未だにリスティング広告の運用手数料が広告費に連動して決まるということに、違和感がある

リスティング広告の運用を代理店に任せている方も多いのではないでしょうか。広告運用代行の手数料(マージン)が広告費と連動する慣習がありますが、運用施策によっては工数や費用対効果も異なるため、はたしてこれが適正なのでしょうか?いくつかのケースを比較しながら、支払う広告手数料が安いのか、相場通りなのか、見直す機会になれば幸いです。

リスティング広告の運用を代行業者に依頼する際の運用手数料が、広告費に連動するということにずっと違和感を感じています。

あと数年でなくなるだろうと10年くらい前から思っていた私の予想は思いっきり外れていまして、まだ一般的な料金体系として生き残っています。

 

この料金体系は、日本でリスティング広告の代理店ビジネスがはじまるときに、当時業界のために尽力された先人たちが議論を尽くして決めたことであり、これにより業界が伸びたと言える事実があります。この先人たちには尊敬の念を抱いています。

 

料率は当時20%と決まりまして、今も相場は20%かというと界隈によりけり違うようで、予算の大きなところではもっと低いのが一般的、そうではないところでは、20%から「下げている」とか、いや「値下げしない」で20%とかいう話も聞きまして、いろいろありますがちょっとした基準にはなっているようです。

 

何%が適正かと考えるとこれも難しい話ですが、それより、そもそも広告費に連動するのが基本であるのはおかしいと思っている私としては、そのおかしな料率からの「値下げ」とか「値下げなし」とかによりさらに歪な状況を生み出していると感じています。

 

 

 

私自身は20%ルールが一般的だったうちに独立しましたが、そのときから20%ルールには囚われずに広告運用の代行業務を続けてきています。これまで、やはり20%ルールじゃ合わないなと思うことばかりでしたし、今後は今まで以上に、20%だろうがそれより低かろうが高かろうが、広告費に連動するということが実態に合わないものになるだろうと考えています。

 

どれだけ合わないかということと、こうあってほしいという考えについて書きます。

だいぶ長いのでお時間のあるときにどうぞ…。

 

(株式会社JADE 小西一星 @isseik )

 

ただし大前提として

広告運用代行業者(広告代理店含む)に広告費を肩代わりしてもらっている場合は、手数料が広告費にある程度は連動して当然でしょう。何%が適正かはさておき。

 

また、個別の広告運用代行業者や、現在日本で発生している取引そのものなどに対して意見するつもりは一切ありません。

相場としてあるのがおかしいと思っている、という話です。

実際20%ルールが合うというケースもありますし。

 

 

 



 

以下、わかりやすく20%ルールをベースとして例を挙げます。

 

例1:手間がかかるのに安いケース

 

月の広告費30万円、運用手数料 6万円で、下記のようなケースの場合、

 

配信カテゴリ

かける広告費

工数

広告運用業者が価値を生み出せる余地

指名系検索

Â¥10,000

低

少ない

一般名詞検索

Â¥200,000

多

ポテンシャルはある

ディスプレイ

Â¥90,000

多

ポテンシャルはある

 

指名系検索は手をかけてもたいして変わらないとして、それ以外は手間をかければそれなりの結果を出せる余地があります。

ただし運用手数料が6万円なので、1ヶ月のうち1日以上手間をかけたら人件費的には赤字でしょうし打ち合わせなんかしたらもう完全に慈善事業か修行の一貫かです。

 

1ヶ月のうち半日くらいの工数をかけるだけで手数料6万円以上の価値といえる結果を出せる場合、その場合は業務として成り立ちますが、半日では無理なケースの場合は成り立ちません。

また、もっと工数をかけて高い価値を生み出せるようであれば10万円、20万円とさらに費用を支払うべきです。

 

なので20%ルールに縛られた場合、関係者全員が幸せになれる条件がなかなかに狭すぎて、結構な割合で誰かが泣いているか、大きな機会損失を発生させているか、どちらかが多いといえるケースです。

では%を上げればいいのかどうかというと、そこはやはりどれだけの価値を生み出せるものなのかということで考えるべきでしょう。

料率で考えては適正料金を算出するのが難しいです。

 

