タモギタケ
タモギタケ(楡木茸[2]・楡茸[3][4]、学名: Pleurotus citrinopileatus)はヒラタケ科ヒラタケ属のキノコ(菌類)。食用キノコの一つで、鮮やかな黄色の傘と柄に沿って長く伸びるヒダが特徴。ニレの倒木などに生える。和名の由来は、「タモ」とよばれるハルニレの切り株や倒木に発生することによる[4]。別名「ゴールデンシメジ」や[2]、英名「ゴールデンオイスターマッシュルーム」[5]ともよばれる。ニレタケやタモキノコの地方名でも呼ばれる[6][7]。
タモギタケ | |||||||||||||||||||||||||||
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分類 | |||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||
Pleurotus citrinopileatus Singer | |||||||||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||||||||
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和名 | |||||||||||||||||||||||||||
タモギタケ | |||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||
golden oyster mushroom |
生態と分布
編集ロシア極東地方(シベリア)、ヨーロッパ、北アメリカ、中国東北部、日本(本州北部以北)などに自生する[1][3][8]。やや北方系のキノコで、北海道では一般的だが、本州以南では発生量が少なく[9]、関東の平地や関西では見られない[3][注 1]。これはタモギタケが発生するハルニレの分布域が北方や標高が高いとことにあることによる[4]。
木材腐朽菌[6][3]。野生下では 初夏から初秋にかけて、ニレ(アカダモ)、ヤチダモ、ミズナラ(ナラ)、カエデ、カンバ類などの広葉樹の根元、切り株、倒木、立ち枯れ木に株状に群生する[7][3][9][1]。和名の「タモ」とはニレの別名(地方名)のことで、ハルニレやヤチダモの倒木から発生することが多い[9]。
形態
編集子実体は傘と柄からなる。傘は2 - 10センチメートル (cm) 程度で、色は明るい黄色から淡黄色[7]。はじめ丸山形から半円形で、のちに扁平になり、成菌では漏斗状になる[7]。丸みがあって中央部がへそのように窪むタイプと、漏斗形に深く窪むタイプがある[9]。表面は平滑[3]。傘の上面は粘性がなく、滑らかである[1]。傘下面のヒダは白色でのちに多少黄色味を帯び、間隔がやや粗く、柄に沿って長く下へ垂生する[7][3][9]。
柄は円柱状で表面色は白色かやや黄色[8]、しばしば曲がっており、長さは2 - 5 cm[7]、太さは0.5 - 1.5 cm程度[1]。ツバやツボを欠く[6]。基部はキノコ同士が合着あるいは分岐して株状となる[3][9]。一株の大きさは径15 cm、高さ10 cmほどになる[6]。肉は白色で、独特の穀粉臭がある[3][9]。
担子胞子は、6 - 9 × 3 - 3.5マイクロメートル (μm) の狭楕円状で、平滑かつ透明のデンプン質であり、非アミロイド性である[1]。胞子紋は白色[1]。
学名、類似種
編集タモギタケの学名は Pleurotus cornucopiae var. citrinopileatus のほか、シノニムに Pleurotus citrinopileatus などが存在し、いずれも citrinopileatus の語句が使われている。
タモギタケと Pleurotus cornucopiae(和名:シロノタモギタケモドキ)は非常に類似しており、研究者によってはタモギタケを Pleurotus cornucopiae の変種と考えている[10]。学名のうち Pleurotus cornucopiae var. citrinopileatus では Pleurotus cornucopiae の変種として扱っている。
食用
編集一般に木材から生えるキノコは、落葉分解菌よりも味が良い傾向があるが、本種タモギタケも美味で、栽培品も商品化されている[3]。日本では北海道で一般的な食用キノコとして知名度は高く[9]、夏に採集できる優秀な食用キノコとして親しまれている[9]。近年では栽培品が「ゴールデンシメジ」の名で流通している[9]。
料理は万能で、洋食ではパスタやオムレツ、グラタンなど、和食ではすき焼き、鍋物、味噌汁、けんちん汁、すまし汁、鉄板焼き、炒め物の具として用いる[2][11][7]。味はクセがなくさっぱりした風味で[11]。肉は生では脆く、茹でると肉質に弾力が出て歯切れがよくなるが[11]、美しい黄色は熱を通すと白灰褐色になってしまう[3][6]。独特の香りが強く、人によっては好き嫌いが分かれる[6]。野生のものは紛らわしい毒キノコが存在しないので、キノコ狩りの対象として人気がある。
中国や台湾の中南部でも、「珊瑚菇」 (shānhúgū) と称して栽培されている。中国での別名には「金頂蘑」、「楡黄蘑」、「玉皇蘑」などが、台湾での別名には「玉米菇」がある。中国や台湾では炒め物にすることが多いが、スープや鍋物の具にもされる。台湾ではエリンギの塩焼きを主力商品とする夜店の屋台で、塩焼きや天ぷらにして併売することも多い。ロシア極東ではiI'makと呼ばれており、食用種として人気な種のひとつである。
タモギタケは広く栽培されており、原木栽培も可能であるが通常、製粉クズ、米ぬか、わら、おがくずなどの培地で栽培される。ヒラタケ属は最も栽培の一般的な種であり、とりわけ中国では、栽培の簡易性と100gの培地から50~70gのキノコが取れ、たんぱく質を多く含むなどの理由で多く栽培される。
主な産地
