ヒノキ科学名:Cupressaceae)は針葉樹の一種である。針葉樹のグループにおいて種数はマツ科マキ科に次ぐ。またこれら2科について、マツ科が北半球、マキ科が南半球を中心とした分布を持つのに対し、ヒノキ科は両半球に広く分布し、特に温帯を代表する針葉樹である。

ヒノキ科
ヒノキ属の一種
ヒノキ属の一種Cupressus atlantica
分類
: 植物界 Plantae
: 裸子植物門 Pinophyta
: マツ綱 Pinopsida
: マツ目 Pinales
: ヒノキ科 Cupressaceae
亜科

本文参照

形態

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樹形はクリスマスツリーのような円錐形になるものが多いが、南半球に分布する種類を中心に丸みを帯びた広葉樹のような形になるものも多い。樹皮は橙色から赤褐色で、縦に筋が入りむけるものが多いが、滑らかなもの、鱗状になるものもある。

葉はらせん状に配置、または対生で放射状に出る。多くの種で、幼樹では針状だが成熟すると小さい鱗状になるが、針状のままの種もある。古い葉はふつう個別に脱落するのでなく小枝ごと脱落するのもマツ科などと比べた時の大きな特徴である。多くは常緑で葉は2から10年残るが、スギ亜科に属するものには落葉性のものがある。また、常緑樹であっても冬は葉色が変わるものがある。子葉はふつう2つだが、6つあるものもある。

球果は木質または革状、またビャクシン属では液果状になり、鱗片1つに胚珠1個から数個がつく。球果の鱗片は葉と同じようにらせん状あるいは対生に配置する。種子は一般に両側に翼を持つが、一部に片側だけのものや持たないものがある。

生態

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乾燥地に生息する種から水辺に生息する種まで幅広い。

火災が頻発するような地域に住む種では、晩生球果(英;serotinous cone)と呼ばれる仕組みを持つものがある。これは成熟しただけでは球果の鱗片が開かずに、火災の強熱によって初めて開く仕組みとなっており、火災への適応とみられる。同じような仕組みは針葉樹ではマツ科マツ属の一部の種にみられる。異種寄生性のサビキンの宿主になるものがあり、特にビャクシン属に寄生するサビキンはバラ科の果樹類に赤星病と呼ばれる病気を引き起こす。

ヒノキ科樹木の根も菌類と共生した菌根を作るが、マツ科やブナ科などが外生菌根を作るのに対し、ヒノキ科はアーバスキュラー菌根と呼ばれる種類である。この菌根は草本植物を中心に多くの植物と菌根を作るが、目に見えるようなキノコは一般には作らない。このためヒノキ科を中心とする森林ではマツ科やブナ科を中心とする森林に比べてキノコの量と種類が貧弱である。

人間との関わり

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大きくなる種では木材として重要な種が多い。ヒノキ科の木材中の壁孔(英:pit)はマツ科のものとは形態が異なるという[1]。また、顕微鏡下の観察ではシュウ酸カルシウムの結晶は普通は見られない[1]。針葉樹では珍しく果実を付けるビャクシン属の実などは食用とされる。

分類

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系統

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Cupressaceae
Cunninghamioideae

Cunninghamia

Taiwanioideae

Taiwania

Athrotaxidoideae

Athrotaxis

Sequoioideae

Metasequoia

Sequoia

Sequoiadendron

Taxodioideae

Cryptomeria

Glyptostrobus

Taxodium

Callitroideae

Austrocedrus

Papuacedrus

Libocedrus

Pilgerodendron

Widdringtonia

Diselma

Fitzroya

Neocallitropsis

Actinostrobus

Callitris (Actinostrobus およびNeocallitropsisを含める説もあり)

Cupressoideae

Thuja

Thujopsis

Chamaecyparis (Fokieniaを含める説もあり)

Calocedrus

Tetraclinis

Microbiota

Platycladus

Cupressus ( Callitropsis, Cupressus, HesperocyparisもしくはXanthocyparisに置く説もあり)

Juniperus


下位分類

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コウヨウザン亜科(Subfamily Cunninghamioideae)

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以下の一属からなる単型(モノタイプ)の亜科。

中国南部に二種が分布する。

タイワンスギ亜科(Subfamily Taiwanioideae)

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以下の一属からなる単型の亜科。

  • タイワンスギ属(学名:Taiwania
亜科だけでなく、属も単型でタイワンスギTaiwania cryptomerioide)だけからなる。現生種のタイワンスギは樹高70mに達することもある巨大種である。

タスマニアスギ亜科 Subfamily Athrotaxidoideae

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タスマニアに2種もしくは3種が知られている。山火事に弱く、山火事が頻発する同地においては分布が限られるという。

