日式
中国、韓国、台湾、香港、シンガポールなど、主に日本以外の漢字文化圏において「日本風(の)」「日本式(の)」といった意味を表す言葉、およびその漢字表記。日式咖哩飯(日本風カレーライス)や日式餐廳(日本風レストラン)など、主に食材や料理、レストランなど食に関する事柄に使用されることが多いが、日式温泉や日式介護のように食以外の様々なものごとに対しても使用される。本項目では、食を中心に説明する。
(にっしき、にちしき)とは、語義
編集意味
編集日式という漢字表記は、「日本風」「日本式」といった意味をもつ点で、中国語や朝鮮語など言語間で共通している[1]。対象となる事物がどのようなものであれ、また程度の差こそあれ、少なくともその地域の人びとの視点からみて、そこに何らかの意味で日本的な要素を含んでいれば、「日式○○」と称されることがある。例えば中国・上海の場合、日本風の女性服、髪型、アニメに対し、「日式」を付けて呼ぶことがある[2]。同じく中国では、日式温泉[3]や日式介護[4]、日式美甲(日本式のネイルアート) [5]といった表現・サービスが存在する。
日式という言葉自体には、本来は上述の「日本風」「日本式」といった意味しかないが、各地域やそこに暮らす人びとの文脈によっては、それ以上の意味が含まれる場合もある。例えば、日本の高い技術や品質に評価に基づいてブランドイメージ化している場合[1]もある一方で、あくまでも「日本風」であって当地のものよりは高級であるが、日本の本場のものよりは一段格が落ちると認識される場合[6]もある。
語源
編集日式の語源として、文化人類学者の朝倉敏夫は、もともと韓国で日本料理を「
発音
編集日式という漢字表記では共通しているものの、その発音は言語・地域ごとにまちまちである。
使用方法
編集日式であることの条件
編集どのような食材・調味料、味付け、料理、レストランが日式と呼ばれたり名付けられたりするかは、それらが置かれている国や地域、文化、人びと、食や日本に対する認識によって異なる。次のような例がある。
食材・調味料、味付け
編集その国の料理ないしは日本以外の第三国の料理に対し、その国の人びとがイメージする日本的な食材や調味料を使用したり、あるいは味付けを行ったものが日式と呼ばれる。
料理、レストラン
編集中国・韓国・台湾・香港などでは、和食・日本食を提供するレストランは、二つに大別されている。一つは、経営者や調理人が日本人で食材も日本から空輸している本格的な日本料理店、もう一つは和食・日本食をローカル向けにアレンジした日式料理を提供する地元資本の日式料理店である[11]。両者を比較すると、前者は高級、後者は大衆向けであるものの、後者であっても地元の一般的なレストランよりも高額である[12]。
和食を起源としない日式料理
編集日式料理の中には、もともとは和食ではないもの(日本人から見れば、和食とはみなしていないもの)の、受入国側でその料理の中から日本的な意匠を見出し、日式料理として提供している事例がある。
各国の事例
編集各国の日式料理
編集中国
編集上海では、健康ブームにのって日本食への関心がもたれた結果、日本食の料理店は500軒を超えた。これらは、高級な店舗と大衆向けの日式とに二分化している[12]。日式料理に対する評価だが、例えば日式カレーに対しては、現地の人びとにとっては油が少ないと感じられるが、口当たりは良いとされている[13]。
香港
編集香港で日本食を扱うレストランの変遷は、1970年代は20-30店、1980年代は100店以上、1990年ごろは150店、1996年には250店ほどに増加しているが、そのうち近年は日式料理店が増えている[16]。これら日式料理店は地元資本によるものであったり、少なくとも料理人は日本人ではなく香港人である[16][11]。
韓国
編集韓国においては、かつて日本式の食堂は倭式と呼ばれていたが、この表現はすたれて現在は日式と呼ばれている[17]。韓国で日式料理店が特に若者の間で流行するようになったきっかけは2002年サッカー・ワールドカップで、居酒屋、すし屋、ラーメン屋、日本酒が流行した[18][19]。 また、韓国の日式料理店では刺身を扱うところが多く、刺身にコチュジャンを付けた丼料理のフェトッパプ(本来は朝鮮料理)が、日式料理店でもよく提供されている[17]。
日式飲料
編集中国・韓国・台湾・香港などアジア圏のコンビニや食料品店では、日本と同じようにペットボトルや紙パック入りのお茶(緑茶飲料)が販売されているが、これらの多くには砂糖が入っている事が多い。[20]こういった加糖の緑茶飲料に対し、"日本式"の無糖の緑茶飲料は日式緑茶などの名称で販売されている。[21]
日本
編集日本国内では、伝統的な和食・日本食料理ではなく、東アジア各国でアレンジされた日式料理をあえて提供するレストランは、数は多くないもののまったく存在しないというわけではない。ある朝鮮料理のレストランが、期間限定ながら「日式カツカルビ定食」を販売した例がある[22]。
日本側の対応
編集日本人が海外で調理・提供する本格的な日本料理ではなく、現地の調理人が現地の好みに応じてアレンジした日式料理に対し、日本国内からは様々な反応が挙がっている。以下、好意的な反応と否定的な反応とに分けて取り上げる。
好意的な反応