編集日本では北海道の南幌町での栽培が盛んで、愛別町や東北地方などで生産されている。台湾では中西部の彰化県、南投県などで生産されている。
成分
編集タモギタケにはダシの元となる旨味成分である 5’グアニル酸、遊離アミノ酸であるアスパラギン酸、グルタミン酸、アラニンなどがバランスよく含まれている。タモギタケのエキスは血糖低下効果から研究されており、高血糖のラットで血糖値を減少させている。脂肪減少薬品の原料としても研究されており、タモギタケと関連するヒラタケ類はコレステロール低下物質のロバスタチンを含むことが判明している。その他にも、血圧上昇抑制作用や抗腫瘍作用などがあるとの報告がある[12]。
タモギタケのエタノール抽出物にはグルコシルセラミド(セラミド)が含まれており、皮膚の保湿に関する研究(抗アトピー)や腸炎(特に潰瘍性大腸炎やクローン病など)に関するマウス実験等の研究報告がある[13][14]。なおタモギタケ由来のグルコシルセラミドには特有の二重結合があり、その機能はまだ解明されていない[15]。
またタモギタケにはエルゴチオネインが豊富に含まれており、記憶力や注意力の維持向上、認知症やアルツハイマー病の予防効果が期待されている[16]。株式会社スリービーによって生産された独自品種である北海道産のタモギタケ由来(品種:えぞの霞晴れ33号)のエルゴチオネインを1日あたり5 mg 含有したタモギタケエキスが2021年に機能性表示食品として受理された[17]。
エルゴチオネインの研究は東洋大学、株式会社スリービー(北海道)、株式会社エル・エスコーポレーション、金沢大学等が進めている。タモギタケの生産者としては北海道南幌町のスリービーなどが栽培等を行っている。
出典
編集注釈
編集出典
編集- ^ a b c d e f g 前川二太郎 編著 2021, p. 38.
- ^ a b c 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編『かしこく選ぶ・おいしく食べる 野菜まるごと事典』成美堂出版、2012年7月10日、161頁。ISBN 978-4-415-30997-2。
- ^ a b c d e f g h i j k 吹春俊光 2010, p. 14.
- ^ a b c 大作晃一 2015, pp. 82–83.
- ^ “脳の神経細胞を増やすと話題の成分「エルゴチオネイン」とは?”. @DIMEアットダイム. 小学館 (2022年10月11日). 2023年1月17日閲覧。
- ^ a b c d e f g 小宮山勝司 2000, p. 92–93.
- ^ a b c d e f g 瀬畑雄三 監修 2006, p. 82.
- ^ a b 北隆館 編 1993, p. 94.
- ^ a b c d e f g h i j 新井文彦・保坂健太郎 2022, pp. 16–17.
- ^ 菌蕈研究所研究報告 (28), p143-150, 1990-10 日本きのこセンター菌蕈研究所
- ^ a b c 講談社 編『からだにやさしい旬の食材 野菜の本』講談社、2013年5月13日、213頁。ISBN 978-4-06-218342-0。
- ^ 経済産業省北海道経済産業局 北海道バイオ産業 クラスター・フォーラム
- ^ Polar Lipid Fraction from Golden Oyster Mushrooms (Pleurotus citrinopileatus) Suppresses Colon Injuries from Inflammatory Stresses in vivo and in vitro Journal of Oleo Science
- ^ Effects of Sphingolipid Fractions from Golden Oyster Mushroom (Pleurotus citrinopileatus) on Apoptosis Induced by Inflammatory Stress in an Intestinal Tract in vitro Model Journal of Oleo Science
- ^ https://www.ls-corporation.co.jp/service/material/ceramide.php 北海道タモギセラミド
- ^ 渡邉憲和 ほか「健常者および軽度認知障害者に対するエルゴチオネイン含有食品の認知機能改善効果」『薬理と治療』第48巻第4号、2020年、685-697頁。 ( 要購読契約)
- ^ 記憶の番人(機能性表示食品)
参考文献
編集- 大作晃一『きのこの呼び名事典』世界文化社、2015年9月10日。ISBN 978-4-418-15413-5。
- 瀬畑雄三 監修、家の光協会 編『名人が教える きのこの採り方・食べ方』家の光協会、2006年9月1日。ISBN 4-259-56162-6。
- 小宮山勝司『きのこ』山と渓谷社〈ヤマケイポケットガイド 15〉、2000年3月20日。ISBN 4-635-06225-2。
- 吹春俊光『おいしいきのこ 毒きのこ』大作晃一(写真)、主婦の友社、2010年9月30日。ISBN 978-4-07-273560-2。
- 北隆館 編『きのこ』北隆館〈Field selection 6〉、1993年11月15日。ISBN 4-8326-0237-3。
- 保坂健太郎 監修、新井文彦 著『あした出会えるきのこ100』山と渓谷社〈散歩道の図鑑〉、2022年7月5日。ISBN 978-4-635-06299-2。
- 前川二太郎 編著『新分類 キノコ図鑑:スタンダード版』北隆館、2021年7月10日。ISBN 978-4-8326-0747-7。
外部リンク
編集- 「タモギタケで記憶の達人に!」 白澤卓二 監修(笠倉出版)
- 株式会社スリービー(たもぎ茸,エルゴチオネイン生産者)
- エルゴチオネイン高含有タモギタケ濃縮エキス
- エルゴチオネイン含有タモギタケエキス
- tamogitake.com
- 北海道特用林産統計