セコイア亜科 Subfamily Sequoioideae

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以下の3属から成る。

  • セコイア属(学名:Sequoia
 現生種はアメリカ西海岸に分布するセコイアSequoia sempervirens)だけから成る単型の属である。現生種のS. sempervirens英名をred wood(赤い木)と呼ばれ、その名の通り樹皮は赤みの強い色をしている。次のセコイアデンドロンに比べて、海に近い地域に分布することから英名はcoastal red wood(海沿いの赤い木)と呼ばれる。樹高は最大110m、胸高直径は9m余りのものが記録されている巨大種。アメリカ西海岸からロッキー山脈に至る周辺は針葉樹の楽園で各種の固有種のほか、巨大になる種が多くマツ科マツ属Pinus)やカラマツ属Larix)の最大種もこの地域が原産である。晩生球果の性質を持ち、火災時に種を散らす。
  • セコイアデンドロン属(Sequoiadendron
現生種はアメリカ西部に分布するセコイアデンドロンSequoiadendron giganteum)一種だけから成る単型の属である。セコイアが西海岸に近いところに分布するのに対し、本種はロッキー山脈に近いシエラネバダ山脈周辺でのやや内陸である。セコイアと比較してさらに大きくなることから、現地ではgiant sequoia(大きなセコイア)と呼ばれている。晩生球果の性質を持ち火災時に種を散らす。
  • メタセコイア属(Metasequoia)
現生種はメタセコイアMetasequoia glyptostroboides)のみが知られる単型の属である。化石種を含めればあと数種いたことがわかっている。冬には落葉する。

スギ亜科 Subfamily Taxodioideae

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  • ヌマスギ属(学名:Taxodium
アメリカからメキシコにかけて3種が知られる。属名Taxodiumイチイ科イチイ属(学名:Taxus)に見た目が似ていることからだとされている。和名ヌマスギ属は沼杉で沼地に住むという生態的特徴からきている。生態的特徴としては水辺に生えるということ以外にも落葉するということでもよく知られ、Taxodium distichumなどは葉が落ちる様子を羽に例えて、和名を落羽松(ラクウショウ)とも呼ばれる。水辺にもよく対応し、気根(呼吸根ともいう)と呼ばれる特殊な根を付ける。
  • スイショウ属(学名;Glyptostrobus
現生種は中国にスイショウGlyptostrobus pensilis、中国名:水松)一種だけが知られる単型の属である。和名は中国語名の音読みに由来。
  • スギ属(学名:Cryptomeria
日本にスギCryptomeria japonica)一種が知られる単型。天然分布は青森県までとされ、北海道で見られるものは植林の結果とされる。常緑であるが、冬には葉が緑色から茶色に変色する。これは低温で光合成能力の低下する冬に太陽光を浴びすぎて傷害を起こすことを防ぐためとされる。花粉は春に風媒され、花粉症の原因となる

Subfamily Callitroideae

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和名未定の亜科であるが、学名をそのまま読んでカリトリス亜科などと呼ばれることが多い。南半球で進化したグループである。樹形は綺麗なクリスマスツリー状にならず丸みを帯びるか、崩れたような印象になるものが多い。

  • Callitris
和名未定の属。ニューカレドニアやオーストラリアに10種程度が分布する。あまり大きくなる種類ではなく、樹高は5m-20mほどである。マツ科マツ属の一部の種のように晩生球果(英:serotinous cone)の性質を持ち、熟しても閉じたままで樹上に残り、山火事の強熱を浴びたときにはじめて開いて種子を散布するような仕組みとなっている。
  • Actinostrobus
和名未定の属。オーストラリア西部に3種が分布する。いずれも樹高10mに満たない小型種で球果は晩生球果の性質を持つ。
  • Widdringtonia
和名未定の属。マラウイから南アフリカにかけてのアフリカ大陸南東部に4種が知られている。
  • Diselma
和名未定の属。タスマニアに分布するDiselma archeri(和名未定)一種だけから成る単型属である。樹高は5mに満たない小型種で雌雄異株。
  • パタゴニアヒバ属(学名;Fitzroya
南米に分布するパタゴニアヒバFitzroya cupressoides)一種だけから成る単型の属である。属名のFitzroveはイギリスの海軍軍人であり、南米を探検したロバート・フィッツロイ(Robert FitzRoy, 1805-1865)に因む。
  • Austrocedrus
和名未定の属。南米チリからアルゼンチンにかけての温帯雨林に分布するAustrocedrus chilensis(和名未定)一種だけから成る単型の属である。属名Austrocedrusは「南の針葉樹」の意味、種小名前chiriensisは分布地チリに因む。
  • Libocedrus
和名未定の属。ニュージーランドやニューカレドニアに5種程度が知られる。ニュージーランドに分布するL. plumosaという種は先住民マオリにkawakaと呼ばれている。
  • Pilgerodendron
和名未定の属。南米に分布するPilgerodendron uviferum(和名未定)一種だけから成る単型の属である。雌雄異株の常緑樹で、最大樹高は20mほどの中型種。かつてはLibcedrus属と考えられていた。
  • Papuacedrus
和名未定の属。ニューギニアに分布するPapuacedrus papuana(和名未定)一種だけから成る単型の属である。属名Papuacedrusは「パプアの針葉樹」の意味で分布地に因む。種小名papuanaも同じ。

