技術曹

自衛隊における自衛官任用区分の一つ

技術曹(ぎじゅつそう)とは、自衛隊における自衛官の任用区分の一つ。陸上自衛隊では技術陸曹(ぎじゅつりくそう)、海上自衛隊では技術海曹航空自衛隊では技術空曹と呼称される。アメリカ軍のSpecialist(特技兵)に類似した制度である。技術陸曹は衛生[注釈 1]・音楽分野の公募を除き現職隊員からの任用を原則としていたが、2024年度(令和6年度)から一般からの採用が開始された[1][2]。技術海曹と技術空曹では資格・免許による現役自衛官の特例昇任制度および優遇昇任制度のほか、不定期に一般からの採用を行っている。

設置趣旨

編集

技術者の養成は一般に長期を要し、若年定年制度を採用している自衛隊において技能保有者が退職しても同程度の技能を有する者が在籍しているとは限らず、年齢制限や実務経歴の制限により取得を早期に行うことも困難である。また内部養成する場合でも指導教官の配置や教育機材の整備に加え、所管する省庁から養成所の指定を受けるため法改正に合わせカリキュラムを変更するなど多大なコストと労力がかる。このため資格免許を有する隊員を志願に基づき選考、または公募により採用し、種類や等級に応じた階級のに任用配置することで技術分野における人的戦闘力の充実・減耗防止を図る目的で存在している。

資格や免許だけでなく音楽大学外国語大学など、専門課程を有する大学を卒業した者を採用することもある。

受験資格

編集

技術陸曹

編集

「任用資格」の節に掲げる資格を有する(受験日時点で資格取得見込みのあるものを含む。)者または2等陸士以上の隊員で、任用階級ごと受験年齢が異なる。

  • 陸曹長:年齢30歳以上の者
  • 1等陸曹:年齢23歳以上の者
  • 2等陸曹:年齢21歳以上の者
  • 3等陸曹:年齢20歳以上の者

技術海曹

編集

「任用資格」の節に掲げる資格を有する者または2等海士以上の隊員で、任用階級ごと受験年齢が異なる。

  • 海曹長:年齢30歳以上の者
  • 1等海曹:年齢23歳以上の者
  • 2等海曹:年齢21歳以上の者
  • 3等海曹:年齢20歳以上の者

技術空曹

編集

「任用資格」の節に掲げる資格を有する者または2等空士以上の隊員で、任用階級ごと受験年齢が異なる。

  • 空曹長:年齢30歳以上の者
  • 1等空曹:年齢23歳以上の者
  • 2等空曹:年齢21歳以上の者
  • 3等空曹:年齢20歳以上の者

任用資格

編集

技術陸曹・技術海曹・技術空曹の任用に必要な資格免許等については陸海空各々において別に定義される。

技術陸曹

編集

技術陸曹として任用されるために必要な資格は、陸上自衛隊[3]により2020年3月26日以降は次のとおり。旧名称の資格保有者も適用される。

種別 区分 任用階級
陸曹長 1等陸曹 2等陸曹 3等陸曹
通信 無線技術 第1級陸上無線技術士 第2級陸上無線技術士
無線通信 第1級総合無線通信士 第2級総合無線通信士 第3級総合無線通信士
通信設備 DD第1種工事担任者
AI第1種工事担任者
DD・AI総合種工事担任者
整備 自動車整備 1級小型自動車整備士
1級大型自動車整備士
1級二輪自動車整備士
2級ガソリン自動車整備士
2級ジーゼル自動車整備士
2級二輪自動車整備士
 
航空機整備 1等航空整備士
航空工場整備士
2等航空整備士
建設 建築 1級建築士   2級建築士  
測量     測量士 測量士補
電気 電気技術 第3種電気主任技術者
工作及び施設管理 技能 1級技能士(機械工、仕上工) 2級技能士(機械工、仕上工)
危険物 危険物 甲種危険物取扱者[4]
火薬[注釈 2]   甲種火薬類製造保安責任者 乙種火薬類製造保安責任者
甲種火薬類取扱保安責任者
乙種火薬類取扱保安責任者
情報処理 情報処理技術 CISSP ITストラテジスト
システムアーキテクト
プロジェクトマネージャ
ITサービスマネージャ
システム監査技術者
情報処理安全確保支援士[5]
エンベデッドシステムスペシャリスト
ネットワークスペシャリスト
データベーススペシャリスト
応用情報技術者 基本情報技術者
航空管制 航空管制     航空交通管制技能証明保有者 基礎試験合格者
衛生 衛生全般     理学療法士
作業療法士
診療放射線技師
臨床検査技師
栄養士
救急救命士(准看護師資格併有者に限る)
准看護師
歯科技工士
音楽 音楽全般     大学(音楽に係る部・科)卒業者 短期大学(音楽に係る部・科)卒業者
体育 体育技能 (※)[注釈 3]