余談ですが、かなりの少額からでも請け負いつつ費用には見合う結果も出す広告運用代行業者さんがいらっしゃいますが、それは、業務フローを工夫して徹底的に効率化した、本当に素晴らしい業者さんです。

どこでもできることではないので、そのクオリティーを他の広告運用代行業者さんにも求めるのはやめてください…。

 

例2:めちゃくちゃ簡単なのに高いケース

 

月の広告費500万円、運用手数料100万円で、下記のようなケースの場合、

 

配信カテゴリ

かける広告費

工数

広告運用業者が価値を生み出せる余地

指名系検索

Â¥4,000,000

中

少ない

リターゲティング

Â¥900,000

中

そう多くはない

一般名詞検索

Â¥100,000

多

少ない。費用が少ないから…

 

もはや広告やる意味あるのかちょっと疑いたくなる例ですが、ある場合とない場合とがあってこれはある場合ということで…。

 

指名系検索でも広告費が多めならちょっと管理工数は上がりますが、とはいえめちゃくちゃ簡単です、たいていの場合。

リターゲティングは運用者の腕がそこそこ影響してきますが、とはいえ広告管理画面でできること以外の範疇の影響がものすごく大きいので、それは広告運用者が生み出した価値なのかというと微妙なところが多いです。昔はかなりあったのですけどね、今は薄めです。

 

一般名詞検索は、少ないとはいえ10万円は使えて、広告運用者の腕次第で効率的には2倍とか3倍とかにもできるような範疇ですが、このくらいの指名系検索ボリュームになるとちょっとSNSで話題になったとかテレビに出たとかいう外的要因によっては全部ほぼなかったことになる程度の絶対数です。

なので相対的に、価値をものすごく生み出しづらいです。

 

これだけでは手間的にも、出せる価値的にも、手数料100万円は高いのではないかなと。

 

さらに、もし何かの影響で指名系検索数とその広告費がさらに200万円上がったらそれだけで手数料が40万円増えます。

広告運用代行業者はほぼ何もしていないのに40万円利益が増えるということになります。

では100万円は高いので下げましょう、40万円くらいでも十分だから8%ですね、とした後に「指名系検索で広告出すのは無駄だから止める」という神の声がおりてきたら運用手数料8万円になって悲劇です。

広告費に連動して考えてはいろいろとおかしなことに。

 

例3:広告運用業者による成果なのか微妙なケース

 

月額広告費1,000万円、運用手数料200万円で、下記のようなケースがあります。

 

配信カテゴリ

かける広告費

自動化度合い

広告運用業者が価値を生み出せる余地

指名系検索

Â¥1,000,000

ほぼ100%

少ない

一般名詞検索

Â¥5,000,000

95%

?

ディスプレイ

Â¥4,000,000

95%

?

 

基本的な設定をして、誰でも思いつくようなキーワードと広告だけセットして、それだけでだいぶコンバージョンが発生するということがあります。

これは一体誰が生んだ価値なんだろう、人間なのか?GoogleとFacebookじゃないのか?Googleにお金支払おうかな、あ、払ってた。

がんばれば人の手を加えて自動化度合いを80%くらいにしつつさらなるコンバージョンも得ることは可能なのですが、お前それ99%システム任せなだけじゃねぇかよでもコンバージョン多いしいいか、ってアカウントも見かけます。

さらに、システムが勘所を見つけると、広告費をどんどん投じていくことがあります。
CPAは保ちながら広告費をさらに100万円使ってCV数を増やせました、という結果にできたのは人のおかげなのか、システムのおかげなのか、さっぱりわかりません。

わかりませんが20%ルールだと人の手に20万円が渡されます。20%ルールなので。

逆も然り。

 

とても判断の難しいケースですが、少なくとも、人が得るべき対価が広告費に連動しているようには見えません。

 

例4:誰による成果なのかなんとも言えないケース

前述のケースとちょっと似ていますがこうなるとさらに今風な、判断の難しいケースになります。

 

前述と同じく月額広告費1,000万円、運用手数料200万円で、中身は下記であるとします。

 

配信カテゴリ

かける広告費

設定、実装した人

指名系検索

Â¥1,000,000

広告運用者

ショッピング広告

Â¥6,000,000

ほぼすべてエンジニア

動的リターゲティング

Â¥3,000,000

ほぼすべてエンジニア

 

