ロウバイ

クスノキ目ロウバイ科の植物

ロウバイ(蠟梅、蝋梅、学名: Chimonanthus praecox)は、ロウバイ科ロウバイ属に分類される落葉低木の一種である。中国原産であり、日本へは江戸時代初期に導入された。花期は冬であり、甘い香りがする黄色い花を多数つける(図1)。萼片花弁の区別がなく、多数の花被片がらせん状につく。1つの花から多数の果実ができるが、これが発達した花托で包まれた偽果を形成する。世界中の温帯域で観賞用に栽培される。種子はアルカロイドを含み有毒。つぼみなどを生薬とすることもある。

ロウバイ
1. 花
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : モクレン類 magnoliids
: クスノキ目 Laurales
: ロウバイ科 Calycanthaceae
亜科 : ロウバイ亜科 Calycanthoideae
: ロウバイ属 Chimonanthus
: ロウバイ C. praecox
学名
Chimonanthus praecox (L.) Link (1822)[1][2]
シノニム

など[1]

和名
ロウバイ(蠟梅[3][4]、蝋梅[5]、臘梅[6])、コウバイ(黄梅)[7][8]、カラウメ(唐梅)[9]、ナンキンウメ/ナンキンムメ(南京梅)[10]、ランウメ/ランムメ(蘭梅)[11]

名称

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和名の「ロウバイ」の語源は、漢名の「蠟梅」の音読みとされる[12]。「蠟梅」の「蠟(蝋)」の由来については、半透明でにぶいツヤのある花被片(花びら)が細工のようであるためとする説や、陰暦の12月にあたる朧月(ろうげつ)に開花するためとする説がある[12][13][14]。また「梅」とあり、寒い時期に開花し、香りが強く、花柄が短く花が枝にまとまってつくという点でウメに似ているが、ウメはバラ科に属しており系統的には遠縁である。

学名の属名 Chimonanthus は、「冬 (cheimon)」と「花 (anthos)」を意味するギリシャ語に由来し、種小名praecox は、「早咲きの」を意味している[15][14]

花に強い芳香があり、英語では「winter sweet/wintersweet」あるいは「Japanese allspice」と称される[4][16]

特徴

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落葉低木から小高木であり、高さ 2–13 mになる[12][3][17][18](図2a)。樹皮は淡灰褐色で皮目が縦に並び、生長とともに浅く割れたようになる[3][18](図2b)。小枝は灰褐色、無毛またはわずかに毛がある[17]冬芽は枝に対生し、葉芽は卵形で長さ 2–3 mm花芽はほぼ球形で長さ 4–6 mm、芽鱗は有毛[3][18][17]。枝先には仮頂芽(葉芽)が2個つく[3][18]

2a. 樹形

は対生する[18](図3a)。葉柄は長さ 3–18 mm、有毛[17]葉身は卵形から長楕円形、5–30 × 2–12 cm、最大幅は基部よりから中央付近、紙質から半革質、ふつう全縁、基部はくさび形、先端は狭まり尖る[12][17][18][19][20](図3)。表面(向軸面)はやや光沢があり、ざらつく[18][19]。裏面(背軸面)は淡色で毛が散生する[18][19]。葉脈は羽状(側脈は5–7対)、裏面に突出する[17][18][20](図3)。

3a. 枝葉
3b. 葉

花期は10月から3月(日本ではふつう12–2月)、強い芳香がある直径 1.5–4 cmほどの黄色い花がやや下向きに咲く[12][13][17][18][19](図4)。花柄は長さ 2–8 mm[17]。花被片は多数(15–21枚)、0.5–2 × 0.5–1.5 cm、らせん状についている[17][18](図4)。光沢があり、基本的に黄色であるが、内側の花被片はふつう赤褐色[3][17][18](図4)。雄しべ(雄蕊)は5–8個、長さ 2.5–4 mm、花糸は幅広い[17]仮雄しべ(仮雄蕊)は2–15個、長さ 2–3 mm、軟毛がある[17]雌しべ(雌蕊)は5–15個、花柱子房の約3倍の長さ、基部に軟毛がある[17]。花の芳香は精油によるものであり、成分としてはボルネオールリナロールカンファーファルネソールシネオールなどを含む[15]

4a. 花
4b. 花

果期は4–11月[17](図5)。果実痩果、褐色、楕円形から腎形、15-16.5 × 5-5.6 mm、ゴキブリの卵塊に似ている[12][17][18](図5b)。花托が発達して3-11個の痩果を包んで偽果である集合果を形成する[12][17][18]。集合果は卵状楕円形、2-6 × 1-2.5 cm、やや木質、先端に多数の突起がある[17][18](図5)。染色体数は n = 22[17]

