[市場動向]

イノベーションはデータサイエンティストが起こす!

データビジネス創造のススメ[人材・キャリア編]

2014年8月27日(水)データビジネス創造フォーラム

データに基づくビジネスの推進役として期待されているのが「データサイエンティスト」である。しかし、職種やスキルの定義があいまいなままに言葉だけが先行し、その人材像や、専門家としてのキャリアは不鮮明なのが現状だ。データ活用が重要とのかけ声が高まる一方で、その人材像に関する議論は決して広がっているとは言えない。委員の中で、早くからデータ分析サービス会社を立ち上げ、データサイエンティストの育成にも取り組むブレインパッド代表取締役社長の草野隆史委員に、アクティブラーニング代表取締役社長CEOの羽根拓也委員とインプレスIT Leaders編集部の志度昌宏副委員長が、最新動向などを聞いた。

写真1:データサイエンティストのスキルとキャリアに関する「データビジネス創造フォーラム」実行委員による座談会の様子写真1:データサイエンティストのスキルとキャリアに関する「データビジネス創造フォーラム」実行委員による座談会の様子

羽根 ブレインパッドは、ビッグデータといったキーワードが広く認知される以前からデータ分析に携わってきました。

草野 ブレインパッドは2004年3月に、データ分析業務を企業から受託する会社としてスタートしました。その後、データ分析関連サービスとしてWebのレコメンデーションエンジンやリスティング広告の最適化ツールなども提供し、2011年9月には東証マザーズに上場しました。2013年7月からは、東証一部に市場変更しています。

写真2:ブレインパッド代表取締役社長の草野 隆史 委員写真2:ブレインパッド代表取締役社長の草野 隆史 委員

 ビッグデータという言葉が一般化してきてからは、それまでの経験や技術力を生かして、大量データの蓄積と分析用PaaS(Platform as a Service)の「Cloudstock」や自然言語処理エンジンの「Semantic Finder」も提供しています。単に受託のデータ分析だけでなく、データの蓄積から、分析、分析結果に基づく施策の提案・実行、実行結果の検証、それらに必要なシステム構築など、データに基づくビジネスの全工程に向けて各種サービスを提供しています。

 人材育成の面では、2013年7月に、データサイエンティストの育成と業界の健全な発展への貢献、啓蒙活動を図るためデータサイエンティスト協会の立ち上げに参画し、私が代表理事を務めているほか、当社でも同年8月には企業と個人のそれぞれに向けた教育研修プログラムも始めています。

羽根 データサイエンティストと聞くと「理系」というイメージですが、ブレインパッドでの採用状況を含め、実際にはどんな方々なのでしょうか。

求められているのはデータ分析スキルだけではない

草野 当社の採用方針でいえば、理系や文系といった制限は全くありません。ただ実際に応募される方の多くは、物理学や農業など研究の中で統計的な考え方を身につけたドクターやマスターの方々で、それまでの研究経験をビジネスの現場に生かしたいという思いが強いですね。もちろん、文系の方の応募もあります。

羽根 採用時にはどんなところを見ているのでしょう。

草野 面接で見ているのは向学心とコミュニケーション能力です。誰かに教わるのではなく、コミュニケーションを取りながら自分で勉強していく力があるかどうかです。

 データサイエンティスト聞くと、データ分析しかしていないように思われるかもしれませんが、データをビジネスに生かすためには、それだけでは機能しません。

 例えば、飲食店における需要予測を支援する場合ですが、店舗ごとに食材の発注量といったデータは店舗のシステムから簡単に得られます。しかし、需要予測の目的が、食材の廃棄を減らすことの場合、どんなタイミングで食材が廃棄されているのかが重要な要素になります。

 ところが、そうしたデータはないので、現場に出向き店内のオペレーションを見たり、休憩時間に担当の方にヒアリングしたりする必要があるのです。ですから、アカデミックな分析スキルに加え、現場でコミュニケーションが図れ、潜在的な課題に気づき、その上で、解決策を導き出せる力が欠かせないのです。

 個人的には、データサイエンティストとは、「データの背景にまで遡って問題を発見し、課題を定義し、全体を考えながら現場レベルの解決策にまで落とし込める人」だと考えています。

 当然、新しい分析手法などもキャッチアップできなければなりませんが、会社が1つひとつ教えていくことはできません。ここでも、自らキャッチアップしていく力が求められます。

羽根 数字を分析するというより、フィールドワークを重ねる文化人類学者のようなイメージです。

草野 ある意味そうかもしれません。データでビジネスを創るという意味では、現場が利用できない結果を提示しても意味がありません。

志度 ビジネスにイノベーションをもたらす仕事とも言えそうです。

草野 その可能性は十分にあります。世の中の多くの出来事の本質はマッチングだと思っています。個々の行動や属性、データなど様々な要素を分析し組み合わせることで新しいモノを創り出すのです。ビジネスモデルだけでヒット作を生み出すことは、もう難しくなりました。

トップ企業でデータを分析していない企業はない

 情報量が飽和していることもあり、個々の質を高めていくような、きめ細かいサービスが求められています。そこで重要になるのがデータ分析です。データを分析し、個々人にマッチしたサービスを提供する。今トップを走っている企業では、多かれ少なかれデータを分析していない企業はありません。新しいモノや仕組みを作るためには、データ分析は不可避な要素です。

写真3:アクティブラーニング代表取締役社長CEOの羽根 拓也 委員写真3:アクティブラーニング代表取締役社長CEOの羽根 拓也 委員

羽根 データサイエンス人材をどのように育成していますか。

草野 先にお話ししたように、特定のスキルを持った人材を採用すれば良いというわけではないので、データ分析に対する素養や指向性のある新卒人材を採用し、オンザジョブでトレーニングしていく形を採っています。

 入社時の研修は3カ月をかけて実施しています。最初の1カ月は、いわゆる社会人としてのビジネス研修、次の1カ月に統計や分析ツールの研修を行います。最後の1カ月は、仮想のプロジェクトに取り組み、提案から受注、納品までを実体験します。仮想といっても、データ分析に利用するデータはリアルに近いデータを使用しています。新卒を採用し始めて8年ほどが経ちますが、今はこの形に落ち着いています。

 仮想プロジェクトで及第点を取れたら、後は実践あるのみです。実際のプロジェクトにアサインし、経験を積んでもらいます。優秀な人材は自力で成長できるので、その場所としてのプロジェクトを用意してあげれば良いのです。

志度 2013年に設立されたデータサイエンティスト協会の大きなテーマの1つが人材育成です。協会では、どのような育成策に取り組んでいるのでしょうか。

草野 正式には2014年1月から活動をスタートしました。この半年間で協会の活動方針を決めるとともに、6月から3つの委員会を立ち上げました。データサイエンティストのスキル定義、約1200人の個人会員に対する有益なコンテンツの提供、事例調査の各委員会です。スキル定義については、かなり進行しているので、2014年末までには何らかの成果を世に問いたいと考えています。

羽根 データサイエンティストのキャリアモデルとしては、どういった可能性が考えられますか。

草野 先日、ある金融機関にお邪魔したのですが、そこでCRO(Chief Risk Officer)という肩書きを持つ方にお会いしました。その会社では、CROがリスク評価に全責任を持っていて、その下に、CDO(Chief Data Officer)を置くという組織体制でした。リスク評価は、次の機会(オポチュニティ)の評価と表裏一体ですが、両者を評価するにはデータは欠かせないという考え方が明確にあるわけです。

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