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既存車両に取り付けるだけで「リニアモーターカー」に早変わり! 伊・スタートアップによる磁気浮上式装置の開発でJR東海の進める国家プロジェクト「リニア中央新幹線」は無用の長物に!? 2018.3.3

記事公開日:2018.3.3 テキスト
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( 文・原力雄)

特集 リニア新幹線

 磁気浮上式走行装置を車輪代わりに取り付けるだけで、そのまま既存の線路網を活用しながら時速500キロの「リニアモーターカー」が実現できる――そんな夢のようなニュースが飛び込んできた。開発者であるイタリアのスタートアップ企業・アイロンレヴ(IronLev)社ではすでに特許を取っており、走行試験も行われている。

 現在はまだ研究段階と思われ、本当に実用車両として完成するのかどうかは未知数だ。しかし、2020年の実用化を見込んでおり、高速鉄道の大幅なコストダウンや消費電力量の削減が期待される。こうした中で、兆円単位の建設費がかかる日本のリニア中央新幹線計画が本当にベストな選択なのかどうか、見直しを求める声が出ている。また、柔軟な発想による画期的なブレークスルーが生まれにくい国内の産業政策も改めて疑問視されるなど、さまざまな波紋を広げている。

 アイロンレヴ社のアドリアーノ・ジロット社長は、「既存車両の底部に磁気浮上式装置を設置するだけでよい。パッシヴ磁気浮上の原理により、10キロの重量を持ち上げるのと同じ力で10トンの車両を動かせる。エネルギーは車両を動かすためだけに使われる。これにより、電力消費量が抑えられ、環境保護にもつながる。また、レールの摩耗が減るので、保守管理費も削減できる。さらに将来は音速を上回るスピードも可能」と力説している。

 わざわざ新型車両を開発するという手間が省けるだけではない。ジロット社長によれば、「世界中に張り巡らされた総延長150万キロメートル以上の鉄道をそのまま利用」でき、日本のリニアモーターカーのように新たな専用レールを敷設する必要もないのだ。

▲山梨実験線を走るリニア車両(ウィキペディアより)

 ジロット社長が経営するメカトロニクス部門の別会社、ジロット・プレヴェッティはこのほど、トスカーナ州ピサのスタートアップ・アレステック(Ales Tech)社と提携。アレステック社は真空チューブを利用した輸送システム「ハイパーループ」の開発実績があり、提携によってアイロンレヴ社の技術開発をさらに加速させたい考えだ。

 今後の実用化までには線路の分岐器の管理方法など解決すべき課題はあるものの、アレステック社の創業者であるルーカ・チェザレッティ氏は、「イタリアでは早ければ2020年にも実際に営業運転されているはずだ」と期待を込めた。

 他方、リニア中央新幹線の建設工事で大手ゼネコン4社(鹿島建設、清水建設、大成建設、大林組)が談合したとされる事件で、東京地検特捜部は2018年3月2日、大成建設元常務の大川孝容疑者(67)と鹿島の営業担当部長大沢一郎容疑者(60)を独占禁止法違反の疑いで逮捕した。関係者によると、2人は逮捕容疑を否認しているという。

記事目次

ジャーナリストや市民団体が「既存の鉄道をそのまま使えて軌道建設費がゼロ」と関心!?今後の開発に期待!

 これに対し、日本の研究者らは情報収集に努めている段階だ。アイロンレヴ社の中核技術は特許で公開されず、今のところ学会等で入手できる情報もないという。したがって、現時点では「この技術の現実性や実用性の有無などについて判断できない」(研究関係者)との声も聞かれる。

 リニアモーターカーの動向に詳しいジャーナリストの樫田秀樹氏は、この新技術について「既存の鉄道をそのまま使えて軌道建設費がゼロ」である点に注目する。樫田氏によれば、JR東海が構想するリニア中央新幹線は「従来とはまったく別物の軌道を新設せねばならず、建設費だけで兆単位のコストがかかる。しかもそうやって構築したレールは従来の線路網から孤立し、国内でガラパゴス化せざるを得ない」のが懸念材料となっていた。

 とはいえ、アイロンレヴ社の新技術には幾つかの疑問点があるという。あくまでも、もし実用化された場合には、という仮定の話だが、一つは「システムの中心となる磁気浮上式装置にはどの程度の製造費がかかるか」という点だ。

 また、特許を取っている以上、「鉄道会社はパテント料を払わねばならず、それがどう料金に跳ね返るのか」も重要なポイント。さらに「既存の鉄道を使う際、時速500キロを有人運転できるのか、それともリニア中央新幹線のような無人運転に頼らざるを得ないのか?特にカーブが多い区間ではやはり人の目があった方が良いのではないか」と指摘する。

▲ジャーナリスト樫田秀樹氏(2015年4月13日撮影)

 トータルな感想として、樫田氏は「一つの事業を実施する場合には環境、社会、技術、経済といった側面から総合的な情報を集めて整理し、最も妥当な策を打ち出さねばならない。しかし、JR東海のリニア計画は技術的な側面だけで進んでいるように見受けられる。少なくともアイロンレヴ社のアイデアは完璧かどうかはともかく、多角的な判断がなされていると思った」としている。

 一方、リニア中央新幹線の建設に反対する団体「リニア・市民ネット東京」の懸樋哲夫代表は、イタリア発の新技術について「スピードが倍になれば必要なエネルギーは二乗になるのが科学の常識だ。時速500キロも出しながら従来よりもコストダウンが可能なんて夢みたいな話は簡単には信じられない。しかし、データをちゃんと公開してくれるのなら検証してみたい」と興味を示す。

▲「リニア・市民ネット東京」代表・懸樋哲夫氏(2015年10月4日撮影)

 リニア中央新幹線で採用された超電導方式は、液化ヘリウムを用い、超電導電磁石をマイナス269度以下に冷やして超電導状態を維持するが、電力消費量は現在の新幹線の約4倍とも言われる。また、停車時や低速運転時などには車輪を使って車体を支持する。

 懸樋代表は「イタリアの新技術は車輪を取り外して装置に置き換えるというから、日本の超電導リニアとは方式が違うようだ」と推測する。同団体は2009年3月、「リニア・市民ネット山梨」(川村晃生代表)と同時に発足。リニア新幹線によるエネルギーの浪費や自然破壊、電磁波問題などを理由に反対運動を展開しており、「現在の新幹線でも時速500キロは技術的に可能と言われるのに、あえてリニアにする必要性はどこにあるのか?」(懸樋代表)と訴えている。

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