日本の映画界には地位関係性を利用した性行為の要求が当たり前にあったな、という話

Netflixのエージェント物語を観ています。
シーズン2の最後、カンヌ映画祭での俳優(女性)のスピーチが最高です。

ドラマ自体のテーマが特別そうではなくても、海外ではこのように話の中で女性の権利に関する話題が出てくるドラマや映画がたくさん作られていきます。

https://www.netflix.com/jp/title/80133335

日本ではどうでしょうか。

性暴力の定義が、内閣府の男女共同参画局のHPに書かれています。

性犯罪・性暴力とは

いつ、どこで、だれと、どのような性的な関係を持つかは、あなたが決めることができます。望まない性的な行為は、性的な暴力にあたります。性的な暴力は、年齢、性別にかかわらず起こります。
また、身近な人や夫婦・恋人の間でも起こります。

内閣府 男女共同参画局

地位関係性を利用した性行為の要求

今、フェミニズム映画を作っています。その中で「地位関係性を利用した性行為の要求」について触れています。日本の邦画界では、今も#MeTooは起こっていません。

ある俳優・監督がいます。 彼は商業映画もピンク映画も撮り、俳優もこなします。 7年ほど前、彼の作るピンク映画に出演しました。
きっかけは彼が出演するとあるトークイベントでした。

イベントに行くことを私がツイートしたのだったと思います。
当時の私は、役者をしていたので、監督と知り合う場を求めていました。
ツイートを彼が見つけたのか、私が彼をフォローしたのかは忘れました。その流れでDMが来ました。

イベントに「ミニスカートで来てね」というようなことを言われました。「次作に出演願いたい」とも。
私は「どうしよう、短いスカート持ってないから買わないと」と思いました。

その後、彼の作るピンク映画に出演が決まりました。
本読みの日にお尻を触られ、準備期間中にホテルや彼の事務所のマンションに呼ばれて行きました。避妊もありませんでした。

今のいままで私は、この出来事を「対等な関係で行われたセックスをした話」だと認識していました。 
私は彼に一切抵抗や拒否をしていません。俳優であり、キャスティングされる側の自分に、そんなことできる権利があるとは思っていませんでした。
むしろ、自分から望んでいたかのような反応をしたと思います。そういうふうに教えられました。それも役者の仕事のうちのひとつだと。ほとんどの男性役者には存在しない仕事だと思います。

映画の撮影が終わって、その監督が次の作品の準備などに入りました。
ドラマ作品の撮影現場が私の家から近く、よく家に行っていいかとLINEが来ました。
私は寝ていたり家にいないふりをしました。でも、次の作品には石川はどんな役で出そうか、という話をよくされていたので、完全に無視することができませんでした。
次の作品、というのは商業映画です。

たまに彼がもう寝ているであろう時間を狙って「今なら大丈夫ですけど」と返事をしたりしていました。 返事が返ってこなかったらほっとしました。
私は彼と性行為がしたくなかったので、そう対処していたんだと思います。
とにかく連絡が来て、どうやって断ろうか考えることが苦痛でした。裸の写真や動画を送れとしつこく言われることが続きました。ちょっと無理ですとか言っても送るまで要求されて、数回送ったと思います。

そして、もう芝居を頑張るのをやめようと思いました。芝居をする上で今よりももっと作品に関わりたいのなら、こういうことも芝居以上に頑張らなければいけないのだろうと思って、それが私には長く続けられると思わなかったです。それが2016〜2017年頃です。私が自分のやりたくないことは極力やらない人生を選ぼう、と思い始めた30歳前くらいのころです。

2017年の末に#MeTooしました。
そのときにその監督のことは書いていません。
もう彼のLINEややりとりは気持ち悪すぎて全て消していました。

それから今日まで、なんで日本の役者は#MeTooしないのだろうか、と考えていました。
でも、自分が経験した映画界のことについて、私はきちんと思いをきちんとは書いていないことには気がつけませんでした。

私は自らセックスをしたと思っていたし、やりとりも何も残っていないので私が話すことはないと思っていました。

#MeTooの記事を書いた頃、匿名のアカウントがその監督であろう人をTwitterで告発しているのを見ました。
内容的にその人であったと思います。でも、そのアカウントもすぐにいなくなってしまいました。
その人の話す内容はとても酷くて、暴力的なこともされていました。(怒鳴られたりとか、力づくでのこととか)

