PaaSがユーザー企業にもたらす価値は何か。「PaaS カンファレンス2014」(インプレス主催、11月12日開催)において、ユーザー企業代表としてJFEシステムズ、積水化学グループ、日産自動車、みずほ銀行の4社からITを牽引するリーダー4人が登壇したパネルディスカッションの内容を紹介する。
パネルディスカッションのモデレータを務めた田口潤(IT Leaders編集主幹)は冒頭、「日本ではこれまで、PaaSや開発環境についてはあまり語られてこなかった」とした上で、「日本の企業の現場では情報システムの開発環境がどのような状況に置かれているのか」と、パネラー各社の現状について改めて尋ねた。
企業情報システムの基盤として導入が進むPaaS
JFEスチールは、旧NKKと川崎製鉄の経営統合に合わせて基幹システムを再構築した際、独自のJavaアプリケーションフレームワークを確立し、スクラッチで開発に取り組んだ。その一方、顧客に近い営業系や顧客管理系のシステムについては、Salesforce .comの基盤をベースとしたPaaSを活用して開発にあたっている。
JFEスチールのIT担当推進部長として基幹システムの統合をリードし、現在、情報子会社のJFEシステムズで執行役員を務める原田敬太氏は、システム開発の切り分けについて、「変化が少ない製造プロセスの領域を扱う基幹系のシステムについては、データをきちんとモデリングし、スクラッチで構築を進めた。一方、顧客に近く変化の激しい営業系のシステムについては柔軟で迅速な開発を期待できるPaaSを活用している」と説明する。
積水化学グループでは、ビジネスに直結したシステムは外注せず自社で開発する方針を徹底している。例えば、住宅事業を担うセキスイハイムでは、人工知能を使ってユニット住宅の部品を自由に選択できるフリー設計のシステムをPrologベースで自社開発し、現在までに3万棟の住宅販売に貢献してきた。
また、情報系の電子メールやグループウェアについてもオープンソース・ベースで自社開発している。これを最近、PHPの開発環境も含めてすべてAmazonのクラウド上に移行し、すでにプライベートPaaS環境として運用しているという。
積水化学工業の情報システムグループ長を務め、積水化学グループ全体のITを統括する寺嶋一郎氏は、自社開発について、「特に、ビジネスに直結したシステムを、外注業者に丸投げするわけにはいかない。ビジネスを熟知した社員と緊密に協力し合いながら社内で仕様書を策定し開発を進めることが絶対に必要だ」と強調する。
日産自動車では、社内のシステム開発リソースを有効活用するために、業務をきちんと精査した上で外注も試みている。その一方で、次世代カーの開発やセンサー情報の活用など、新しいビジネス領域を支えるシステムについては、自社での開発にこだわっている。同社では、そうした先進システムの自社開発を支援するために、インドにグローバルなシステム開発センターを設置し、開発環境の整備に取り組む。
日産自動車のグローバルIT本部でITインフラサービス部とエンタープライスアーキテクチャー部の部長を兼務する木附敏氏は、「新しいビジネスにかかわるシステムは、試行錯誤の過程で新たなアイデアや価値を創出する可能性があるため、社内で開発するのが望ましい。一方、情報システムを外注する際には、対象となる業務のプロセスをきちんと標準化し、シンプル化しておく必要がある」と経験から導いたポイントを説明する。
みずほ銀行では、旧3行の基幹システムの統合を目指す次期勘定系システムの構築を進めている。同システムは、SOA(サービス指向アーキテクチャー)をベースにコンポーネント化が図られる。すでに要件定義はすべて、みずほ銀行ユーザー側で実施済みであり、現在は開発作業をマルチベンダー体制で進めている。
みずほ銀行は、金融機関としていち早く、Salesforce.comのクラウドサービスを活用したPaaSベースの顧客管理・営業支援システムを導入している。
みずほ銀行の情報システムの構築を担当する、みずほ情報総研で事業企画部長を務める宮田隆司氏は、同行でのシステム開発の取り組みについて、次のように語る。
「次期勘定系システムは、マルチベンダー体制で開発を進めているが、保守に関しては、みずほ銀行自身が行うことになっており、ユーザーとして開発にも深く関与する必要がある。一方、Salesforceの導入に関しては、あくまでもツールを入れるのが目的ではなく、開発の迅速性や柔軟性などの要件に合致したために導入を決定した。結果として、満足できる成果が得られ、バックログも解消することができた」
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