ギャル文字

テキスト中の文字を複数の細かい要素に分解し、それらを外観の似た別の文字素片で置き換えて表現する手法、およびこの手法で記述された文字テキスト

ギャル文字(ギャルもじ)とは、携帯電話メールなどで文字を分解・変形させて文字を表現する遊び・手法。またそれらの文字そのものの呼称。 「へた文字」とも呼ばれる。

概要

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ギャル文字は、平仮名片仮名漢字をいくつかのパーツに分解し(漢字なら(へん)と(つくり)に分けるなど)、必要であれば似たような形の別の文字・記号に置き換えることによって作成する[1]。例えば平仮名の「い」を左右に分離してから左側を「し」、右側を「ゝ」にそれぞれ置き換えれば、「しゝ」となる。漢字の場合は、特に置き換えを行わずに分解するだけでいいこともある(「終」を「糸冬」とするなど)。それ以上分離できないような文字の場合は、分解を行わずにその文字自体を似た別の字・記号に置き換えるだけにする(例えば「へ」を「∧」にするなど)。必要であればアルファベットギリシャ文字などを用いることもある。このような表記をとることによって、ギャル文字は「可愛くて、手作りのあったかい感じ」を表現することができる。また、ギャル文字の一部にはインターネットスラングを応用したものが存在する。

2002年平成14年)から2003年(平成15年)頃に普及し始め[2][3]実業之日本社の石川正尚がギャル文字と名づけた[4]マスメディアが取り上げたことによって広く認知されるようになったが、2005年(平成17年)頃になると流行は途絶え、あまり話題にのぼらなくなった[5]

ギャル文字を使用するのは主に若年女性(女子中学生や女子高生)であり[2]、2005年当時女子高生の8割程度はギャル文字が入力できなくても読むことはできるとされた[6]男子はほとんど使用しないので、ギャル文字を愛用する女子も男友達にメールを送るときには通常の書き方にする[2]。高校を卒業すると使わなくなることが多く[2]、中学から高校ぐらいまでの女性の間でだけ使用されるという意味で、特定の社会的文化的集団(言語学でいう位相)の内部でのみ通用する「位相文字」の一種と考えられる[7]

彼女らがギャル文字を使用する動機としては、会話内容が(を含む)他人にばれないという暗号的な側面のほか、大人には分からない仲間内だけの世界を作ることができるということ、文字遊び(文字の創作)、流行の創作[8] 自体が楽しいといったことが挙げられる[9]。さらに、ギャル文字によるメールは通常よりも作成に時間と手間がかかるため、それを相手に送信することによって「これだけ手間のかかるメールを用意するぐらいわたしはあなたのことを大切に思っている」ということをメタ・メッセージとして言外に伝える効果もある[10]

毎日コミュニケーションズ2010年(平成22年)に20歳代を対象にインターネット上で行った調査によれば、ギャル文字が「好き」と答えた人が2 %であるのに対し、「嫌い」と答えた人が61 %であり、一般にはあまり好意的に受け入れられなかったことがわかる[11]

ギャル文字はまた、一部カラオケ機器の歌詞表示にも採用された[12]

ルーツや関連する文化

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漢字を複数の要素に分解するという発想は『三国志』に登場するエピソードなどまでさかのぼることができ[13]「只」のことを「ロハ」というような古くからある分字の手法と同じ感覚であるともいえる[14]。また、文学研究者の小野恭靖は、ギャル文字の発想の源流として、江戸時代末期の「当世風流文字くどき通人ことば」という瓦版に書かれたとんち[注 1] に端を発する鈍字という言葉遊びを挙げている[3][15]

ライターの速水健朗は、1970年代から1980年代にかけて日本の若年女性の間で流行した変体少女文字とギャル文字の類似性を指摘している。それによると両者は、既存の文字の形状を崩した独特の記号を使って連絡を取り合う仲間内での帰属意識を再確認するという、他者との接続自体を志向するコミュニケーション様式[注 2] に基づいたものだという[16]作家藤井青銅も変体少女文字の雰囲気を携帯電話で再現したものと指摘しており[17]日本語学者笹原宏之も変体少女文字に後続する長体文字(ヘタウマ文字)をJISコード内で再現しようとした試みがギャル文字といえるとしている[14]教育学者藤川大祐は、前述の変体少女文字や1990年代に流行したノッポ文字・ヘタウマ字のほかにポケベルを使ったベル番遊び(数字列に語呂合わせによる意味を与えるもの)といったものの延長線上にギャル文字を位置づけ、自身の周囲の価値観に合わせて振舞おうとする若い世代に見られる同調圧力によるものとみている[18]評論家荻上チキは、変体少女文字やギャル文字を、学校空間で少女たちが色ペン・シールプリクラ帳などの文房具装飾に熱心になるのと同様の「かわいい」ものへの欲望として位置づけている[19]

中国では、カウンターカルチャー的な非主流文化のひとつとして、ギャル文字と類似した火星文がある。火星文では、中国語の文章において漢字を同じ音の別の漢字や他言語の文字・記号などで代用して表記するもので、百度贴吧(日本でいう2ちゃんねるのような雰囲気の巨大掲示板群)でしばしば使用されている[20]

  • キょぅゎ、1囚τ"〒〒カヽ世τ±ぃ。
→きょうは、1人で行かせて下さい。
  • ぉレ£∋ぅ⊇〃±〃レヽма£
→おはようございます
  • 尢(≠ナょσっ(ま。σ古日寺言十 よ`し〃ぃ±ωσ日寺言十
→大きなのっぽの古時計 おじいさんの時計 (大きな古時計の歌詞)