編集日本の食品メーカーの中には、本格的な日本食とは言えないまでも、日本の料理に関心がもたれている現状を肯定的にとらえ、各国の日式レストランに自社の日本産食品・食材を仕入れてもらおうと企図する会社がある。例えば、日本酒メーカーの月桂冠は、1994年以来日式居酒屋向けに日本酒を韓国に輸出している[23]。
否定的な反応
編集各国で日式料理が普及する一方で、日本の本来の味が現地へ伝わらなかったり、日式料理が正統な日本の料理との認識を現地でもたれたりすることを問題視する日本の食品・調理師業界の関係者がおり、具体的な対策が講じられている。例えば、複数の料理学校が、日式ではなく本格的な日本料理の調理師を育成するため、ソウルに専門学校を設立している[24]。また日本政府も、伝統的な製法に基づく食材や食品を認定する制度を2016年度に創設する予定である[25]。
関連項目
編集日式料理
編集日本とゆかりがある料理
編集- 西洋寿司: カリフォルニアロールなど欧米発祥の寿司。
- 鉄板焼き: 客の前でパフォーマンスをしながら食材を焼くスタイルは日本発祥で、各国に広がった。
関連料理
編集その他
編集- 栄寿司:シンガポールやマレーシアで店舗展開している、シンガポール資本の回転寿司チェーン店。寿司だけはでなく、丼物やラーメン、鍋物も販売している。
脚注
編集- ^ a b c “[共存アジア・関西]市場深耕(1)「日式」の食戦略浸透(連載)”. 読売新聞 大阪朝刊 (大阪: 読売新聞社): pp. 11. (2007年7月6日)
- ^ “上海・南京路:5 12:00 「日中融合」パン(アジアの街角)”. 朝日新聞 朝刊 (朝日新聞社). (2004年11月26日)
- ^ “[勝手にキーボード]小田原市よ頑張れ /神奈川”. 毎日新聞 地方版/神奈川 (神奈川: 毎日新聞社): pp. 地方面. (2001年12月5日)
- ^ “2億人市場に挑む日式介護 80歳以上が年間100万人ずつ増える中国”. アエラ (朝日新聞社): 62. (2014-10-6).
- ^ “(アジアズームイン)ひろがる日式美甲:1 指先に魅せられて サロン進出”. 朝日新聞 夕刊 (朝日新聞社): pp. 1. (1994年1月11日)
- ^ 堀山, 明子 (2009年2月23日). “韓流ざんまい:日本酒居酒屋の「日式改革」”. 毎日新聞 東京夕刊 (東京: 毎日新聞社): pp. 2
- ^ a b “【世界の食めぐり】韓国(4)日韓の交配で生まれた似て非なる味”. 産経新聞 東京朝刊 (東京): pp. 生活・文化面. (2000年1月29日)
- ^ a b “[新風俗事典]香港 「日式」も、なかなかいける”. 毎日新聞 東京朝刊 (東京: 毎日新聞社): pp. 7. (1994年1月11日)
- ^ “外来文化を貪欲に消化吸収 韓国・釜山”. アエラ (朝日新聞社): 42. (1995-11-13).
- ^ “(世界を拓く 東海の技:20)中国編 内モンゴル自治区 みそ・しょうゆ【名古屋】”. 朝日新聞 東海 (朝日新聞社): pp. 東海経済 009ページ. (2007年8月26日)
- ^ a b “[街角から]香港 日本料理ヘルシー”. 毎日新聞 大阪夕刊 (大阪: 毎日新聞社): pp. 3. (1995年9月27日)
- ^ a b 鈴木, 玲子 (2009年9月14日). “上海・千変万化:「日式」と夏祭り”. 毎日新聞 東京夕刊 (東京: 毎日新聞社): pp. 2
- ^ a b “(13億人 中国市場をひらく:上)日式カレー溶け込む”. 朝日新聞 大阪朝刊 (大阪: 朝日新聞社): pp. 13. (2006年1月1日)
- ^ 岡崎, 哲 (2012年10月23日). “[東海・経’sEYE]和食レシピ普及の願い”. 読売新聞 中部朝刊 (読売新聞): pp. 8
- ^ “「日式」本場へも逆上陸(餃子五話:その5)”. 朝日新聞 朝刊 (朝日新聞社): pp. 13. (2002年12月20日)
- ^ a b “在港日本人は2万5000人 観光はビザ不要”. 週刊アエラ (朝日新聞社): 46. (1996-12-30).
- ^ a b “[記者の目]日本の大衆文化と韓国 波紋広げた駐日大使発言、段階的開放は必然”. 毎日新聞 東京朝刊 (東京: 毎日新聞社): pp. 4. (1994年2月11日)
- ^ “(窓・論説委員室から)パリパリなら回ろう”. 朝日新聞 夕刊 (朝日新聞社): pp. 8. (2011年2月15日)
- ^ “日韓つなぐポン酢の味 在日2世フグ店主、韓国に輸出 鶴橋”. 朝日新聞 夕刊 (朝日新聞社): pp. 11. (2014年4月15日)
- ^ 中国・日本・欧米におけるお茶の歴史 (PDF) - お茶百科(伊藤園)
- ^ "食べ物新日本奇行 コーヒー・紅茶・日本の茶(その1) 練乳入りの甘~いコーヒー"日本経済新聞 電子版
- ^ “あったか韓国定食”. 朝日新聞 夕刊 マリオン (朝日新聞社): pp. 7. (2006年12月27日)
- ^ “日本酒:伸びる輸出 目指せSAKE、売り込み官民一体”. 毎日新聞 大阪夕刊 (大阪: 毎日新聞社): pp. 1. (2012年11月1日)
- ^ “ソウルに日本料理学校 福岡の専門学校が経営へ 正統派の職人育成”. 読売新聞 西部夕刊 (読売新聞社): pp. 8. (2009年6月17日)
- ^ “正しい和食にお墨付き 政府がロゴ導入へ 模倣品対策で輸出後押し”. 日本経済新聞 夕刊 (日本経済新聞社). (2015年6月25日)