チャーガ
チャーガは、タバコウロコタケ科に属するきのこの1種。和名はカバノアナタケ[1]で、学名はInonotus obliquusである。シベリア霊芝とも呼ばれる[2]。名前の由来は「古い幹にできる黒いきのこ様のコブ」を意味するロシア語の「チャガ(Чага)」から来ているとされてある。
カバノアナタケ | |||||||||||||||||||||
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分類 | |||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||
Inonotus obliquus Pilát (1942) | |||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||
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和名 | |||||||||||||||||||||
カバノアナタケ |
解説
編集寒い地域で育ち、主な産地はロシアである。日本では北海道で発見することができる。主に白樺の木に寄生し、10-15年かけて成長する。見た目は黒くゴツゴツしたコブの様で、大きいものでは直径約30cmになる。この黒い物体は菌糸塊であり、子実体は樹皮の下で形成されるためほとんど視認は困難である。寄生された白樺は白色腐朽を引き起こす。
最終的に白樺の木の栄養分を全て奪い取って枯らしてしまうと考えられていたため、「白樺のがん」とよばれていた。しかし、研究が進むにつれて、チャーガの成分の健康効果が明らかになり、現在は発見困難な貴重なきのことして「幻のきのこ」「森のダイヤモンド」とよばれるようになった[3]。
チャーガは、ストレスへの抵抗能力を高めるはたらきがあるのでアダプトゲンとしても知られている[4]。ただしメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターによれば、チャーガの安全性、病気予防効果、がん・心疾患・糖尿病に対する治療効果を調べた臨床試験は存在しないとされている[5]。
成分
編集チャーガには、タンパク質、脂質、糖質、ビタミン類、ミネラル類、フラボノイド、リグニンなどがバランスよく含まれている。また、有効成分としてβDグルカンとSOD酵素が注目されている。βDグルカンには、免疫細胞を活性化させ、免疫力を増強させる作用があると報告がある。SOD酵素には、体の中の余分な活性酸素を除去するはたらきがある。過剰な活性酸素は、がんや老化、生活習慣病の原因になると考えられている[5]。
健康効果
編集チャーガの健康効果に関する研究は、1951年にソビエト連邦科学アカデミー植物研究所と第一レニングラード医大の協力により始まった。当時のソビエト連邦では、臨床研究で効果が認められたチャーガを連邦薬局方指定公認の薬として使用していた。主に、手術不能のがん、胃や十二指腸の潰瘍、慢性胃炎、胃腸のポリープ治療に対し使用が推奨されていた。国内外の研究報告により、チャーガには抗がん効果、免疫力の強化作用、活性酸素除去作用、抗エイズウイルス効果、抗インフルエンザウイルス効果、O-157などに対する抗菌作用、糖尿病や高血圧の予防と改善作用、アレルギー疾患の予防と改善作用、慢性肝炎や慢性腎炎の予防と改善作用などがあると考えられている[3][6]。
抗腫瘍作用
編集チャーガにはβDグルカンとよばれる多糖類が豊富に含まれており、免疫細胞を活性化する効果を期待できる。また、SOD酵素とメラニン色素には活性酸素除去効果と抗酸化作用があると考えられている。メラニン色素には、遺伝子保護効果があることが知られている。このようにチャーガには、酸化ストレス除去作用や傷ついた遺伝子の保護作用があると報告がある[7]。
抗ウイルス作用