それを見て私は、私との行為はセックスだった、何も無理強いはされていない、と思い、私がされたことは被害ではないから誰かが代わりに#MeTooしてくれないか、と思っていました。色々な人から話を聞いた結果、かなり多くの被害者がいるようでした。

彼が大河ドラマに出たり、監督作品のニュースが流れてくるたびに胸が苦しくなっていました。
それは、私が彼にセックスをする同意を取ってもらっていないからだと思います。断れるような関係性ではなかったからだと思います。

なんでこれまで話さなかったのかな?と考えていました。証拠がないし、私はやっぱり抵抗していないので被害とは言えないから、言うほどのものではないと思っていました。それに、名誉棄損とかこわいし。
あれ、でも今の私は別に名誉毀損で訴えられることってそんなにこわくなかったや、と思い出して今書きました。何をこわがっていたんだろう。

当時週刊大衆にその監督の記事が出ていたのに、今はもう見ることができません。
(一応検索するとツイートしていた人がいます。先ほど載せたスクショはこの方のツイート内のものです。問題があるようでしたらご連絡ください。)

その監督はある俳優が性暴力で捕まったときまさに出演中のドラマの監督をしていて、その時がちょうど私の出演したピンク映画が新宿のテアトルで上映で舞台挨拶があり、楽屋で捕まった俳優さんの話をしながら「ああいうのは絶対にやったって言っちゃだめなんだよ」と言っていました。
とても覚えています。

多分多くの俳優が、自分事と繋がっていない#MeToo

日本の邦画界はこんな感じです。多くの俳優は、自分が被害に遭っていることに気がつけません。「地位関係性を利用した性行為の要求」という言葉を知らないと思います。
キャスティング権を握っている人間から性的な行為を要求されても、断らなければ「自分から行った」と思い込み、罪悪感さえ覚えることもあります。

海外で起こっている「#MeToo」は、抵抗しても無理やりさせられたとか、薬を盛られたとか、きちんと断った人がやっていることだと思っている人も多いです。

でも、性暴力の定義をぜひもう一度確認してほしいです。

望まない性的な行為は、性的な暴力にあたります。

つまり、断ることができずに本当は性行為をしたくないけどした人は、性的な暴力に遭った、ということなんです。
断った人を被害者だと見なすことが非常に多く、断らなかった人は「いい思いをした」とか、「だって仕事が欲しかったんでしょ」と言われて、むしろ悪いことをしたかのように責められます。
しかし、性暴力の定義に当てはめるならば、断われなかった人は更に被害に遭っている、ということになるはずなんです。

「だって仕事が欲しかったんでしょ」という言葉。逆に俳優の仕事をしていて仕事が欲しくない人なんているんですか?聞いたことがありません。みんな仕事が欲しくてたまらないはず。
断れなかった多くの人は、すでに女性の俳優の仕事には演技「プラス性的な要求を受け入れること」が組み込まれていることを知っているからだと思います。
「仕事が欲しいから要求を受け入れる」ではなくて、「要求を受け入れないと仕事ができないから受け入れる」という感覚の方が近いと思います。
断ったら、スタートラインにすら立てない。そんな社会が一部の映画界ではできあがっています。「性的な要求を受け入れる」なんていう評価基準が存在しなければ、そんなことわざわざしません。それを作り出しているのは、作り出せるのは、監督やプロデューサー側の人間のはずです。

仕事がほしくて、断れなくてやりたくない性行為をした俳優と、断れないことを知っていてキャスティングを理由に芝居にプラス性的な行為を求める監督。この関係性は対等で、同意が取れるもので、どっちもどっちでしょうか?

監督と性行為をした俳優は、得をしているのでしょうか?本来は芝居もできないやつがセックスして出させてもらってるんだから得をしている?
本来は芝居もできないやつなら、男性の俳優と同じように出さなければいいだけの話です。じゃあ、本来芝居ができるのに監督の性的な要求に答えられない女性の俳優は?誰も性的な要求がされない中でならば、平等に芝居で判断してもらえるのかもしれません。(つまり、今の男性俳優のような状況です。)でも現状、監督が女性俳優には性的な要求をしているという土台がすでにあります。男性と女性が芝居だけで勝負しようとしたとき、すでに環境が全く違います。(そもそも女性監督やプロデューサーが少ない中で、要求されることすら女性ほどは多くないはずです。)

それに、「芝居ができないのに」は誰が判断しているんですか?いろんな人がいていろんな評価基準があります。
私はそのピンク映画の撮影時、芝居についてかなり細かく良い評価をもらいました。(これは監督だけでなくカメラマンからも)役作りのことから色々と、私自身やってて楽しい役だったしやりがいがありました。もちろん細かいダメ出しがなかったわけではまったくありません。しかし、過剰に気を遣って褒められていたとも思えません。

