エゴノキ
エゴノキ(えごの木[9]、学名: Styrax japonica)とはエゴノキ科エゴノキ属の落葉小高木である。
エゴノキ | ||||||||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
エゴノキ(横浜市・2006年5月)
| ||||||||||||||||||||||||||||||
分類(APG IV) | ||||||||||||||||||||||||||||||
| ||||||||||||||||||||||||||||||
学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Styrax japonicus Siebold et Zucc. (1846)[1] | ||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||||||||
| ||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
エゴノキ(えごの木)、 ロクロギ、チシャノキ、 オオバエゴノキ、シマエゴノキ、 ホソバエゴノキ、ヒメエゴノキ | ||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Japanese snowbell |
名称
編集和名「エゴノキ」は、果実を口に入れると喉や舌を刺激してえぐい(えごい)ことに由来する[10][11]。別名チシャノキ[12][10]、ロクロギ[10]、チサノキなどとも呼ばれ[13]、歌舞伎の演題『伽羅先代萩』に登場するちさの木(萵苣の木)はこれである。
「齊墩果」が漢名とされる場合があるが、これは本来はオリーブの漢名である[14]。ロクロギとも呼ばれる[14][13]。現代中国語では「野茉莉」と呼ぶ[15]。
分布・生育地
編集日本、朝鮮半島、中国、フィリピン北部の東アジア地域に分布し、日本では北海道(日高地方)、本州、四国、九州、沖縄まで分布する[12]。丘陵地や山地[9]、山野や山麓の雑木林に多く見られる[10]。植栽もされる[9]。
特徴
編集落葉広葉樹の高木で、高さは7 - 15メートル (m) ほどになる[10]。樹皮は暗紫褐色から暗灰褐色で、ほぼ滑らかできめが細かい[10][9]。枝はジグザグ状に伸びて、一年枝は細く無毛または星状毛が残る[9]。老木は樹皮に浅い裂け目が入る[9]。葉は互生し、両端のとがった長楕円形で長さ4.5 - 8センチメートル (cm) [10]。若芽が伸びだしたころは、全体に褐色の星状毛に覆われている[9]。
花期は5 - 6月ごろ[10]。短い側枝の先端に、房状に白い花を下向きに1 - 6個つけ[10]、芳香がある。花の直径は約25ミリメートル (mm) 、花冠は先端が深く5裂して[10]、大きくは開かずややつぼみ加減で咲く。雄蕊は10本[10]。品種により淡紅色の花をつける。
果期は10月[10]。果実は長さ10 - 13 mmの卵球形で灰白色をしており[10]、大きい種子を1個含む。熟すと果皮は不規則に破れて種子が露出する[12]。冬場は、果皮が取れて種子だけが残った果実をよく見かける[9]。果皮に有毒なエゴサポニンを多く含む[10]。ピーク時には果実にも同量のサポニンを蓄えるが、11月を過ぎると急激に減少する[11]。エゴサポニンは胃や喉の粘膜に炎症を起こし、溶血作用もある。
冬芽は互生し、裸芽で褐色の毛に覆われており、副芽が縦に1 - 2個つく[9]。葉痕は半円形で、維管束痕が1個ある[9]。
利用
編集庭木などとして栽培もするほか、緻密で粘り気のある材を将棋のこまや和傘のロクロ[16][13]などの素材とされロクロギの別名はこれに由来する。 また、蜜源植物としても利用される場合がある[17]。
園芸種としては桃色花の品種「ピンクチャイム」や枝がしなる「シダレエゴノキ」などの改良種もある。また盆栽としても楽しまれており中には手のひらサイズのミニ盆栽もある。
昔は若い果実を石鹸と同じように洗浄剤として洗濯などに用いた[12][10][13]。またサポニンには魚毒性があるので地方によっては魚の捕獲に使ったといわれる[12][10][13]。しかし、同様に毒流し漁に用いられたと言われるサンショウの樹皮との比較実験からエゴノキのサポニンの魚毒性の強さは漁に使えるほどのものではないのではないかと疑問視する見解もある[要出典]。
動物との関係
編集ヒゲナガゾウムシ科の甲虫・エゴヒゲナガゾウムシ(ウシヅラカミキリ) Exechesops leucopis(Jordan, 1928)が果実に穴を開けて産卵し幼虫が種子の内部を食べて成長するが落下種子内で休眠中の成熟幼虫を「ちしゃの虫」と呼び1935年ごろからウグイ、オイカワなどの川釣りの釣り餌として流通している。この昆虫の発生が見られる地点は散在的でありかなり稀であるが、発生地の種子の寄生率は70%にも及ぶという。
新梢にはしばしば菊花状の構造が認められるが、これはエゴノネコアシと呼ばれる虫こぶである。イネ科のアシボソを一次寄主としエゴノキとの間で寄主転換を行うアブラムシ、エゴノネコアシアブラムシ Ceratovacuna nekoashi(Sasaki, 1907)が春に二次寄主であるエゴノキに移動してきて新芽を変形させてこれを形成する。
子供が、エゴノキの花を「セッケン花」「シャボン花」などと称し、花を多数摘み、それを手で揉んで泡立てて遊ぶことがある。この行為自体に危険はないが、口に入れると有害なのでその点に注意を要する。泡立てた手を水で洗い流せば特に害は無いが、きちんと洗い流さずに菓子類やオニギリなどを手づかみで食べるなどすると有害物質であるエゴサポニンなどを摂取しかねない危険がある。