技術海曹

編集

技術海曹採用に必要な資格免許等については海上自衛隊[6]を参照。下表は2020年4月1日以降のものである。なお2012年(平成24年)以前は、短期大学または高等専門学校卒以上の学歴および業務経験を有する者(業務経験はなくても可)を技術海曹に任用する制度が存在した[7][8]

職域の区分 採用階級
海曹長 1等海曹 2等海曹 3等海曹
電計処理 CISSP ITストラテジスト
システムアーキテクト
プロジェクトマネージャ
ITサービスマネージャ
システム監査技術者
情報処理安全確保支援士[9]
エンベデッドシステムスペシャリスト
ネットワークスペシャリスト
データベーススペシャリスト
応用情報技術者 基本情報技術者
車両 1級自動車整備士 2級自動車整備士
航海 3級海技士(航海) 4級海技士(航海)
機関 3級海技士(機関)
第1種[10]ボイラー・タービン主任技術者
特級ボイラー技士
4級海技士(機関)
第2種[10]ボイラー・タービン主任技術者
1級ボイラー技士
応急工作及び施設 特級ボイラー技士
1級技能士
第1種放射線取扱主任者
1級ボイラー技士
特別ボイラー溶接士
普通ボイラー溶接士
2級技能士
第2種放射線取扱主任者
航空管制 航空交通管制技能証明保有者 基礎試験合格者
情報 外国語大学(外国語短期大学を除く。)等卒業者又は実用英語技能検定試験1級若しくはこれと同等の資格を有する者 外国語短期大学等卒業者又は実用英語技能検定試験準1級又はこれと同等の資格を有する者
通信 第1級総合無線通信士
第1級海上無線通信士
第1級陸上無線技術士
第2級総合無線通信士
第2級海上無線通信士
第2級陸上無線技術士
工事担任者第一級アナログ通信(旧:AI第1種)
工事担任者第一級デジタル通信(旧:DD第1種)
工事担任者総合通信(旧:AI・DD総合種)
第3級総合無線通信士
第3級海上無線通信士
工事担任者第二級アナログ通信(旧:AI第2種・3種)
工事担任者第二級デジタル通信(旧:DD第2種・3種)
気象海洋 気象予報士
電測、電子整備及び航空電子整備 第1級陸上無線技術士 第2級陸上無線技術士
工事担任者第一級アナログ通信(旧:AI第1種)
工事担任者第一級デジタル通信(旧:DD第1種)
工事担任者総合通信(旧:AI・DD総合種)
工事担任者第二級デジタル通信(旧:AI第2種・3種)
工事担任者第二級デジタル通信(旧:DD第2種・3種)
航空整備 1等航空整備士
航空工場整備士
2等航空整備士
補給及び給養 管理栄養士 栄養士
衛生 臨床工学技士
作業療法士
理学療法士
救急救命士
臨床検査技師
視能訓練士
診療放射線技師
義肢装具士
看護師
歯科技工士
歯科衛生士
施設 1級建築士
1級電気工事施工管理技士
建築施工管理技士
2級電気工事施工管理技士
第1種電気主任技術者
2級建築士
測量士
第2種[10]電気主任技術者
測量士補
第3種電気主任技術者
音楽 大学(短期大学を除く。音楽に係る部・科)卒業者 短期大学(音楽に係る部・科)卒業者

技術空曹

編集

技術空曹任用に必要な資格免許等については航空自衛隊達を参照。下表は2015年度以降のものである[11]

技術区分 任用階級
空曹長 1等空曹 2等空曹 3等空曹
通信 第1級陸上無線技術士
第1級総合無線通信士
電気通信主任技術者
  • 伝送交換主任技術者
第2級陸上無線技術士
第2級総合無線通信士
電気通信主任技術者
  • 線路主任技術者