でも、その評価を信じた私が悪いんですか?もし私が芝居がダメなのによいと言っていたのならば、普通に嘘をついていた監督が悪くないですか?
当たり前ですが、「あなたは芝居ができませんが性行為を受け入れたのでキャスティングしますよ」なんて言われません。(というか、今回の場合はキャスティングしたあとの性行為の要求だったのでまた状況も違います。)

そんな業界からなかなか#MeToo作品が出てこないのは当然だと思います。
だから私が自分で作るしかないと思います。

伊藤詩織さんが闘っている中、「なんでみんな後に続かないんだ」と思っていました。
でも、「私のやつは被害じゃないから続きようがない、誰か言ってくれ」とずっと思っていました。

今やっと、映画の脚本を作っていく中で私に起こった出来事を被害として書いてくれて、「性犯罪ではないだろうけど性暴力だったなきっと」、と認識しました。なので書きました。

私が2017年の#MeTooの記事を書いた時、ある女性の俳優からメッセージが届きました。「私はその世界から逃げてしまった。ゆみちゃんの#MeTooの記事に救われた気持ちになりました。ありがとう」と。
あれから4年が経ちました。

撮影準備期間中、若いスタッフの男性と夜ご飯を食べながら話すことがありました。
私が「このあと監督の事務所のマンションに行かなければいけないんだけど、しょうがないんだよね」と言ったら、
「監督のそういうところが本当に許せないと思っている」と、純粋に怒ってくれました。ただ、彼の立場でできることはないのだと思います。
それでも、今思い返すとそういう人がスタッフの中にいてくれてよかった、とも思います。

私が今になってこの話を書いているのは、これだけフェミニズムのことやジェンダーのことを発信していても自分自身の身に起こったことを整理するにはすごく時間がかかるし、理解するのも難しいし、心が考えるのを拒否していた部分があったからだと思います。

このことを自分の心が受け入れてから、私自身すごく混乱しています。
なんでこの4年間、私はここまで考えることができなかったのだろうとか、もう芝居はやめようと思った直接のきっかけだったことを思い出したりとか、いろんなことが今頭の中を駆け巡っていて、この精神状態で果たして向き合って映画を作れるのかとか、でもやらないといけないと思う気持ちとか。

このことが被害かどうか、#MeTooかどうか、今後国際社会が判断すればいいと思います。その監督が「あれは対等なセックスだった」というならばそう主張すればいいと思います。悪いことをしているつもりがないのなら、堂々とそう言えばいい。

「そんなのは一部だ」と思うでしょうか?一部であろうが全体であろうが、どちらでも私はアウトだと思います。
それに、その一部がそんなに小さくないことは多くの俳優が知っているはずです。当たり前ですが、そんなことが一切ないような現場もあると思います。

私が関わった映画の現場も、基本的には健全でした。でも、この監督の現場に関わったことによって、もうやる気とか気力とか、なくなってしまいました。

私は今日、ずっと日本の芸能界や映画界で起こっていること事実をただ記録しておきたいと思いました。

私はフェミニズム映画を、きちんとした労働環境で絶対に作ります。本じゃ届かない、被害に遭い続けている人たちがいるからです。
今後クラウドファンディングなどで資金集めをしていくと思います。その際は、応援していただけたら嬉しいです。

2022.2.24 追記

文中で「日本の邦画界から#MeTooは起こっていません」と書いてしまいましたが、これは間違いでした。申し訳ありません。

2007年に公開された「童貞。をプロデュース」という作品の中で撮影の中で性的な行為を強要されていたと出演者であり俳優・監督の加賀賢三さんが2017年から抗議しています。

『童貞。をプロデュース』強要問題の“黙殺された12年”を振り返る 加賀賢三氏インタビュー<2019年12月12日追記あり>

また、俳優の水井真希さんも、私がフェミニストとして活動始めるずっと前から映画界の性暴力について発信をし続けています。

ただ、どちらの件もあまりにも映画界にいる人たちが静観しているように思えます。いっぱいいっぱいこういうことがあるし、こうやって声をあげ続けているのにずっときちんと対処されていなくて、抗議された監督は何事もなかったかのように新しい作品に起用されたり上映されていく。そんな状態です。

頑張って声をあげてもきちんと取り上げてもらえなかったり、本当にひどいセカンドレイプだらけになったり、どうすれば変わっていくのかわかりません。一人で声をあげ続けるのには限界を感じます。

