客観
客観(きゃっかん、英: object、仏: object、独: Objekt)とは「主観」(主観、独: Subjek)が根底にある現実的な実在[1]であるのに対して、「前に投げられたもの」として意識の表象[2]像、意識内容を意味する[3]。また、中世スコラ哲学ではラテン語: objectum は「投げられてあるもの」を指し、意識の志向的対象、意識、表象などを意味しており、現代における主観を意味していた[4]。 Subjek - Objekt は実践[5]における行為では「主体ー客体」と翻訳される。また「主観」「客観」は西周の作成した訳語である[6]。
語源
編集ラテン語の obiectum はギリシア語の antikeimenon「向こう側におかれたもの」の直訳であり、これらはアリストテレスの用語でもある[7]。アリストテレスの著作である『形而上学』[8]においては複数形で「たがいに対立し合うもの」という意味で使用され、同じく『霊魂論』の中では単数形で「思考や感覚の働きに対置させるもの」という意味で使用されている[6]。 また、アリストテレスは hypokeimenon と antikeimenon を対となる用語として使用していなかった。また、中世から近代初頭にかけても subiectum と objectum は対を成す概念として扱われていなかった[6][9]。
意味の変化
編集objectum と objectum の形容詞形である objectivus はアリストテレスにおいて「対象」を意味していた antikeimenon = obiectum という関係が、中世スコラ哲学や近代初頭の哲学では「知性に投影されたもの(quae in intellectu)」を意味するようになった[6]。神学者で哲学者であるスコトゥスは objectum 表象(志向的対象)の意味で使用している。 またデカルト[10]やスピノザ[11]も realitas objectiva を単に表象され限りの事象内容(可能的事象内容)の意味で使用しており、現実化された事象内容である realitas acutualis(現実的事象内容)や事物そのものの形相として存在する事象内容 realitas formalis(形相的事象内容)を意味している。中世がら近代初頭においては subjectum が客観的存在者を意味しており、obiectum が主観的表象を意味していた[6]。
カント以降における客観
編集カント哲学においては意味が逆転し Subjekt が「主観」を Objekt が「客観」を意味するようになり、いわゆる「コペルニクス的転回」によって「主観」と「客観」が対立する概念として扱われるようになった[6][12]。こうして客観的実在は悟性の範疇で決定されることになったが、カントは意識の外側に人間があらゆる認識[13]という手段を使用しても知り得ない事物を想定した。 しかし、フィヒテはこのカントの想定に対して絶対的自我による客観の定立を説く「主観的観念論」を発表する。またシェリングは主観と客観を両極とする絶対者を立てる「客観的観念論」を発表する。ヘーゲルも絶対精神の自己展開によって主観客観を説明する「絶対観念論」を発表した。ヘーゲル以降の存在論では「主体」に対する「客体」という訳語が与えられた[14]。
新カント派のリッケルト[15]は客観について、認識論[2][16]的主観が対象(成すべきことや価値)を承認することにより成立する意識の内容であるとしている。同じく新カント派のコーエン[17]は客観は純粋思惟によって作り出されたものであると主張している[14]。
脚注
編集- ^ 山口 2019, p. 278.
- ^ a b 山口 2019, p. 280.
- ^ “客観”. 日本大百科全書(ニッポニカ). DIGITALIO, Inc.. 2024年11月22日閲覧。
- ^ 哲学辞典・平凡社 1971, p. 317.
- ^ “実践”. デジタル大辞泉. DIGITALIO, Inc.. 2024年11月23日閲覧。
- ^ a b c d e f 哲学思想辞典・岩波 1998, p. 734.
- ^ 哲学思想辞典・岩波 1998, p. 1332.
- ^ 山口 2019, pp. 113–115.
- ^ 山口 2019, pp. 144–145.
- ^ 哲学辞典・平凡社 1971, pp. 968–970.
- ^ 哲学辞典・平凡社 1971, pp. 787–789.
- ^ 哲学辞典・平凡社 1971, pp. 317–318.
- ^ “認識”. デジタル大辞泉. DIGITALIO, Inc.. 2024年11月23日閲覧。
- ^ a b 哲学辞典・平凡社 1971, p. 318.
- ^ 哲学思想辞典・岩波 1998, pp. 1680–1681.
- ^ “認識論”. 日本大百科全書(ニッポニカ). DIGITALIO, Inc.. 2024年11月23日閲覧。
- ^ 哲学辞典・平凡社 1971, pp. 484–485.
参考文献
編集- 青井和夫、青柳真知子、赤司道夫、秋間実、秋元寿恵夫、秋山邦晴、秋田光輝、東洋 ほか 著、林達夫、野田又男; 久野収 ほか 編『哲学事典』(第1版)平凡社、1971年4月10日。ISBN 4-582-10001-5。
- 青木国夫、青木保、青野太潮、赤城昭三、赤堀庸子、赤松昭彦、秋月觀暎、浅野守信 ほか 著、廣松渉、子安宣邦; 三島憲一 ほか 編『岩波 哲学・思想辞典』(1版)岩波書店、1998年3月18日。ISBN 4-00-080089-2。
- 山口裕之『語源から哲学がわかる事典』(1版)日本実業出版社、2019年7月20日。ISBN 978-4-534-05707-5。
関連項目
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外部リンク
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