文字の例

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ひらがな・カタカナ

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本来の文字ギャル文字
レヽレ丶レ)レ`L丶L1レl
カゝカ丶カヽヵゝカ`カゞ
ヵゞ
カ゛力゛
(キ(≠L≠
(ナレ†レナ|ナl+Iナ
=]
±(十L+(+、ナ
ιU
フ、
ξζ`ノ丶/ヽ丿
ナ=+=†ニナニ十こ†こナ⊇T=十=
ろ+
ツ【っ】
τz
`⊂`c
ナょ十ょ†ょナg†ょゝ
(ニ|=L=I=(⊇レこ(二レニ
йu
йё
/丿σ⊂n
'`l£(£ノ|ノlレ£レよ
ハ〃
ハo
ヒ〃
ヒo
,ζ,
フ〃
フo
ヘ〃
ヘo
レま
ホ〃
ホo
мамα
£′
×xχ
м○мσ=し=L
чo
яаζb`
L|l)レ」レ)┗』└丿v)レ」丶)
lレ」レ|レノレ/レ
яё
зЗ
щoε
ωwhソ
濁点¨

半濁点
o
まじまぢ
てゆうかッ塚
〜て言っていて〜ッ乙ゆウねぇ

漢字

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本来の文字ギャル文字
王見
禾斗
禾ム
ロ十
テ殳
イ歹リ
イ廴聿
ナ月
タ。
⊃i⊂ラ|<
夲(夲の字は本の異体字
來(來の字は来の旧字体)
ネ申
走召
木木
木交
糸色
糸及
金失金矢
木市
イ子
愛してる愛ιτゑ愛Uτゑ
仲良しょU夜歹ヒ
言身寸
糸冬
文寸
便所イ更戸斤
桂歌丸木圭哥欠丈乙
八土
四方八方4ほぅ圀
仲良し仲仔
Θ
Φ
チート
テテ〒〒
給料糸合米斗
就活京尤シ舌
イ士
イ木
ネ兄
言売
谷欠
原頁
禾斗
月月
言吾
言忍
糸売
使イ吏
タヒ
ナェ
E卩

英字

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本来の文字ギャル文字
AДдÅ
Bвь
C
D
Eё
F
G⊂┐C┐
Hн
I
J
K|くκ
L
Mヘヘм
NиИ
Oο
Pρ
QO、
RγяЯ
S
Tт
Uц
V
WшщШЩ
Xχ×
YчЧ
Z

脚注

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注釈

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  1. ^ 例えば「いちしのとうはち」という問いから、「一」「し」「の」を合成して「あ」、「十」「八」を合成して「ホ」をつくり、「あホ」という答えを導く、というもの。
  2. ^ 社会学者北田暁大はこれをつながりの社会性と呼んでいる。

出典

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  1. ^ 以下、この段落は『ギャル文字へた文字公式BOOK』4-6頁および巻末の表より。
  2. ^ a b c d 『ことばと文字の遊園地』82頁。
  3. ^ a b 小野恭靖文字遊びの今昔—鈍字とギャル文字を隔てるもの—』Mobile Society Review 未来心理 13号掲載(2008年9月24日)
  4. ^ 『新日本語の現場 第3集』220-221頁。
  5. ^ 『ことばと文字の遊園地』86頁。
  6. ^ 「変体少女文字から携帯ギャル文字へ」『書きたい、書けない、「書く」の壁』112頁。
  7. ^ 『日本の漢字』96-103頁。
  8. ^ 『日本の漢字』103頁。
  9. ^ 上原永護「事例18 ギャル文字」『子どもたちのインターネット事件―親子で学ぶ情報モラル』東京書籍、2006年、69頁。ISBN 978-4487801213
  10. ^ 土井隆義 『友だち地獄―「空気を読む」世代のサバイバル』 筑摩書房、2008年、145頁。ISBN 978-4480064165
  11. ^ 大不評? 「ギャル文字」は嫌われている!? (2010/10/29)|コブス横丁|COBSキャリア 20代の転職「前」コラム&コミュニティサイト
  12. ^ カラオケの歌詞をギャル文字で DAM‐ITmediaニュース2004年1月13日付(2010年5月18日閲覧)
  13. ^ 稲葉茂勝 『世界史を変えた「暗号」の謎』 青春出版社、2007年、179-180頁。ISBN 978-4413093798。忍者文字にもこの手法がみられる。
  14. ^ a b 『日本の漢字』102頁。
  15. ^ 『ことばと文字の遊園地』84-85頁。
  16. ^ 速水健朗 『ケータイ小説的。――“再ヤンキー化”時代の少女たち』 原書房、2008年、193頁・194-196頁。ISBN 978-4562041633
  17. ^ 「変体少女文字から携帯ギャル文字へ」『書きたい、書けない、「書く」の壁』110頁。
  18. ^ 藤川大祐 『ケータイ世界の子どもたち』 講談社、2008年、102-105頁。ISBN 978-4062879446
  19. ^ 荻上チキ『セックスメディア30年史欲望の革命児たち』筑摩書房、2011年、50-52頁。ISBN 978-4480066060
  20. ^ 安田峰俊 『中国人の本音 中華ネット掲示板を読んでみた』 講談社、2010年、16-19頁。ISBN 978-4062161930

参考文献

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関連項目

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外部リンク

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