脚注
編集- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Styrax japonicus Siebold et Zucc. エゴノキ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月25日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Styrax japonicus Siebold et Zucc. f. angustifolius (Koidz.) Sugim. エゴノキ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月25日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Styrax japonicus Siebold et Zucc. var. jippei-kawamurae (Yanagita) H.Hara エゴノキ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月25日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Styrax japonicus Siebold et Zucc. f. zigzag (Koidz.) Sugim. エゴノキ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月25日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Styrax japonicus Siebold et Zucc. f. rubicalyx Satomi エゴノキ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月25日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Styrax japonicus Siebold et Zucc. f. parviflorus Y.Kimura エゴノキ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月25日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Styrax japonicus Siebold et Zucc. f. jippei-kawamurae (Yanagita) T.Yamaz. エゴノキ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月25日閲覧。
- ^ POWO (2019). Plants of the World Online. Facilitated by the Royal Botanic Gardens, Kew. Published on the Internet; http://www.plantsoftheworldonline.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:826818-1 Retrieved 9 May 2020.
- ^ a b c d e f g h i j 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 66.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 西田尚道監修 学習研究社編 2009, p. 60.
- ^ a b 羽根田治『新装版・野外毒本:被害実例から知る日本の危険生物』山と渓谷社 2014年、ISBN 9784635500357 p.142.
- ^ a b c d e 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 194.
- ^ a b c d e 仲野良典 (2013年7月29日). “用途の広いエゴの実”. 京都民報Web. 2020年5月8日閲覧。
- ^ a b 牧野, 富太郎『牧野日本植物圖鑑』北隆館、1940年、223頁 。
- ^ アレン・コーンビス 著、濱谷稔夫 翻訳・監修『木の写真図鑑 完璧版』日本ヴォーグ社、1994年、299頁。ISBN 4-529-02356-7
- ^ “みのひだ写真館:和傘の未来支えたい ロクロ職人に32歳が弟子入り /岐阜”. 毎日新聞. 2020年5月8日閲覧。
- ^ 添田隆典 (2020年5月2日). “<食卓ものがたり>蜂蜜(東京都あきる野市) 魅惑の甘み自然と共に”. 2020年5月8日閲覧。
参考文献
編集- 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、66頁。ISBN 978-4-416-61438-9。
- 西田尚道監修 学習研究社編『日本の樹木』 5巻、学習研究社〈増補改訂 ベストフィールド図鑑〉、2009年8月4日、60頁。ISBN 978-4-05-403844-8。
- 平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、194頁。ISBN 4-522-21557-6。
関連項目
編集外部リンク
編集- エゴノキ:植物雑学辞典 - ウェイバックマシン(2006年9月3日アーカイブ分)