). 2020年6月5日閲覧。 “歳入関税庁”
- ^ 梅原秀明. “フランスの税務行政の概要と最近の取組”. 国税庁. 2020年6月5日閲覧。 “公共財政総局”
- ^ “関税制度 フランス - 欧州 - 国・地域別に見る”. 日本貿易振興機構 (2020年1月17日). 2020年6月5日閲覧。 “関税・間接税総局”
- ^ “政府税制調査会海外調査報告(ドイツ、イギリス、オランダ)”. 内閣府・政府税制調査会. 2020年6月5日閲覧。 “連邦中央税務庁”
- ^ “ドイツ入国時の課税対象物品及び免税範囲について”. 在ミュンヘン日本国総領事館 (2012年2月28日). 2020年6月5日閲覧。 “ドイツ連邦税関”
- ^ “XII.ブラジル連邦共和国”. ゆうちょ財団. 2020年6月5日閲覧。 “ブラジル連邦歳入庁”
- ^ “ブラジル投資ガイド(2013年)”. KPMG. 2020年6月5日閲覧。 “ブラジル連邦歳入庁”
- ^ “EPA相手国側譲許表(関税率表)”. 関税局. 2020年6月5日閲覧。 “インド間接税・関税中央委員会”
- ^ “インドの間接税、物品・サービス税(GST)に関するアップデート:仕入税額控除の取扱いの改正”. デロイト トウシュ トーマツ. 2020年6月5日閲覧。 “間接税・関税中央委員会”