イテリメン語
イテリメン語(英語: Itelmen, ロシア語: ительменский язык)は、古シベリア諸語の一つでカムチャツカ半島西部に住むイテリメン族の固有言語。イテリメンが自称であるが、かつてはカムチャダール語とも呼ばれた。チュクチ・カムチャツカ語族に含められるが、他の言語とは大きく異なり、別語族とする説もある[2]。
イテリメン語 | |
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итэнмэн(Itənmən) | |
話される国 | ロシア |
地域 | コリヤーク管区 |
話者数 | 82人(2010年国勢調査)[1] |
言語系統 |
チュクチ・カムチャツカ語族
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表記体系 | キリル文字 |
言語コード | |
ISO 639-1 |
- |
ISO 639-2 |
mis |
ISO 639-3 |
itl |
消滅危険度評価 | |
Critically endangered (Moseley 2010) |
話者はすでに年配者でコリヤーク管区に住む数十人しかなく、それ以外の人(3千人以上)は専らロシア語を使っている。しかし現地の教育で取り上げられ復活が試みられている。かつてはカムチャツカ東部・西部・南部の3方言があったが、このうち東部語と南部語は19世紀末までに消滅してしまい、今は西部語しか残っていない。また、西部方言は更に北部・南部の2つの下位分類がなされるが、このうち辞書や文法書などの資料は西部語南部方言を取り上げたものが大半であり[3]、学校教育用の刊行物もすべて西部語南部方言に準拠したものとなっている[4]。
カムチャツカ半島には17世紀からロシア人(コサック)が入植し、イテリメン族を圧迫し、また同化したため、イテリメン語とロシア語とのクレオール言語(これがカムチャダールとも呼ばれた)も発達した。現在のイテリメン語も、ロシア語から強い影響を受け、数詞なども借用語を用いている。19世紀からソビエト時代にかけてさらに同化政策が進められ、1930年代には専らロシア語による教育が行われた。この頃にラテン文字を用いてイテリメン語が記されるようになったが、普及しなかった。現在は1986年に制定されたキリル文字(32字)が用いられている。
同語族とされる他言語(破裂音・破擦音には無声音、摩擦音には有声音しかない)に比較すると子音の種類が多く、破裂音・破擦音には放出音系列があり、摩擦音には無声音と有声音の系列がある。母音は5または6種類で、母音調和がある。
文法
編集他のチュクチ・カムチャツカ語族の言語は抱合語(複統合語)で能格言語であるが、イテリメン語については抱合を行わず類型論的には膠着語であると言える[5]。また主語と目的語がすべて同じ語形を取る中立型のアラインメントとなっている[6]。
参考文献
編集- 小野智香子『イテリメン語文法―動詞形態論を中心に―』北海学園大学出版会、2021年3月31日。ISBN 978-4-910236-02-5。
関連文献
編集- 中川裕 監修、小野智香子 他共著『ニューエクスプレス・スペシャル 日本語の隣人たち(CD付)』白水社、2009年。ISBN 978-4-560-08502-8
- 小野智香子; 呉人恵 序文 (2003-03-25). “[Тематический словарь и разговорник северного (седанкинского) диалекта Ительменского языка / Чикако Оно ; предисловие, Мэгуми Курэбито = A lexicon of words and conversation phrases for the Itelmen northern dialect / Chikako Ono ; with preface by Megumi Kurebito]”. イテリメン語北部方言 語彙・会話例文集. 大阪学院大学情報学部. doi:10.15026/75453. ISSN 1346082X 2023年3月29日閲覧。.
脚注
編集外部リンク
編集- The ASJP Database - Wordlist N Itelmen, Wordlist S Itelmen 2015年5月25日閲覧。
- Ethnologue report for Itelmen - エスノローグ 2015年5月25日閲覧。
- WALS Online - Language Itelmen 2015年5月25日閲覧。