内容がこれだけというのもちょっと極端ですが、商品フィードを作り、動的に広告配信する配信手法だけで大半のコンバージョンを得ているので他はあってもなくてもどっちでもいいくらい、というケースはあります。

その動的な広告の実装をしたのはエンジニアさんであって、広告運用者は最後に管理画面上で高度な技術を必要ともしない設定作業をしただけ…、となるとこれで得られるコンバージョンはエンジニアさんによる成果なのではないか、いやそこはほぼ実装作業だけだから一時的な作業費だけだろうという話になるのか、何が正解か難しい話ですが、

 

これで広告費がどーんと上がっていった場合、儲かるのは広告運用代行業者です、20%ルールの場合。

 

例5:広告運用内容は関係なしにめんどくさいケース

2番目に挙げた例のように、100万円もらっていても運用内容がものすごく簡単なのでそこだけみたらほとんどたいしたことをしていないで100万円丸儲けというケースは実際あります。

ただその場合でも、月に6回くらい午前2時に電話がかかってくるとか、23時に「明日までにこういう資料作って」と言われて徹夜で作って送ったけどどうやら見てない、とかいう経験がある方もいるでしょう、あ、はい私です。

そんな案件は800万円くらいはもらいたい気持ちになるので100万円でも安い、といいますか下手したら下請法案件です。

 

というのは極端な例ですが、例えば週1に定例会があるとか日次でレポートを送るとか、まともなコミュニケーションだったとしてもそれが膨大ならそこにコストはかかるので、やっぱり100万円くらいいただきたい案件になりますよね。それでも安いかな。

 

ただしその場合、広告運用手数料100万円、ではなくて、例えば、

 

  • 広告運用手数料:50万円
  • 週1定例会と日次のレポート代:50万円

 

といったように内訳があってしかるべきです(これが適当かは内容によるとして)。

 

内訳がなければ、何をどこまで依頼してもいいのか発注者側もわからないので、意思疎通に問題が生じて当然です。

20%ルールでざっくり100万円、では発注側も「100万円くらい払ってるし今すぐ来てとか言ってもいいだろう」と思うことがあってもおかしくありません。

そこまできっちりしていなくてもいいとは思いますが、費用に何が含まれるかはある程度は明確であるべきです。

 

こうなってくると20%ルールなんかに当てはめられるケースのほうが少ないはず、とも思います。





話がそれますが、手数料が安いのにいろいろやらされていると不満を言う広告運用代行業者の方に、もっともらうように交渉するか、この費用ではできませんて言えばいいじゃないですか、と言うと困られることがよくあります。

そもそも交渉をするという経験をしてきていない方が多いなと。

webサイト制作の商談では、これだけやるからこれだけ費用をください、と見積もるのが当たり前なのに、広告運用は広告費の20%です、と交渉も何もないことが多く、お金の交渉をする経験が少ないのだろうなと。

反対に、安い費用でたくさん依頼してしまっていないか気になるし、もっと費用が必要なら言ってほしい、という広告主さんもいます。しかるべき対価を支払いたい発注者さんは結構います。



交渉するという文化がないのはこの業界だけの話ではないですが、ほんとにみんなもっと素直に話し合えばいいのに、交渉って別に戦うという意味ではないのに、と思います。




運用内容と結果をよく見たら広告費連動の料金体系はそうそう当てはまらない

以上は一部の例ですし、いくらが適正費用なのかは難しい問題ですが、いずれにしても、リスティング広告の運用は一つの形にはまったものではなく、その様々なケースにおいての適正費用があるはずで、広告費に連動するのが最適であるといえるケースはそう多くないはずです。少なくとも業界相場を作り出すほどには。

 

もちろん合うケースもありますし、私自身も結局それがちょうどいいので20%ルールで請け負っているという案件はあります。2件くらいですけど。

良いとか悪いとかじゃなくて、とにかくよくわからないから業界の相場通りの広告代理店にまるっと任せる、もそれはそれでアリですし、別に否定するわけではありません。

多くの案件をこなす広告運用代行業者ならわかりやすい料金ルールがないとやってられないという事情もあるでしょうし。

 