5a. 若い集合果
5b. 集合果とその中に含まれる痩果

分布

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自生地は中国中部から南部とされ、山林に生育するが、古くから植栽されていたため真の自生地は必ずしも明らかではない[1][17]。日本へは、17世紀初め(江戸時代初期)に渡来したとされる[12]。現在では、日本を含め世界中の温帯域で広く観賞用に植栽されている[17][12][18]

種内分類群

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6a. ソシンロウバイの花
6b. ソシンロウバイの花

以下のような種内分類群があり、特にソシンロウバイはしばしば栽培されている。ただし、これらを分類学的には分けず[1]栽培品種変種品種とは規約が異なる)として扱うことも多い[19][21]

  • ソシンロウバイ(素心蝋梅、学名:Chimonanthus praecox (L.) Link f. concolor (Makino) Makino[22])(図6)
    花がやや大きく、内側のものを含めて花被片が全て黄色い(基本品種では内側の花被片は暗紫色)[18][19][3]。由来するものとして「マンゲツロウバイ(満月蝋梅)」や「シロバナロウバイ(白花蝋梅)」、「揚州黄」、「吊金鐘」などの栽培品種がある[要出典]
  • トウロウバイ(唐蝋梅、学名:Chimonanthus praecox (L.) Link var. grandiflorus (Lindl.) Makino[23]
花がやや大きく、黄色味が強い[15][24][25]。「檀香梅」ともよばれる[25][注 1]。「虎蹄」「喬種」などの栽培品種がある[要出典]
  • カカバイ(狗牙蝋梅・狗蝿梅、学名:Chimonanthus praecox (L.) Link f. intermedius (Makino) Okuyama[27]

人との関わり

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観賞用

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冬季に香りのよい花をつけるため、庭園寺社などに広く植栽されている[14]盆栽鉢植えとして利用されることもある[14]生け花茶花として利用されることもある[14]

栽培

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半日陰から日向で生育可能である[21]。土壌をあまり選ばないが、過湿には弱いため、水はけの良い場所が好ましい[21]。冬に開花するため、寒風の当たらない場所がよい[21]。春から秋の間は、土壌表面が乾いたら十分な水を与える[21]。春と冬に緩効性化成肥料または有機質肥料を施肥する[21]。未開花株には、9月上旬に半分量を追肥する[21]。特に問題となる病虫害はない[21]

繁殖は、一部を除き挿し木が一般的であるが、実生からの育成も容易である[21]種まき適期は9月であり、とりまきを行う[21]。タネ(実際には果実)の3倍ほどの深さにまき、乾燥しないように水やりを行えば、春には発芽する[21]

毒性

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有毒植物であり、種子などにアルカロイドであるカリカンチンフランス語版を含む[28]。中毒すると、ストリキニーネ様の中毒症状を示す[15]。カリカンチンの致死量は、マウスで 44 mg/kg(静脈注射)、ラットで 17 mg/kg(静脈注射)である[15]。日本では、牧場のヒツジの中毒死と考えられる例が報告されている[29]

薬用

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つぼみを乾燥させたものは生薬名として「蝋梅花(ろうばいか)」とよばれ、鎮咳や解熱鎮痛などに利用される[28][30]。花やつぼみから抽出された油は「蝋梅油(ろうばいゆ)」とよばれ、抗菌、抗炎作用があり、やけどなどに使われ、また中国でよく知られた水虫の薬である「華佗膏」にも配合される[12][28]

文化

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日本においては、晩冬(小寒〔1月6日頃〕から立春の前日〔2月3日頃〕までの間)の季語とされる[31]。下記のように、俳句や短歌に詠まれることがある[15]

蠟梅や 薄雪庭を 刷きのこす

しらじらと 障子を透す 冬の日や 部屋に人なく 臘梅の花

ロウバイの花言葉は、「慈愛」とされる[15][16]。他に「先導」「先見」ともされる[16]

夏目漱石芥川龍之介はロウバイを好んだとされ、ロウバイが登場する短編やエッセーを記している[16]

脚注

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注釈

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  1. ^ 標準的な和名でダンコウバイ(檀香梅)とよばれる植物は、クスノキ科に分類される全く別の植物である[26]