工事担任者

  • 総合通信 (旧:AI・DD総合種)
  • 第一級アナログ通信(旧:AI第1種)
  • 第一級デジタル通信(旧:DD第1種)
第3級総合無線通信士
航空無線通信士
工事担任者
  • 第一級アナログ通信(旧:AI第2種3種)
  • 第一級デジタル通信(旧:DD第2種3種)
整備 1級自動車整備士
1等航空整備士
航空工場整備士
2級自動車整備士
2等航空整備士
建設 1級建築士 1級建設機械施工技士 2級建築士
測量士
2級建設機械施工技士
測量士補
電気 第1種電気主任技術者 第2種電気主任技術者 第3種電気主任技術者
第1種電気工事士
設備管理 特級ボイラー技士
甲種消防設備士(2種類以上)
1級ボイラー技士
乙種消防設備士(2種類以上)
工作 1級技能士
調理技能士
電子回路接続技能士
2級技能士
航空管制 技能証明保有者 基礎試験合格者
気象 気象予報士
危険 甲種火薬類製造保安責任者
第1種冷凍機械高圧ガス製造保安責任者
甲種機械高圧ガス製造保安責任者
第1種放射線取扱主任者
甲種危険物取扱者[4]
乙種火薬類製造保安責任者
甲種火薬類取扱保安責任者
乙種火薬類取扱保安責任者
第2種冷凍機械高圧ガス製造保安責任者
乙種機械高圧ガス製造保安責任者
第2種放射線取扱主任者
情報処理 CISSP ITストラテジスト
システム監査技術者
プロジェクトマネージャ
システムアーキテクト
ITサービスマネージャ
エンベデッドシステムスペシャリスト
データベーススペシャリスト
ネットワークスペシャリスト
情報処理安全確保支援士(旧:情報セキュリティスペシャリスト)
応用情報技術者 基本情報技術者
車両教習 指定自動車教習所技能検定員 指定自動車教習所教習指導員
衛生 管理栄養士 栄養士
理学療法士
作業療法士
診療放射線技師
臨床検査技師
臨床工学技士
看護師
救急救命士
第1種衛生管理者
歯科技工士
准看護師
音楽 音楽大学等卒業者 音楽短大等卒業者
語学 TOEIC点数730以上(英語による任用)
その他外国語
TOEIC点数600以上(英語による任用)
その他外国語

脚注

編集

注釈

編集
  1. ^ 陸上自衛官(看護)という名称の、現に看護師助産師免許を有する者を実務経歴に応じて陸曹長から2等陸曹の自衛官として採用する制度(毎年度5名程度を採用。2021年までには廃止)。自衛隊中央病院高等看護学院の看護学生(2013年入隊の第56期生をもって廃止)や、自衛隊地区病院の准看護師課程等、課程教育期間中に当該国家資格を取得させて2等陸曹(3等陸曹)に任用する制度とは異なる。
  2. ^ 甲種または乙種の製造保安責任者免状を有する者及び甲種または乙種の取扱保安責任者免状を有する者に限られ、丙種火薬類製造保安責任者および発破技士の免状を有する者は含まれない
  3. ^ 自衛隊体育学校(冬季特別体育教育室を含む)に所属する2曹採用者(陸自においては「上級体育」の特技が付与される)

出典

編集
  1. ^ 令和6年度自衛官等採用案内」自衛隊香川地方協力本部ホームページ
  2. ^ 陸上自衛隊技術陸曹採用要項自衛官募集ホームページ
  3. ^ 技術陸曹の任用の基準に関する達(防衛省 情報検索サービス)
  4. ^ a b 甲種危険物取扱者の免状を有する者のみであり、乙種危険物取扱者全類の免状をもって代用することは不可
  5. ^ 2020年3月26日時点で現に情報セキュリティスペシャリストを有する者を含む。(令和2年3月25日陸上自衛隊達第122-309号 附則第1項)
  6. ^ 技術海曹の採用等の基準に関する達 (PDF) (同上)
  7. ^ 技術海曹の採用等の基準に関する達の一部を改正する達” (2012年4月25日). 2017年11月21日閲覧。
  8. ^ 技術海曹の採用等の基準に関する達(平成4年海上自衛隊達26号)の新旧対照表” (2012年4月25日). 2017年11月22日閲覧。これにより学歴による採用が廃止。
  9. ^ 2020年4月1日時点で現に情報セキュリティスペシャリストの資格を有する者を含む。(令和2年3月13日海上自衛隊達第7号 附則第2項)
  10. ^ a b c これら資格は出典の海上自衛隊達の上では「第○級」と表記されているが、「第○種」の表記正当につき本表では後者で示す。
  11. ^ 技術空曹の任用の基準に関する達の一部を改正する達及び新旧対照表” (2014年11月5日). 2014年12月15日閲覧。

関連項目

編集

外部リンク

編集