編集1993年の日本エイズ学会でチャーガはがんだけでなく、エイズウイルスにも有効であると発表され注目を集めた。1999年には第51回北海道公衆衛生学会で、チャーガにはエイズウイルスだけでなく、インフルエンザウイルスが体内で増殖するのを防ぐ効果があると報告された。チャーガに抗ウイルス効果がある理由として、リグニンという成分が考えられている。ウイルスがヒトに感染する時には、ヒトの細胞膜を溶かす酵素を出して侵入する。リグニンは、ウイルスが出す酵素を吸収し、ウイルスがヒトに感染するのを防ぐと報告がある[3]。細胞を用いた研究で、チャーガエキスを投与するとヘルペスウイルスの侵入を制御できることがわかった。チャーガはウイルスの糖たんぱく質に対して作用し、ウイルスの細胞内への侵入を防ぐことが明らかになった[8]。
アレルギー抑制作用
編集マウスを対象にした研究で、チャーガエキスを投与するとヒスタミンの放出が抑制されアレルギー反応が低下することがわかっている[2]。アナフィラキシーショックを起こさせたマウスを対象にした研究で、チャーガエキスを投与するとアレルギーに関連するIgEのレベルが低下することが示された。チャーガが抗アレルギー効果のある食材である可能性が明らかになった[9]。
難治性皮膚炎に対する効作用
編集難治性の皮膚病である乾癬(かんせん)の患者に、チャーガエキスを服用させたところ皮膚や爪の症状が改善したという報告がある。詳細なメカニズムは明らかになっていないものの、チャーガの免疫増強作用や抗酸化作用によって体質が改善したことが関連しているのではないかと考えられている[10]。
副作用
編集チャーガは古くからロシアの家庭薬として親しまれてきたが、目立った副作用の報告はない。副作用を起すことは非常に稀だが、人によって合わない可能性もある[3]。
摂取の仕方
編集摂取の目安は1日約10~20gで、がんなどの治療中であれば体調に合わせて増量も可能である。自分でチャーガを細かく砕いたものをティーバッグに入れてお湯で煮出して飲む方法があるが、カバノアナタケとして販売されているものもある。
研究報告・論文
編集- 肝障害の改善効果(2015)
- ラットを対象とした研究で、チャーガエキスを酸化ストレスによる肝障害に対して投与したところ肝機能の改善を認めた。チャーガによる抗酸化作用によると考えられた。[11]
- 大腸がん細胞の増殖抑制効果(2015)
- 大腸がん細胞を対象としたマウスの研究でチャーガの成分であるエルゴステロールペルオキシドががん細胞の増殖を抑制することが明らかになった[12]。
- 脳腫瘍細胞の増殖抑制効果(2014)
- in vitroの実験においてチャーガエキスに含まれる多糖類がヒトの脳腫瘍細胞の増殖を抑制することがわかった。腫瘍細胞の抑制は、チャーガが細胞死(アポトーシス)を起こすカスパーゼ3の発現を促進するからではないかと考えられた[13]。
- 炎症性腸疾患の改善効果(2012)
- 炎症性腸疾患を発症させたマウスに対しチャーガエキス投与したところ、炎症に関わる物質が抑制され、腸の炎症性病変を改善することが明らかになった。炎症性腸疾患に対するサプリメントとしてチャーガが有効である可能性が示された[14]。
- 認知機能障害の改善効果(2011)
- 認知機能に障害を起こさせたマウスに対し、チャーガを投与すると認知機能障害に関連する物質と酸化ストレスを抑制した。チャーガが、脳の学習や記憶などの機能に良い影響を与える可能性が示された[15]。
- 炎症性腸疾患患者のDNA障害の抑制効果(2007)
- 炎症性腸疾患患者のリンパ球を採取し、チャーガエキスを加えたところin vitroで傷ついたDNA数が減少することが報告された[16]。
脚注
編集- ^ 齋藤明子, 佐藤千鶴子, 新山和人、チャガ(カバノアナタケ)の変異原性抑制効果について (PDF) 北海道立衛生研究所報 1996年 第46集
- ^ a b 陳志清, 仲田義啓、チャガ (シベリア霊芝) の癌細胞抑制とヒスタミン遊離抑制作用について」『日本未病システム学会雑誌』 8巻 1号 2002年 p.46-49, doi:10.11288/mibyou1998.8.46
- ^ a b c d 米山誠「白樺の森に生育するガンを消す力 自然の恵みチャーガ茸 青萌堂
- ^ Winston, David & Maimes, Steven. “Adaptogens: Herbs for Strength, Stamina, and Stress Relief,” Healing Arts Press, 2007.