出典

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  1. ^ a b c d Chimonanthus praecox”. Plants of the World online. Kew Botanical Garden. 2024年12月29日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Chimonanthus praecox(L.) Link”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年12月30日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、237頁。ISBN 978-4-416-61438-9 
  4. ^ a b ロウバイ」『改訂新版 世界大百科事典』https://kotobank.jp/word/%E3%83%AD%E3%82%A6%E3%83%90%E3%82%A4コトバンクより2025年1月3日閲覧 
  5. ^ 蝋梅」『動植物名よみかた辞典 普及版』https://kotobank.jp/word/%E8%9D%8B%E6%A2%85コトバンクより2025年1月4日閲覧 
  6. ^ 蝋梅」『デジタル大辞泉』https://kotobank.jp/word/%E8%9D%8B%E6%A2%85コトバンクより2025年1月4日閲覧 
  7. ^ 黄梅」『動植物名よみかた辞典 普及版』https://kotobank.jp/word/%E9%BB%84%E6%A2%85コトバンクより2025年1月4日閲覧 
  8. ^ 瀧井康勝『366日 誕生花の本』日本ヴォーグ社、1990年11月30日、368頁。 
  9. ^ 唐梅」『動植物名よみかた辞典 普及版』https://kotobank.jp/word/%E5%94%90%E6%A2%85コトバンクより2025年1月4日閲覧 
  10. ^ 南京梅」『動植物名よみかた辞典 普及版』https://kotobank.jp/word/%E5%8D%97%E4%BA%AC%E6%A2%85コトバンクより2025年1月4日閲覧 
  11. ^ 蘭梅」『動植物名よみかた辞典 普及版』https://kotobank.jp/word/%E8%98%AD%E6%A2%85コトバンクより2025年1月4日閲覧 
  12. ^ a b c d e f g h i j 平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、116頁。ISBN 4-522-21557-6 
  13. ^ a b ロウバイとは”. ヤサシイエンゲイ 京都けえ園芸企画舎. 2024年12月30日閲覧。
  14. ^ a b c d e 冬の芳香を楽しむ ロウバイ”. みんなの趣味の園芸. NHK出版 (2017年1月20日). 2024年1月4日閲覧。
  15. ^ a b c d e f g ロウバイ”. 山科植物園 (2000年3月1日). 2025年1月4日閲覧。
  16. ^ a b c d 蝋梅ろうばい”. 旬のもの|暦生活|日本の季節を楽しむ暮らし. 新日本カレンダー株式会社 (2021年1月23日). 2024年12月30日閲覧。
  17. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t Flora of China Editorial Committee. “Chimonanthus praecox”. Flora of China. Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2025年1月4日閲覧。
  18. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 崎尾均 (2000). “ロウバイ”. 樹に咲く花 離弁花1. 山と渓谷社. pp. 454–455. ISBN 4-635-07003-4 
  19. ^ a b c d e f 林将之 (2020). “ロウバイ”. 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1300種類 増補改訂版. 山と渓谷社. p. 112. ISBN 978-4635070447 
  20. ^ a b 馬場多久男 (1999). “ロウバイ”. 葉でわかる樹木 625種の検索. 信濃毎日新聞社. p. 190. ISBN 978-4784098507 
  21. ^ a b c d e f g h i j k ロウバイ”. みんなの趣味の園芸. NHK出版. 2025年1月4日閲覧。
  22. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Chimonanthus praecox(L.) Link f. concolor(Makino) Makino”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年12月30日閲覧。
  23. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Chimonanthus praecox(L.) Link var. grandiflorus(Lindl.) Makino”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年12月30日閲覧。
  24. ^ Chimonanthus praecox”. University of Delaware. 2025年1月4日閲覧。
  25. ^ a b 唐蝋梅」『デジタル大辞泉』https://kotobank.jp/word/%E5%94%90%E8%9D%8B%E6%A2%85コトバンクより2025年1月4日閲覧 
  26. ^ ダンコウバイhttps://kotobank.jp/word/%E3%83%80%E3%83%B3%E3%82%B3%E3%82%A6%E3%83%90%E3%82%A4コトバンクより2025年1月4日閲覧 
  27. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Chimonanthus praecox(L.) Link f. intermedius(Makino) Okuyama”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年12月30日閲覧。
  28. ^ a b c ロウバイ”. 鹿児島県薬剤師会 (2023年3月9日). 2025年1月4日閲覧。
  29. ^ 春山優唯. “ふれあい牧場で発生した羊のロウバイ中毒疑い事例”. 埼玉県調査研究成績報告書 (家畜保健衛生業績発表集録) 第59報. 埼玉県. 2025年1月4日閲覧。
  30. ^ 磯田進・鳥居塚和生. “ロウバイ”. 日本薬学会. 2025年1月4日閲覧。
  31. ^ 臘梅”. きごさい. 2024年12月30日閲覧。[信頼性要検証]

外部リンク

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