広告費連動の料金体系をやめれば柔軟性が生まれる

例えば2つ目に挙げた例のような場合ですと、webプロモーション全体を見渡してみると、やっぱり認知させてこその商材だなぁ、いや認知してなかった人でもいきなりコンバージョンに至るようなコンテンツもあるべきだよなぁ、明確な成果もなく資産にもならない一般名詞検索の広告を出し続けるのもよくないから自然検索からのトラフィック狙いたいなぁ、などなどとやるべき施策案がたくさん出てくるはずです。

しかし予算もそんなに潤沢にあるわけもなく、ではどこからもってくるか、あれ、この広告運用手数料100万円って、そこにそんなにかけるべきなのか?というとそんなことないかも、と。

指名系検索の広告も、やりようによっては機会損失をできるだけ防ぎつつ費用を抑える方法があることもあります。

するとさらにそこから100万円くらい捻出できるかも知れません。

月に百数十万円あったらできることの幅はかなり広がりますよね。

 

これが、広告費連動の料金ルールだと広告運用代行業者の利益に反することになるので、本当に広告主のためといえる予算全体の最適化ができません。

 

また、例4のような場合、高い費用を支払うべくは広告運用代行業者ではなく、エンジニアです。技術を持つ者にしかできないメンテナンスはあるのでエンジニアさんに気持ち良く仕事してもらえる関係性は構築しておくべきです。

 

反対に、例1でポテンシャルのある場合はもっと支払いましょう、それだけ価値は生まれるので。良い仕事をするスキルはあるのに費用がもらえなくて手がかけられないという広告運用業者は結構います(業者側から交渉すればいいのに、とは思いますが)。



といったように、広告費に連動する料金ルールから外れれば柔軟に費用を割り振ることができ、プロモーション全体を柔軟に進めることにつなげられます。

代行業者側も、適正費用になれば適正な業務に適正に専念できます。

 

いわゆる運用型広告と呼ばれるものは、純広告のように代理店を通さなければ買えないというものではないですし、代行業者としても提供の仕方は自由にできるものです。

今は広告費をベースとした料金体系に囚われず、かつ代理店という立場にこだわらずに、広告主とその状況に合わせて自由な姿勢で業務を請けている業者も多いです。

各広告主企業と代行業者との実態に即した取引がもっとあってしかるべき、と思います。できるのですから。

 

ただし、柔軟性を求めるならお互いにそれ相応の知識、考え方、意思疎通の能力は必要ですので、発注側も完全に不勉強でいいというわけにはいかないという意識はもってもらう必要があります。








私は10年くらい前に独立してすぐ、それまで広告費を月に300万円使っていた案件を固定費で請け負い、次の月で150万円まで下げたけどコンバージョン数はちょっと増やしたということがありました。

もしこれを20%ルールで請け負っていたら手数料60万円が30万円になってしまい、がんばって広告主の利益を上げたのに自分の利益は半分、というなんともWin-Loseな関係となってしまっていたわけです。

 

反対に、20%ルールで必要以上に広告費を使わせてこちらが儲ける、ということも可能でしたがそういうところで儲けるべきではない、と独立直後から考えてそこは徹底するようにしていました。

その後、そのお客様からの紹介、からのお客様の紹介が続きましたし、安い費用でこき使われることもありませんでしたし、高い利益を得ることもできました。

率でいえば30%〜50%になったこともありますし、一番高いので100%になったことはありました。

 

 

顧客を広告予算の大きさで選ばず、

100万円以下のお客様はお断りしますと言わないでいられ、

部下にも広告予算の大小や増減などとは関係なく広告主のためになることに専念してもらえる、

 

そうしていられるのは精神的にも仕事の幅的にもとても良いです。

 

 

とはいえ適正な対価はいくらであるべきかというのは難しい問題です。

ですが基本的にはその業務によって生み出せる価値で決まるべきだろうと思います。

その価値というものはなんであるかは様々な考えがありますが、間違いなく、広告費の額で決まるべきものではありません。



支払う側は提供された価値に対して正しく費用を支払う、受け取る側は生み出せた価値に対する費用のみをいただき価値を作り出すことに専念する、そしてそのための話し合いは淡々とできる、そんな社会であってほしいと思います。