ヒノキ亜科 Subfamily Cupressoideae

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  • クロベ属(学名;Thuja
東アジアとアメリカに5種ほど知られ、日本にはクロベThuja standishii)が分布する。アメリカにはアメリカネズコニオイヒバが分布する。クロベは黒檜と書き、由来は葉の裏の気孔が白くなり目立つヒノキに比べてクロベは緑色で目立たないから他諸説ある。ネズコとも呼ばれる。ちなみに白檜(シラビソ、シラベ)と呼ばれる樹もあるが、マツ科モミ属(学名:Abies)でクロベやヒノキとは遠縁である。
  • アスナロ属(学名:Thujopsis
日本に分布するアスナロThujopsis dolabrata)一種だけから成る単型の属である。アスナロ(T. dolabrata)は樹高30mに達する中型種である。ヒノキ科の中ではかなり北方まで分布する種類で、北海道南部まで分布し、最大の産地は青森県である。各地で方言名を持ち、最大産地の青森県における「ヒバ」、能登半島における「アテ」がとくに有名である。木材には精油ヒノキチオールを豊富に含み、腐りにくく高級木材として使われる[2]
  • ヒノキ属 Chamaecyparis
アジアとアメリカに合計6種ほどが知られる。日本にはヒノキ(C. obtusa)とサワラC.pisifera)が分布する。台湾には台湾桧(タイヒ)とベニヒが分布する。アメリカにはローソンヒノキ(米桧)とイエローシーダー(米ヒバ)が分布する。いずれも樹高20m以上、種によっては70m近くに育つ大型種で、木材は腐りにくいことから高級建材として扱われる。
  • フッケンヒバ属(学名;Fokienia
中国南部からラオスベトナムにかけてフッケンヒバFokienia hodginsii)一種だけから成る単型の属である。中国名は福建柏。ヒノキ属に含める説もある、
  • Calocedrus
和名未定の属。アジアに3種およびアメリカに1種が分布する。中国語名は肖楠(クスノキに似ている)や翠柏、英語名はincense ceader(香りのあるヒノキ)
  • Tetraclinis
和名未定の属。アフリカ大陸北部の地中海沿岸地域に分布するTetraclinis articulata(和名未定)一種だけから成る単型の属である。T. articulataは樹高15mほどの小型~中型種。
  • Microbiota
和名未定の属。ロシア極東に分布するMicrobiota decussata(和名未定)一種だけから成る単型の属である。M. decusattaは樹高1mに満たない小型種で、マツ科マツ属のハイマツPinus pumila)のように横に広がるように伸びる。
  • コノテガシワ属(学名;Platycladus
コノテガシワPlatycladus orientalis)一種だけから成る単型の属である。コノテガシワもスギと同じく冬は葉が茶色に変色する。
  • Xanthocyparis
和名未定の属で2000年代に提案された新しい属である。ベトナムに分布するXanthocyparis vietnamensis一種だけから成る単型の属である。アメリカの一種を加えて2種とする説もある。
東アジアからヒマラヤにかけての地域と、アメリカ大陸に合計25種程度が知られる。樹高数mの小型種から40mに達する大型種まで含む。一般にアメリカ大陸の種はアジアのものより球果を構成する鱗片の数が少なく、鱗片上にはしばしば棘を有するなどの違いがありかつては別属にされていた。アメリカ産の一部の種には晩生球果の性質を持つものがある。
南米とオーストラリアを除いた北半球の北極から熱帯のアフリカまで幅広い分布地を持つグループである。日本にはイブキJ. chinensis)が分布する。針葉樹では珍しく種子を風散布ではなく、動物散布を期待して進化したとみられるグループで果実を付ける。針葉樹ではほかにマキ科イチイ科が果実を付ける方向に進化したとみられる形態を持つ。ビャクシン属は異種寄生性を持つサビキンの一種Gymnosporangium属菌の宿主の一つであり、もう一つの宿主であるバラ科の果樹の赤星病を引き起こすサビキンの感染源として重要である。果樹への被害を防ぐためビャクシン属の植栽を規制している地域もある。これは同じく異種寄生性を持つサビキンによる五葉マツ類発疹さび病(英:white pine blister rust)からマツ属を守るために、宿主となるスグリ属(Ribes)を栽培しないように規制しているのと似ている。中国ではビャクシンを漢字で桧(檜)と書く。

脚注

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  1. ^ a b IAWA 国際木材解剖学者連合(編), 伊東隆夫ら訳. 2006. 針葉樹材の識別 IAWA による光学顕微鏡的特徴リスト. 海青社. 滋賀.
  2. ^ 楠本倫久. 2012. ヒノキ科球果に含まれる生物活性成分. 木材保存38(5), pp198-209. doi:10.5990/jwpa.38.198

関連項目

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外部リンク

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