- ^ a b “カバノアナタケ(Fuscoporia obliqua)の抗酸化活性に関する研究”. Memorial Sloan-Kettering Cancer Center (2011年7月18日). 2017年2月4日閲覧。
- ^ 松葉慎太郎, 松野栄雄, 佐久間正弘 ほか、「マイトマイシンC免疫抑制マウスにおけるチャーガ熱水抽出エキス摂取の抗体産生細胞に及ぼす影響」『医学と生物学』 第151 巻5号 2007年 p.126-130, NAID 40015468372
- ^ Rzymowska J. The effect of aqueous extracts from Inonotus obliquus on the mitotic index and enzyme activities. Boll Chim Farm. 1998 Jan;137(1):13-5.
- ^ Pan HH, Yu XT, Li T, Wu HL, Jiao CW, Cai MH, Li XM, Xie YZ, Wang Y, Peng T. Aqueous extract from a Chaga medicinal mushroom, Inonotus obliquus (higher Basidiomycetes), prevents herpes simplex virus entry through inhibition of viral-induced membrane fusion. Int J Med Mushrooms. 2013;15(1):29-38.
- ^ .Yoon TJ, Lee SJ, Kim EY, Cho EH, Kang TB, Yu KW, Suh HJ. Inhibitory effect of chaga mushroom extract on compound 48/80-induced anaphylactic shock and IgE production in mice. Int Immunopharmacol. 2013 Apr;15(4):666-70. doi:10.1016/j.intimp.2013.03.015 Epub 2013 Mar 25
- ^ Dosychev EA, Bystrova VN. Treatment o psoriasis using "Chaga" fungus preparations. Vestn Dermatol Venerol. 1973 May;47(5):79-83.
- ^ Hong KB, Noh DO, Park Y, Suh HJ.Hepatoprotective Activity of Water Extracts from Chaga Medicinal Mushroom, Inonotus obliquus (Higher Basidiomycetes) Against Tert-Butyl Hydroperoxide-Induced Oxidative Liver Injury in Primary Cultured Rat Hepatocytes.Int J Med Mushrooms. 2015;17(11):1069-76.
- ^ Kang JH, Jang JE, Mishra SK, Lee HJ, Nho CW, Shin D, Jin M, Kim MK, Choi C, Oh SH.Ergosterol peroxide from Chaga mushroom (Inonotus obliquus) exhibits anti-cancer activity by down-regulation of the β-catenin pathway in colorectal cancer.J Ethnopharmacol. 2015 Sep 15;173:303-12. doi:10.1016/j.jep.2015.07.030 Epub 2015 Jul 22.
- ^ Ning X, Luo Q, Li C, Ding Z, Pang J, Zhao C. Inhibitory effects of a polysaccharide extract from the Chaga medicinal mushroom, Inonotus obliquus (higher Basidiomycetes), on the proliferation of human neurogliocytoma cells. Int J Med Mushrooms. 2014;16(1):29-36.
- ^ Mishra SK, Kang JH, Kim DK, Oh SH, Kim MK. Orally administered aqueous extract of Inonotus obliquus ameliorates acute inflammation in dextran sulfate sodium (DSS)-induced colitis in mice. J Ethnopharmacol. 2012 Sep 28;143(2):524-32. doi: 10.1016/j.jep.2012.07.008 Epub 2012 Jul 20.
- ^ Giridharan VV, Thandavarayan RA, Konishi T. Amelioration of scopolamine induced cognitive dysfunction and oxidative stress by Inonotus obliquus - a medicinal mushroom. Food Funct. 2011 Jun;2(6):320-7. doi:10.1039/c1fo10037h. Epub 2011 Jun 6.
- ^ Najafzadeh M, Reynolds PD, Baumgartner A, Jerwood D, Anderson D. Chaga mushroom extract inhibits oxidative DNA damage in lymphocytes of patients with inflammatory bowel disease. Biofactors. 2007;31(3-4):191-200.