どうかもうそろそろ、傍観はやめませんか。多くの人が知っているということを、私は知っています。それをみんなも知っているはずです。声をあげてきた人たちを見捨てないでください。

2022.3.1追記

この件ですが、同じ人から被害に遭われた方から連絡が入っています。他にももし同じような被害に遭った方や、話を聞いたことがある、という方は匿名で大丈夫なので石川までご連絡いただけませんか。以下のリンクからお願いします。秘密は守られます。よろしくお願いいたします。

http://ishikawayumi.jp/contact/

また、こちらのアンケートにご協力いただけないでしょうか。

ブログの映画監督についてアンケート

よろしくお願いいたします。

日本の映画界には地位関係性を利用した性行為の要求が当たり前にあったな、という話” に対して6件のコメントがあります。

  1. あみみ より:

    Metoo運動がなかなか続かないですね。
    石川さんのはどう考えても性被害です。
    実名告発を行ってほしいです。
    LINEを消してしまったとのことですが、被害を発表するだけでも社会の風潮からすれば十分に効果があると思います。
    是非、あらためての告発を期待してます。

  2. 古知屋恵子 より:

    性暴力は日常的に潜んでいて、それに慣れてしまうと心が壊れていきますよね。
    芸能界はそういう世界なんですね。ひどい世界。
    みんな勇気を出して声に出さないと変わらない。
    嫌なことを思い出すのは辛いと思いますが、ひとりひとりの多くの声が集まれば変わると思います。
    ありがとうございました😊

  3. いとう より:

    フェミニズムを知ってこれだけ発信している石川さんでも暴力だったと気づかないぐらい、それだけ自然に立場を利用した性暴力が行われていることを知りました。石川さんのように、被害にあった方が勇気をだして発信してくれることで、今被害を受けている人、加害している人、傍観している人が「これは暴力だ」「許せないことなんだ」ということに気づいてほしい。また、私達も、映像の業界は特別で私達とは違う世界だから・・とそこで行われている性暴力(だけでなく長時間労働とかパワハラとか、他にもたくさん問題はあるのでしょうが)に無関心であったのではないでしょうか。

  4. みみ より:

    こんにちは

  5. ゼロ より:

    当時の出来事を公表、問題提起する貴方の大きな勇気を誰も揶揄してはいけないです。
    当事者が声を上げられない世の中である限り、芸能界に限らず日本の未来は暗いでしょう。
    他の誰かに言って、行動してほしいの思考のままだと変わるスピードに期待出来ません。
    発信していく石川さんが孤高するので無く、それはおかしいことなんだよと健全な輪が大きく広まりますように

  6. 匿名 より:

    こんにちは。はじめまして。あの監督の件で、すごく気になって、頭から離れず、いろいろ自分で記事やツイートを遡り、このブログに辿り着きました。
    私はこの監督じゃないのですが、しかも映画界ではなく演劇界なのですが、似たようなこと(というかセクハラといわれるような事)がありました。本当に辛いというか悲しかったし、怒りがすごくありました。
    その舞台では、セクハラとは別件で離れざるを得なくなりました。コロナ禍だったので、当時の、そこに対する価値観の違い、みたいなことだったような気がします。
    その現場ではセクハラは当たり前みたいな雰囲気で、稽古中も、先輩女優さんたちも、「ああいうのは笑ってかわせるようになんないとね〜」とおっしゃってて、
    「あ、そういうもんなんだ」と受け入れようとしてたものの、「いや、は?ありえなくないか?」と心の中では思ってました。
    すごく濁しながらコメントしてるので、分かりにくいかと思いますが、いつか自分も心の準備ができたら発信したいです。

    それで、私はその団体と関わるのをやめ、もうあの人たちを見るのさえも嫌で、しばらくTwitterなど見るの控えたり、ずっと使ってたアカウントを消しました。

    だけど、それから、やっぱり演劇がしたくて、お芝居がしたくて、徐々に自分のペースではじめられることができて。その矢先、
    あの公演(私は降板で、のちに再演されました)関連で、とある形で、めちゃめちゃ有名な演劇賞をとったってのをTwitterで回ってきて、知って、本当に、なんとも言えない気持ちになりました。それから、賞がどんなにくだらなくて意味のないものか、とも思えてきました。

    まだあまり整理つけないのですが、
    こうして発信し続けてくれる方々がいるということ、本当に救われたし、希望になりました。
    ありがとうございます。

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