ドバイ原油

中東ドバイ産の原油。価格指標として用いられる。

ドバイ原油(ドバイげんゆ、英語: Dubai Crude)は、ドバイで生産される石油。その価格は湾岸地域からの輸出価格およびアジア地域への輸入価格の基準となるベンチマーク(指標油種)として1980年代半ばから用いられている[1][2]。なお、世界的に用いられるベンチマークブランドとしては、ブレント原油(ヨーロッパ)とウェスト・テキサス・インターミディエイト(米国)が特に有力である。

概要

編集

ドバイ原油は原産地のアラブ首長国連邦ではal-Fateh(アラビア語: الفاتح‎)[注釈 1]として知られている[3]中東産の原油には通常、仕向地制約(仕向地条項)と呼ばれる荷揚場所(仕向地)の制限が課せられていて、転売などの自由な取引ができないようになっている[4][5]。ドバイ原油にはそのような制限がなく、全量がスポット取引されているため、指標として定着した[6]

ドバイ原油そのものの取引は「プラッツ・ウィンドウ」というコンピューターを利用した業者間の相対取引で行われる。その市場価格をもとにしてプラッツ社が発表するのが「ドバイ原油価格」である[5]。ドバイ価格を参考にして、1日あたり約3000万バレル(世界の生産量の約30%)におよぶアジア向け原油の価格が決定されている[1]

ドバイ原油は、API密度が31度で硫黄含有量が2%(重量ベース)の中質石油である[7]

先物取引

編集

ドバイ原油は生産量が少ない(2010年で平均日量6.5万バレル)ため、指標としての信頼性が疑問視されていた。そこで「プラッツウインドウ上の取引では売り手オプションにより、オマーン原油で代替受け渡しが可能」となっている[5]

オマーン原油の生産量はドバイ原油よりも大きく(2010年で平均日量58.1万バレル)、DME(ドバイ・マーカンタイル取引所英語版)では2007年よりオマーン原油先物取引 (OQD) が行われている[5]

ただし、その出来高は年間約26億バレル(2016年)で、年間2000億バレルを越えるブレント原油 (ICE) やWTI (NYMEX) とは大差があり、TOCOM(東京商品取引所)の中東原油先物の年間約140億バレルにも水をあけられている[8]。この理由の一つは、OQDには物理的な原油を取り扱うプレイヤーが多数参加しており、金銭でのポジションの精算以外に物理的な原油の取引も大量に行われていることがあげられる[5][9][10][注釈 2]

脚注

編集

注釈

編集
  1. ^ 他の原油の銘柄と同様に、油田名に由来する。ファテ油田英語版を参照。
  2. ^ 2010年の統計(英語)によれば、年間出来高7億4472万バレル中、約19%にあたる1億4489万バレルが物理的にデリバリーされた。なお、TOCOMの中東石油先物は現金決済先物取引を採用しているので、宣伝では「受渡しがない商品設計でデリバリーを気にせずに取引できます」とそのリスクがない点を強調している[11]

出典

編集
  1. ^ a b Oil Markets in Transition and the Dubai Crude Oil Benchmark” (PDF) (英語). Oxford Energy. p. 2 (October 2014). 2015年1月12日閲覧。
  2. ^ Bassam Fattouh (2012年3月). “The Dubai Benchmark and Its Role in the International Oil Pricing System(ドバイ原油価格と国際石油価格設定システムにおけるその役割)” (pdf) (英語). Oxford Energy Comment. The Oxford Institute for Energy Studies(オックスフォードエネルギー研究所). p. 1. 2020年10月4日閲覧。
  3. ^ Crude Benchmark Analysis”. 2006年3月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年10月8日閲覧。
  4. ^ 仕向地条項”. 株式会社朝日新聞社. 2020年10月3日閲覧。
  5. ^ a b c d e 検定試験テキスト -石油取引の基礎知識-”. 東京商品取引所. 2020年10月3日閲覧。
  6. ^ Tilak K. Doshi, Neil Sebastian D’Souza. “Chapter 6: The ‘Asia Premium’ in Crude Oil Markets and Energy Market Integration(原油市場とエネルギー市場における「アジアプレミアム」の撤廃)” (pdf). Economic Research Institute for ASEAN and East Asia (ERIA). p. 157. 2015年1月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年10月4日閲覧。
  7. ^ Supplement 3 (1997), Oil Trading Manual, Long, D. (Ed.), Cambridge: Woodhead Publishing Limited.
  8. ^ 第12表 主要な原油先物取引所の取引綱領(抜粋)” (PDF). エネオス. 2020年10月4日閲覧。
  9. ^ DME Oman Crude Oil Futures Contract (OQD)”. Dubai Mercantile Exchange Limited (DME). 2020年10月4日閲覧。
  10. ^ 「通常の取引では石油の物理的デリバリーは非常にまれであり、取引量全体の約1%しかない」Нефтяной рынок(石油市場)” (ロシア語). Мир нефти(石油の世界). ロスネフチ. 2012年11月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年10月4日閲覧。
  11. ^ 原油投資の魅力 プラッツドバイ原油”. 株式会社 東京商品取引所. 2020年10月4日閲覧。

関連項目

編集